メッシはドリブルでマークをはがし、相手を引きつけてスペースを創出する。それを味方に提供するだけでなく、自ら利用してフィニッシュまで持ち込むこともできる。 (C) Getty Images

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「スペース」
 
 それはサッカーというスポーツで、最も大事な言葉のひとつと言えるだろう。
 
 空間において、スピードで勝ることができるか――。
 
 そのタイミングで上回る選手が、一流の域に入ることができる。ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタが偉大なのは、まさにそのタイミングを知り尽くしているからだ。
 
 スペースそのものは、どの選手にも等しく与えられているわけだが、実際には、スペースを使える選手とそうでない選手がいる。
 
 基本的に、スペースは占拠されているものだ。システムが4-2-3-1だろうが、3-4-2-1だろうが、とにかくスペースが占拠されてからスタートする。そこから選手を動かし、ボールを動かすことで、スペースを創出する。
 
 スペースを守るか、奪うか、そのせめぎ合いなのである。
 
 例えば、プレッシングのひとつであるゾーンプレスは、各ゾーンに入った選手とボールに蓋し、追い込み、ミスを誘発させる。プレッシングは、スペースを制することが理念のベースになっている。言わば、空間的に敵を追い込む戦術だ。
 
 2016年10月11日、ロシア・ワールドカップのアジア最終予選・オーストラリア戦で、日本代表はプレッシングでスペースの争いに勝っている。前線の選手が相手のCB、SB、アンカーの選手を蓋することで、後ろから繋ぐことを許さなかった。それで焦った相手からボールを奪い、カウンターを発動させ、原口元気が得点を叩き込んだ。
 
 つまり、“スペースの争い”とはいっても、そこは人と人の戦いになっている。
 
「はがす」
 
 そういう専門的な言い回しがあるが、ボールホルダーが一定の空間でボールを奪いに来た選手のマークを外し、前を向くことができたのなら、スペースの支配者として優位にゲームを進められる。
 
 そして自分で持ち運ぶことによって、味方にそれぞれのスペースでアドバンテージを与えられる。さらにワンツーを重ねることで、マークをはがせて、よりゴールに近づけるはずだ。
 
 球際の勝利は、スペースの勝利に繋がる。
 バルセロナは伝統的に下部組織から、サイドには独力でディフェンスをはがせる選手が配置される。その象徴が、リオネル・メッシだろう。1対1で勝ち切れることで、相手のポジション的優位を簡単に崩せる。その優位は、チーム全体に波及する。
 
 例えば、メッシは右サイドから中に入って、左サイドから中にランニングする選手に左足でパスを出すのを得意とするが、相手のマーキングを動かすことによって、味方がアドバンテージを得られている好例だと言えよう。
 
 そして現在の神戸はイニエスタを中心に、この感覚を共有しつつある。
 
「前を向け、というメッセージがパスにあるんです」
 
 神戸の選手たちは感激したように語っているが、ボールを受けに選手が下がり、その背後を誰かが取って、そこにパスが出るという、スペースを創り出してチャンスを創る動きが、自然にできつつある。もっとも、それはまだまだ、イニエスタ次第のところはあるのだが……。
 
 いかにスペースを創出できるか――。そこにサッカーの真髄がある。
 
文:小宮 良之
 
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。