東南アジアの女性は、「中国人の女性よりやさしく従順で女性らしい」と中国人の男性の人気の花嫁候補となっており、違法な人身売買による拉致強制結婚が急増している(筆者撮影)


 中国のウィグル族への弾圧が国際問題となっている。

 さらに、中国による拉致強制結婚問題が、東南アジアに深刻な人権問題をもたらしていることも明らかになってきた。

 今年5月、中国・雲南省昆明の公安局は、雲南省とベトナム国境地帯でベトナム人女性を拉致し、中国国内への人身売買を行ってきた中国人容疑者23人を逮捕した。

 雲南省の国境地帯を経由して、少なくともベトナム人女性11人が、中国に人身売買された実態が明らかになった。

 同公安当局によると、警察官が昆明鉄路局管轄の河口北駅の待合室で、乗客が購入した切符に印字された情報と身分証明書情報との照合確認を行っていた際、この女性の情報が一致しないことが発覚した。

 中国では鉄道乗車券を購入する際、名前と身分証番号の登録を求められる。乗車券にもその情報が印字されていて、他人の切符で乗車することができない。

 不信に思った警官が職務質問すると、その女性は中国語を全く話せないばかりか、恐怖で体を振るわせ、凍りついたような表情をしていたという。

 一方、その女性に同行していた中国人の男は慌てふためき、警察官が女性に質問するのを遮ろうとしたものの警察官に止められた。取り調べの結果、次のような実態が明らかになった。

 その女性は、別の男性の中国人の妻として3万元(約48万円)で「買われた」ばかりのベトナム人女性であることが判明。

 さらに、女性によると「ベトナムから拉致され、中国に強制的に連行された」ことも分かった。

 東南アジアで15歳以下の児童や若い女性を拉致して中国に連行、中国人男性と強制的に結婚させる違法な「花嫁売買産業」が、中国の経済発展とともに巨大産業になっている。

 中国当局の調べでは、中国人男性と結婚するベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーなどの東南アジア女性は、年間数万人以上に達する。

 さらに、中国南部の広東省、雲南省、貴州省などには、闇組織の仲介業者に秘密裏に登録されている花嫁予備軍のASEAN(東南アジア諸国連合)の女性が3万人、4万人いるともいわれている。

 今年6月、国連が国際的人権組織のアムネスティ・インターナショナルとの共同調査で、児童を拉致して強制結婚させるなどの犠牲者は、世界で7憶6500万人にも上ることが明らかになった。

 国連規定や国際法では、双方同意の有無に関係なく、金銭と交換により結婚目的で国外に連れ去られた場合、人身売買等の罪に問われる。

 中でも中国はその犯罪確率が極めて高いことで知られ、その実態は年々深刻化している。

 生まれ故郷から数千キロも離れた言語や文化が全く違う場所に連行され、孤立無援で性的虐待や暴力を振るわれるケースがほとんどだ。

 拉致された女性は、「倉庫入り」と呼ばれるデートサイトや微信(ウィーチャット)にまず写真が掲載され、ブローカーが男性らに売り込んでいくという。

 先の昆明での事件では、昆明公安局の捜査の結果、河南省の中国人男性数人が、雲南省のベトナム人女性1人につき4万〜8万元(約65万〜130万円)で常習的に「買わせて」いたことが新たに判明した。

 背景には、巨大な犯罪グループによる花嫁売買産業の存在がある。

 拉致したべトナム人女性を中国に入境させた後、中国人ブローカーによる仲介で、河南省や雲南省などの未婚の中国人男性に“売って”いたのだ。

 中国公安省は中国全土での強制捜査で、人身売買組織を摘発。中国人容疑者約600人、犠牲者の未成年者約180人を救出した経緯があるが、「現状は、モグラたたき。氷山の一角に過ぎない」(アムネスティ・インターナショナル)という。

 一方、パキスタンでも同連邦捜査局が5月、少女たちを拉致し、強制結婚という形で中国に入国させ、実際には売春を強要した容疑で中国人8人を逮捕した。

 捜査当局は「捜査が進むめば、逮捕者がさらに増えるだろう」と危機感を募らせている。

 こうした違法な人身売買産業を後押ししているのは、中国の農村地帯における花嫁不足だ。

 40年近く続いた一人っ子政策により、働きと手として男児を好む中国では男女の人口比に深刻な偏りが生まれた。

 男性は女性より約3400万人多い(2018年統計)。その結果、中国人女性との結婚が望めない男性が数千万人以上に達するといわれている。

 そのため、拉致などの違法手段に訴える以外に、東南アジアに花嫁を“買いに行く”「お見合い結婚ツアー」が活況を呈している。

 中国のネットには、「東南アジア妻5万元」「3か月以内の結婚可。原則、処女。1年以内に嫁が逃亡した際、別の嫁紹介の3大保証つき」などと、公然と人身売買の広告が掲載されている。

 結婚できない男性は中国の農村地帯だけではない。

 最近では経済発展に伴う女性の地位向上による、高学歴で自尊心の高い中国人女性を嫌い、従順な東南アジア女性を好む都市部の中国人男性も増えてきたという。

 ミシガン大学のワン・ゼン教授は、「中国人女性の花婿条件は『持ち家』『自家用車』『高収入』といった物質的な条件が挙げられる」と話す。

 一方、東南アジア女性は「中国人女性に比べ、お金や権威などに執着心がないのも、この花嫁売買ツアーの人気」(東南アジアの社会学者)の背景の一つらしい。

 東南アジアへのお見合いツアーは約1週間でベトナムやカンボジアなどを回る。1週間で200人以上の花嫁候補と見合いができ、気に入れば即、結婚も可能という。

 ベトナムの人権団体によると、「最大商業都市のホーチミンには、連日100人以上の中国人が花嫁を物色しにやって来る。その数は増える一方」だという。

 お見合い結婚ツアーと言えば聞こえがいいが、実態は人身売買ツアーで、東南アジア女性は、自分の意思と関係なく、結婚を強制させられる場合がほとんど。

 嫁に来る数が多ければ多いほど、嫁の逃げる数も多い。

 花嫁は18歳以下の未成年の場合がほとんどで30歳近い年の差結婚も少なくない。そのため、結婚後わずか1週間で東南アジアの花嫁に逃げられるケースが後を絶たない。

 というのも、女性たちは仲介業者から高額な給料が期待できる「出稼ぎ」と偽りの勧誘を受けているケースが多く、お見合いすることになって騙されたことに気づくからだ。

 まさに「お見合いという名の人身売買」というのが実態で、言葉も、文化も違う異国に強制的に連行され、耐え切れず逃げ出してしまう。

 こうした実態を把握していながら、中国政府はこれまで見てみぬふりをしてきた。

 それというのも、花嫁巨大産業は賄賂など中国地方当局の腐敗、汚職の温床となってきたからである。

 一方、こうした人身売買の深刻化に危機感を募らせるベトナムなどの東南アジア政府は、対策強化や法整備による取り締まりを実施。

 特に農村などでの人身売買撲滅のための教育プログラムや職能訓練を実施するなどの取組みも始めている。

 しかし、貧困問題を抱える一方、実態の把握も困難で、解決策を見出せないのが実情だ。

 中国の人身売買業者らはそこに目をつけているわけで、中国の男女の人口差による危機は花嫁取引の千載一遇のチャンスなのだ。

 ベトナムの警察統計では、約6000件の花嫁売買取引が実施された(2011年から2017年)としている。しかし、この数は実態のほんの一部でしかない。

 花嫁拉致問題を調査してきたNGO「ブルードラゴン・チルドレン協会」の創設者、マイケル・ブロソウスキー氏は、「公表された件数は実態を大きく下回っている。現存のデータ入手は不可能で、当てにならない」と問題の深刻化を訴える。

 こうした中国が関与する人身売買の闇市場は、これまで中国との国境に近いベトナム北部の地域に集中していたが、最近では東南アジア各国に魔の手は忍び寄っている。

 2018年末にはインドネシアでも16人の女性が中国で失踪したことが明らかになり、大きな問題に発展している。

 人身売買闇組織が中国と国境を接しないインドネシアで拉致するメリットは、「拉致された女性が、中国からでは海を越えるのはもちろん、近隣諸国へ逃げるのも到底、無理だからだ」(インドネシア政府関係者)という。

 告発したのは、インドネシアの政党「PSI」のグレース・ナタリー党首だ。

「憂慮すべきは、女性たちが置かれている状況です」と訴え、実態を次のように明らかにする。

「彼女たちは監禁され、窓越しにしか食事をもらえない。頭を怪我した女性の写真もあり、とても心配。彼女たちは中国の遠く離れた場所に閉じ込められているんです」

 ナタリー党首によると、インドネシア人の若い女性たち16人は、家政婦や化粧品販売員としての虚偽の勧誘で、中国に強制的に連行されたとしている。

 家族は地元の警察に通報したが、人身売買は調査が極めて困難。国境を越え、中国のような大陸国に入った後はほとんど調査が進んでいないのが実態という。

 ナタリー党首は、インドネシア政府に実態の解明と調査を要請しているが、いまだ拉致された女性たちは、中国国内に誘拐されたままの状態で、中国語が話せないことから、中国のどこに閉じこまれているかも分からないという。

 さらに、昨今の花嫁売買産業の拡大は、一人っ子政策だけではないという。

 香港科技大学のギーテルバステン博士は「一人っ子政策廃止により、農村部でも2人の子供をもつことができたことが原因」と話す。

 ベトナムの地元メディアによると、ベトナム人女性は中国に拉致され、強制結婚で男児を生んだ後、乳児の授乳も拒否され、家から放り出され、不法滞在で中国当局に逮捕されたケースもでてきているという。

 また、東南アジア女性の拉致強制結婚を調査する「パシフィックリンクス・ファンデーション」は、「男児を生んだ後、(中古品として)別の男性に転売され、工場で強制労働され、給料を巻き上げられる被害女性もいる」と告発する。

「女の子しかいない家庭では、男の子ほしさに2番目の子供を東南アジアの女性に産ませるケースが増えてきている」(前述の東南アジア社会学者)。

 日本ではあまり知られていないが、ウイグル族への弾圧だけでなく、中国の独裁失政による花嫁売買問題は、東南アジアで深刻な人権問題として、今、国際問題に発展している。

(取材・文・撮影 末永恵)

筆者:末永 恵