仕事をしていると、ついつい「100点」を目指してしまいませんか?

そのせいで仕事が遅くなってしまったり、疲れてしまったり。もう少し力を抜いて仕事に向き合うことはできないものかと頭を抱えていたところ…

女優・広瀬アリスさんが、「本番は、100点でなく80点を狙え」という持論をもっているとの情報を発見。

直接この真意を聞くことができれば、マジメすぎる筆者でも力を抜くヒントが得られるのでは…!? そんな期待に胸を膨らませつつ、今回はアリスさんに取材をお願いしました。

結果、想像を軽くぶち抜いていくアリスさんの完璧主義っぷりと、目から鱗すぎる「完璧主義を卒業する方法」を聞けることに。

アリスさん、いろいろとすごいお方でした。

〈聞き手=サノトモキ〉


【広瀬アリス(ひろせ・ありす)】1994年生まれ、静岡県出身。2009年、女性ファッション雑誌『Seventeen』の専属モデルオーディション「ミスセブンティーン」でグランプリを獲得後、妹の広瀬すずさんと姉妹揃ってセブンティーンモデルとして活躍。テレビドラマ、舞台等を中心に女優業を中心に活動している

サノ:
今日は「100点」を目指してしまう完璧主義者の苦しさについて相談したいんですけど…

アリスさんって、本当に完璧主義なんですか? 言っときますけど僕…相当ですよ?(突然のマウント

アリスさん:
私も相当…だと思いますよ?(笑)



アリスさん:
たとえばつい最近も、全45公演の舞台「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」に丸1カ月出演していたんですけど…

私、本番前のルーティーンが全部決まってるんですよ

サノ:
それは、「大勝負の前は必ずこの曲を聴く」みたいな話ですか?

それならぼくも…

アリスさん:
あっいや、朝起きてから本番開始までのすべての行動が、完璧に決まってるんです。


ん…?

アリスさん:
朝起きて、朝ごはん食べて、ワンちゃんと遊んで、支度をして、家を出て、劇場に着いて、筋トレやって、ストレッチして、本番。

本番までに、何を、いつ、どの順番でやるか、全部キレイに決めて、45公演全部同じルーティーンで過ごしました。

サノ:
え…

アリスさん:
筋トレや着替えの時間には必ず音楽を流すんですけど、聴く曲も聴く順番も毎日同じ。

細かいところまで含めて、ルーティーンがちょっとでもズレたらもうその日はダメ。めんどくさいんですよ私は…


「……」

アリスさん:
えっ、なんかちょっとヒいてません?

サノ:
想像を軽くぶち抜く、正真正銘の完璧主義者だったもので…

アリスさんになら安心して相談できそうです。

完璧主義者は「減点法式」。失敗しないことが目的に…



サノ:
ということは、アリスさんも「仕事は100点じゃなきゃいけない」という人なんでしょうか?

アリスさん:
ガッチガチの100点狙い勢でした。



アリスさん:
完璧主義者って「減点法式」なので、「ノーミスでできたかどうか」だけで仕事のデキを判断していて。

サノ:
うわ、めちゃくちゃわかる…

アリスさん:
仕事をしていても、悪かったところだけ数えちゃうんですよ

ここ間違えた、あそこもダメだったって減点していって、残りの点数を見てすごい落ち込んで…

そんなネガティブな視点で毎日を繰り返していたら、どんどん「失敗しないこと」がゴールになっていっちゃったんです


あるあるすぎる

アリスさん:
お芝居も、全セリフを徹底的に暗記して、本番は1カ所も噛んだり間違えたりしないことだけに全意識を集中させていたんですね。

それで、自分なりに「100点だ!」って思えることが多くなっていったんですけど…あるとき、気づいたんです。

「あれ? 私が褒められてるの、自己採点が低かったときばっかじゃない?」って。

サノ:
ん? つまり、自分では100点だと思ったときは褒められなかった…?

アリスさん:
そう。先月の舞台は三谷幸喜さんが作・演出だったんですけど、私が100点に近いと思ったときほど三谷さんの反応は「今日、どうしちゃったの?」って感じだったんです。

反対に、自分的にはダメだなあと思ったときに限って「今日すごくよかったです!」って言われることがけっこうあって。

サノ:
…!

アリスさん:
何度もそういう経験をするうちに、「これは、私の設定してた“100点”を疑えってことなんじゃないか?」と思うようになったんですよね。


これは、めちゃくちゃ大事な話が始まりそうな予感

「失敗するかしないか」にこだわってる時点で、たかが知れている

アリスさん:
結局、「お前の考える“100点”なんて、たかが知れてんだぜ」ってことに気づけるかどうかだと思うんですよ。



アリスさん:
「たかが自分」が設定した100点なんて、まわりが求めているものとはどっかズレてると思ったほうがいいんです。

私にしても、「失敗するかしないか」という枠のなかで満点をとろうとしていたけど、冷静に考えてみれば、三谷さんが役者に「失敗しないこと」だけを期待してるわけがないですよね。

サノ:
たしかに。

アリスさん:
完璧主義って、いい部分もあると思うんです。こだわりが強いとか、納得できるまで徹底的に頑張れるとか。

でも、「“たかが自分”が設定した狭い世界のなかでわちゃわちゃしがち」っていう、めちゃくちゃもったいない弱点も抱えてるんだなって気づいて。



アリスさん:
それ以降は、本番に臨むときに必ず“余白”を作るようにしました。

サノ:
それが、100点じゃなく80点を目指すようになったというお話ですか?

アリスさん:
はい。ベースは押さえつつも、「自分の想定通りの本番」にならないようにしようと思ったんです。

私が100点だと思ったものがまわりから見たら100点じゃないなら、自分の想定通りにいかないようにしなくちゃダメなので。


それ、ある意味めちゃくちゃストイックだな…

アリスさん:
でも、実際に80点を目指すようになったら、すっと肩の力が抜けて、視界がぐっと広がったんです。

その瞬間だからこそできることや、今まで無視していた、うまくできた「80点」の部分にも目がいくようになって。

サノ:
たしかに、自分で考えた「100点」だけに目が向いてるうちは、それが天井になっちゃってなかなか次のステージに進めないのかも…

アリスさん:
そうなんです。そこに気づけただけでも、「100点」を諦めてよかったなって心底思ってます。



完璧主義の自分を信じて、「頑張らない時間」を作れ

サノ:
でも、力を抜こうと思っても、根が真面目だとなかなか行動には移せなかったりしませんか?

気づいたらめっちゃ100点目指しちゃってるというか…

アリスさん:
めっちゃくちゃわかりますよ。私自身、今でも根は完璧主義なんで。

ベクトルを変えようとしても、ちょっとずつ軌道修正してもとに戻ってきちゃう(笑)。



サノ:
ですよね!?

結局僕らは永遠にこの道をいくしかないのか…

アリスさん:
いや、私たちみたいな頑固な完璧主義者は、それこそルーティーンを作っちゃえばいいんです。

サノ:
ルーティーン?

アリスさん:
私、以前はルーティーン中ずーっと演技のことが頭のなかでぐるぐる回ってる状態で、「絶対ミスしない!!!」って…もうホントに頭ガッチガチの状態に仕上げて舞台に出てたんですね。


逆に本番頭真っ白になっちゃうやつだ

アリスさん:
でも今は、ルーティーンの時間を逆に「何も考えない無の時間」として使っていて。

「これ以上考えても仕方ない」って言い聞かせて、頭空っぽの状態でルーティーンを過ごして、本番直前に無理やり「頑張らない時間」を作ったんです。

そういうふうに決めちゃえば、諦めがつくじゃないですか。

サノ:
でも、「ホントに大丈夫だっけ…?」って不安になりません?

アリスさん:
そこはもう逆に…「完璧主義者である自分」を信じましょ?



アリスさん:
完璧主義の人間は、どうせちゃんとやるんですよ(笑)

当日考えられないなら、前日までにちゃんとやるのが私たちじゃないですか。心配しなくても、どうせちゃんと頭に入ってるんです。

私、当日何も考えなくなってからのほうがはるかに頭が整理された状態で本番に挑めてますもん。

サノ:
「どうせちゃんとやる自分」を信じて、本番直前にはそれ以上考えないルーティーンを用意する、か。

目から鱗すぎるし、めちゃくちゃよさそうだぞ…!

最後にアリスさんから突然のオススメが…

アリスさん:
あとはもう、本番前にバイオレンス漫画読みましょうよ


突然どうした

サノ:
アリスさんがバイオレンス漫画お好きなのは知ってるんですけど…

どういう展開ですかこれは…

アリスさん:
バイオレンス漫画って、だいたい登場人物が理不尽な状況に巻き込まれていくんですよ。

それくらいぶっ飛んだ作品に触れたら「人生なんて想定通りにいかないんだな」って開き直れるかも!

サノ:
そ、そういうことですか!

でも僕バイオレンス系は『ひぐらしのなく頃に』あたりが限界なので大丈夫でs…

アリスさん:
あっもうかわいいですね。

『リバーシブルマン』とか、理不尽中の理不尽でオススメですよ。

人間のなかから服を脱ぐように人間が出てくる“ウラガエリ”という現象があるんですけど、“ウラガエリ”して正気を失った人間がまともな一般人をバンバン…


なにこれ全然止まんない

アリスさん:
…それでね、バイオレンス系の何がいいって、「人間の内側にある普段見られないものを見られるところ」なんです。

採血で赤黒い血がピュッて上がるのを見る瞬間みたいな。血って赤い鮮やかなイメージがあるけど、本当は私たちの身体にはもっと黒い血が流れているのに普段それを見ることはない…

それって、面白くないですか?


いや、僕点滴で失神するタイプの人間なのでもう大丈夫です

サノ:
ぼ、僕は僕なりの、完璧主義をぶっ壊すルーティーンを探してみようと思います!

今日はどうもありがとうございました!(早口)


真面目な話から楽しい話まで、ありがとうございました!

「お前考えてる100点なんて、たかが知れてんだぜ」。

この言葉、完璧主義な自分をひっくり返す最強の自己暗示のような気がしました。

つい仕事で「100点をとらなきゃ」といっぱいいっぱいになってしまったときは、アリスさんの言葉を思い出しながら、「これ以上考えないルーティーン」を作ってみようと思います。

なお、取材後恐る恐るアリスさんオススメの『リバーシブルマン』をレンタルしてみたところ…めちゃくちゃイケました。

自分で天井決めちゃ、ダメですね!

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns) /編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉

10月28日から「東京国際映画祭」スタート!



そんなアリスさんは今回、世界中から、他では見られない約200本もの秀作が集結する「東京国際映画祭」のフェスティバル・ミューズに抜擢!

今年の映画祭の「顔」として、オープニングイベントにも登場。たくさんの国際的ゲストや映画人とともに、広く映画の素晴らしさをアピールします。

肩の力を抜いてくれるような、はたまた100点を目指してしまう真面目さを吹き飛ばしてくれるような刺激的な作品との出会いが、みなさんにも待っているかも…!?

ぜひチェックしてみてください!

[会場]東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場(千代田区)ほか
[開催期間]10月28日(月)〜11月5日(火)

第32回東京国際映画祭(2019)
https://2019.tiff-jp.net/ja/