NHKアナウンス室長ですら驚くほどの仰天人事だったという。2月10日、NHK「ニュースウオッチ9」の有馬嘉男キャスター(55)と、「クローズアップ現代+」の武田真一アナ(53)という“二大看板”の降板が発表されたのだ。局内では関係者がこう囁きあった。

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「菅政権の怒りを買った2人が飛ばされた――」

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 経済部出身で、シンガポール支局長などを経て17年に「9」のキャスターに就任した有馬氏。ロマンスグレーに穏やかな語り口が人気を博した。

「政治や国際情勢など、多岐にわたる分野をいつも熱心に勉強していた。番組への思い入れも強く、本人は今年以降も続投に意欲を燃やしていたのですが……」(有馬氏の知人)


有馬嘉男キャスター

 有馬氏の降板にあたっては、サンスポが〈本来は昨年、桑子真帆アナが9を卒業した際、有馬氏も一緒に退く意向だった。しかし、桑子アナの後任の和久田麻由子アナを育成するため、一年間の続投となった〉と報じた。しかし、局内でそのストーリーを信じる職員はいない。

「今年は東京五輪や衆院選という大きなイベントを控えている。大事な年に、安定感と人気を兼ね備えた有馬氏を代えるのはデメリットしかない」(NHK関係者)

有馬氏の質問で明らかにムッとした菅首相

 有馬氏の降板をめぐって取り沙汰されているのが、昨年10月26日の臨時国会開幕日、菅義偉首相が生出演した際のやりとりだ。有馬氏は、炎上していた日本学術会議をめぐる問題で、菅首相に質問を重ねた。菅首相は最後には明らかにムッとした様子で「説明できることと、説明できないことがある」と述べた。

「このやりとりを受けて、放送直後から、山田真貴子内閣広報官が原聖樹政治部長に対し、有馬氏の質問内容に抗議した――という話が局内で広まったのです。実際、原氏は後になって周囲に『山田さんに怒られて大変だった』と漏らしていました」(NHK中堅職員)

 12月12日には朝日新聞が、坂井学官房副長官の会食時の発言として「所信表明の話を聞きたいといって呼びながら、所信表明にない学術会議について話を聞くなんて。(略)NHK執行部が裏切った」と語ったことを報道。菅官邸のNHKへの怒りは周知の事実となった。このころから、局内では水面下で“有馬降ろし”が始まったという。

「辞めさせられそうだ……」

「各局の夜のニュース番組は、『news23』(TBS系)の小川彩佳アナや『news zero』(日テレ系)の有働由美子アナなど、軒並み女性キャスターがメイン。そのため、前政治部長の山口太一編集主幹が『9も和久田アナをメインに据えるべき。男性キャスターは補佐役で良い』と言って、局内で根回しを始めたのです。有馬氏を降板させれば、官邸の人事介入やNHK側の忖度が疑われるのは自明だったため、カモフラージュの意味合いもあったのでしょう。山口氏はこうした小細工を思いつくタイプではないため『菅官邸と近い正籬聡副会長や小池英夫理事の入れ知恵ではないか』と冷ややかに見られていました」(前出・NHK関係者)

 こうした動きを察知したのか、昨年11月頃から有馬氏は周囲にこう漏らしていた。

「辞めさせられそうだ……」

 そして事実、有馬氏の降板が決定したのだ。

 後任には元ワシントン支局長の田中正良氏の就任が発表されたが、こちらもドタバタの起用だったという。

「田中氏は今夏の人事で国際部長か中国総局長への異動が確実視されていた。ところが有馬氏の降板で、急きょ白羽の矢が立ったのです。ただ、4月からの新体制では山口氏の根回し通り、和久田アナがメインとなり、田中氏は補佐役に回る予定です」(同前)

 一方、有馬氏の次のポジションは未定だという。本人は何を思うのか。放送を終えた有馬氏を直撃した。

有馬氏は直撃取材に「答えられないよぉ」

――「9」降板について。

「答えられないよぉ。申し訳ない。ゴメン!」

 有馬氏はそれだけ言い残すと、その場を立ち去った。

 これだけではない。じつはもう一人、政権の怒りを買ったとされる意外な人物がいる。NHKのエース・武田アナだ。

「08年から9年間『ニュース7』のメインキャスターを務めたほか、19年には天皇の『即位の礼』関連番組で進行を担当するなど、名実ともにNHKの“顔”。『たけたん』の愛称で親しまれ、昨年12月の『好きな男性アナウンサーランキング』(オリコン調べ)では、フリーの羽鳥慎一アナに続く2位に選ばれました」(NHK局員)

 17年からは、NHKの看板番組である「クローズアップ現代+」のキャスターを担当。だが、今回の人事で降板と大阪放送局への異動が決定、新たに情報番組「ニュース きん5時」を担当することが発表されたのだ。

「そもそも看板番組のキャスターをコロコロ替えるのは、決して得策ではない。なのに、武田氏をわずか4年で交替させてしまった。後任は井上裕貴アナと保里小百合アナが務めることになっていますが、格落ち感は否めません」(同前)

 武田アナにとっても青天の霹靂だったようだ。

「武田アナは熊本高校の同級生だった妻との間に2人の息子がいますが、家族仲がとても良い。息子の小学校の入学式のために、自分のネクタイを子ども用サイズに作り替えたり、手提げカバンを自ら縫ってあげたほどです。ところが今回の異動で、武田アナは単身赴任をすることになったらしく『あり得ない……』と嘆いていたそうです」(同前)

 なぜエースアナが東京を離れることになったのか。じつは武田アナをめぐっても、ある“事件”が起きていた。

二階幹事長インタビューで“事件”は起きた

「1月19日放送の『クロ現+』で、自民党の二階俊博幹事長をインタビューしました。このときのやりとりが“虎の尾を踏んだ”と囁かれているのです」(前出・NHK関係者)

 テーマは新型コロナ対策だった。武田アナは、いつもの穏やかな調子で「政府の対策は十分なのか。さらに手を打つことがあるとすれば何が必要か」と質問。すると二階氏は「いちいちそんなケチをつけるもんじゃないですよ」と凄んでみせたのだ。

「武田アナはこの質問で、政権の実力者である二階氏の不興を買った。その直後に突然の降板となれば、訝しむ声が上がるのは当然です」(同前)

「クロ現」と菅首相には浅からぬ因縁がある。23年間にわたりキャスターを務めた国谷裕子氏が14年、集団的自衛権の行使容認について、官房長官だった菅氏に鋭い質問を投げかけ、それを契機に降板になったというのが定説だ。

 武田アナの降板も、政権への忖度が働いたのか。有馬氏が「辞めさせられそうだ」と漏らしていた件も含めてNHKに尋ねると、「ご質問のような事実はありません」と書面で回答があった。

 有馬氏は降板発表後、周囲に「NHKがどう見られてしまっているか……それが情けないところ」と語っていたという。前出のNHK関係者が嘆息する。

「菅政権はNHK改革に前のめりです。ブレーンの高橋洋一内閣官房参与が『Eテレ売却案』をぶち上げたほか、菅首相自らも先月、国家運営の大方針を示す施政方針演説で『受信料の一割引き下げ』に言及した。そんな菅政権の幹部に物を申した有馬氏や武田氏を今降板させれば、世間からどう見られるかは明らかでしょう」

 菅政権への忖度は本当にないのか。今後の報道姿勢が益々注目される。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年2月25日号)