【新型コロナ】塩野義製薬社長が語る「国産ワクチン・治療薬メーカーの役割」
─ 長期的な戦略で手を打つ必要がありますね。
手代木 その通りです。高性能マスク、抗生物質、ワクチンなど感染症対策に必要な物資を一定量は国内生産で確保するといった考え方が必要です。
CEPIという、感染症流行対策イノベーション連合も「G7の各国はパンデミックが起こったら、100日程度でワクチンを作れる能力を持てるようにしよう」と提案しています。
そうした中、2年後のG7の議長国である日本が「うちはやっていない」というわけにはいかないと思います。
アカデミア、企業、そして厚生労働省を含めた政府が一体となって、持続可能な体制づくりをしていく必要があります。
その体制の中でワクチンや治療薬の製造は民間企業が担う必要があります。一方で、感染症は流行規模の予測が困難であり、昨年、一昨年のインフルエンザが良い例ですが、全く流行しないこともあります。そうなってしまうと、その期間、ワクチンや治療薬の生産を積極的に行うわけにはいきませんし、次の年の生産計画の立案も非常に難しくなります。さらに、ずっと生産をしていなかったら設備も動かないですし、それを作れる人材を育てることもできません。
設備があれば、いつでも作れるというのは大間違いで、常に回せる体制にしておくには、平時からワクチンや治療薬をつくり、国内に設備のない東南アジアの方々に現物としてさしあげるなどの枠組みを作ることも必要です。
そうした枠組みで国内の生産能力を確保し、国として、どういう国々にお渡しするかまで考えておく必要があります。
─ 外交戦略にも大きく関わってくる問題ですね。
手代木 そうです。東南アジアはワクチン接種率が低く、感染爆発が起きています。そうした中で、世界保健機関(WHO)からすれば、「アジアは日本の責任でしょう」というわけです。ところが、その問いに対して、現状、日本はお答えできていないのが現状です。このままでは、日本のアジアにおける位置づけはさらに低下してしまいます。
そうしたことを踏まえると、今回のパンデミックを機に、ワクチン、また半導体なども含めて生活に必要な物資のサプライチェーンを国内に確保するためには、ある程度のヒト・モノ・カネを投下し続ける必要があると考えます。これは、国家の防衛という観点からも必要なことです。
海外企業への1兆円と国内投資1兆円の違い
─ そのためには、まずリーダーが危機感を持つことが大事ですし、国民の意識を変えていくことも必要ですね。
手代木 そうですね。
この間、日本のデフレ問題を取り上げている番組で、若い方に「日本のディズニーランドの入場料は世界で一番安い」と伝えたら「安いのはいいじゃないですか。何が悪いんですか? 」とお答えになっていた。
入場料が安いということは労賃が安いということで、労賃が安ければ、消費に回すお金が少なくてモノが回らない、流れない。ですから、適切なインフレで、頑張った分だけお給料も上がり、経済も成長していくほうがいいわけですが、若い人は「そういうことは誰も教えてくれないし、知らなかった」とおっしゃっていた。
ワクチンにしても、海外企業から1兆円かけて買う。それで安心安全を守れたらいいじゃないかという意見もあります。ただ、その1兆円の中でわが国に落ちるお金は1円もない。すべて国民の血税であるにもかかわらずです。
われわれが国産ワクチンを作れないからというご批判は100%受け止めますが、一方で、この状態が続いていいとは思いません。
