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 NHKだけ映らないようにしたフィルター(イラネッチケー)を付けたテレビを買った人が、NHKと受信契約を結ぶ義務がないことの確認を求めた裁判――。2月24日、東京高等裁判所(広谷章雄裁判長)は、受信料の支払い義務は生じるとして、一審判決を取り消した。NHKを受信できなければ受信設備には当たらないとした、至極まっとうな東京地裁の判決とは真逆だ。どうしてこうなったのか、原告の弁護士にインタビューした。

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【写真】NHKだけが映らない新兵器「イラネッチケー」 意外に小型

 NHKを受信できないようにするイラネッチケーが生まれた経緯については、デイリー新潮「受信料裁判でNHK敗訴 秘密兵器『イラネッチケー』を開発した筑波大准教授に聞く」20年7月1日配信)をご覧いただきたい。

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 一審では、イラネッチケーを付けたテレビについて、NHKと受信契約を結ぶ必要があるのかが争われた。

 争点となったのは、放送法第64条だった。

《第64条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない》

 昨年6月26日、地裁は「NHKを受信できない以上、受信契約を締結する義務はない」との判決を下した。イラネッチケーを付ければ、NHKを“受信することのできる受信設備”ではなくなるのだから当然の話である。ところが、一審を不服としたNHKは控訴。逆転判決が下されたのだ。原告代理人の高池勝彦弁護士に聞いた。

逆転敗訴

高池:高裁は一審とは真逆の結論でした。例えNHKが映らなくても、電波を増幅させるブースターを使えばNHKを視聴できるから、契約義務が生じるというのです。わざわざお金を払って、イラネッチケー付きのテレビを購入した人が、なんでまたお金を払ってブースターを付けるなんてことがあるわけがない。まったく理解できない理屈ですね。

――判決を逆手に取れば、NHKどころか民放も映らないモニターディスプレイでも、チューナーを付ければNHKは映るはず。だから、受信契約の義務は生じるということだろうか。

高池:そういうことでしょう。見た目がテレビ然としていれば、契約義務が生じるとなりかねない。不見識とも言える判決ですよ。放送法64条から大きく逸脱した判決なのですから。

NHKの主張に乗った高裁

高池:今控訴審は、いわゆる1回結審でした。一審で出された訴訟資料に加え、NHKから控訴理由書、それに対してこちらから答弁書を提出しただけです。ですから、いわゆる原告と被告が法廷で主張を言い合うみたいなものはないんです。一般的に、1回結審の場合、一審判決が覆されるケースは少ないはずなんですが……。

――にもかかわらず、覆ってしまった。

高池:まあ、高裁は最初からNHKの主張に乗るつもりだったということです。NHKは公共放送が設立された意義を申し立て、民放との二元体制の維持を主張しました。スポンサーを付けた民放に対し、スポンサーに影響されず受信料で賄われるNHKという2本があってこそ、バランスの取れた放送ができるというわけです。高裁もこの二元体制の維持に同調し、そのためには公平に支払わせるというわけです。

――NHK設立の意義にまで踏み込むならば、NHKの現状についても少しは考慮すべきだろう。そもそもイラネッチケーは、NHKの偏向放送に嫌気がさした筑波大の掛谷英紀准教授が開発したものである。コロナ禍においても安定した受信料を得るNHKは、民放から“民業圧迫”と言われるほど肥大してきた。スポンサーに作用されないにもかかわらず、高視聴率を狙ってバラエティ番組を制作したりしている。バランスの取れた二元体制が維持できているとは言えない状況だ。

高池:二元体制がそこまでして必要というなら、テレビを所有しない人からも受信料を取ったらいい。でないと、今回の判決である、NHKが映らなくても契約義務が生じるという理屈は成り立ちません。高裁の判決文には、受信料について《現実に控訴人”編集部註:NHK)の放送を受信するか否かを問わず、”中略)控訴人が上記の者”同:受信設備設置者)ら全体により支えられる業態であるべきことを示すものにほかならない》とある。受信しようが受信しまいが払えと言うのですからね。

――これでは、受信料は税金と同じである。

高池:高裁は“特別の賦課金”と言っていますから、ほぼ税金ですね。また、戦前の放送法”旧法)では受信料は強制だったことを踏まえると、現行放送法も強制できるとしています。戦後、放送法が改正される経緯を踏まえれば、私にはとてもそう考えることはできませんが。税金のように全員から徴収すれば、1人1人の負担も少なくなるかもしれませんよ。

――しかし現在、NHKへの不満は、受信料の額の問題ではなくなっている。視聴した分だけ払うスクランブル化を望む声が多くなっている。

高池:確かにそれが最も公平でしょう。ただし、スクランブル化するには法律を変えなければなりません。むろん、そうなれば確実に収入の減るNHKとしては、絶対に認めようとはしないでしょうね。

――現行法のもと、NHKは取りっぱぐれのないよう、裁判を続けているというわけか。

高池:今回、第1回期日の昨年11月2日で結審となり、判決の出た2月24日まで4カ月近くかかりました。普通は2カ月ほどですから、少し長くかかりましたね。おかげでNHKは、2月初めに、同様にイラネッチケーを取り付け裁判となり勝訴した高裁判決を書証として提出してきました。通常、結審したら出してはいけないはずなんだけどね。

――NHKも必死なのだろうか。

高池:もちろんです。受信料の関わる裁判で、NHKが負けたのはこの裁判の一審が初めてでしょうからね。控訴理由書には、もし一審の判決がまかり通るなら、NHKの根幹を揺るがすことになるとまで書かれています。もちろん、開発者の掛谷先生が言うように、イラネッチケーは誰もが簡単に取り付けられるものではないので、NHKの根幹を揺るがすようなことにはなりません。それでもNHKは、たった1例も見逃してはならないと必死になっているのです。

――全力を賭け、NHKは一審をひっくり返したわけだが、

高池:もちろん上告します。高裁で負けると最高裁では難しいことは事実ですが、このままではNHKのためにも良くないでしょうから。

デイリー新潮取材班

2021年3月4日 掲載