消費者の選択は常に正しいと言われる。親方日の丸にとって、市民は納税者であり有権者であるとともに、消費者でもあるのだが、お役人たちは「難しい試験を突破して公務員になったエリート(笑)である我々が市民を指導する」というはた迷惑な使命感で様々なITシステムを立ち上げては、失敗している。正確にはそれ自体が失敗なのではなく、消費者である市民が選択しなかったということなのだ。

お役所のIT事情を紹介してきた「お役所のお寒いIT事情」シリーズの締めくくりとして、さっぱり普及しなかった幾多の失敗プロジェクトを紹介してみたいと思う。



(1980年代)
○○○計画
IT業界にいる者は、このプロジェクトのことを決して語ってはならないという恐怖都市伝説となったプロジェクトのため伏せ字にさせていただいた。
簡単に言えば、「国産OS開発プロジェクト」なのであるが、国内のほとんどのベンダーが参入し、250億円の国費を投入しながら、何一つ成果を生み出せなかったという玉砕プロジェクトである。現在ではOSが国産であるか輸入ものであるかというのはITにおける重要事ではなくなっているのだが、日の丸OSへの夢はいまだに根強い。
なお、90年代以降において、組み込みOS分野で国産のTRONは一定の成果を上げている。

(1990年代)
インパク
実施されたのは2000年であるが、準備期間は前年の1999年からスタートしている。インターネットにおける先進的な技術を競うインターネット博覧会であり、もちろんインターネットを介して閲覧する。インターネット博覧会、略して「インパク」であるが、これは1970年の万博(バンパク)にあやかってつけられた名称であり、同時にインパクトを想起させる用語でもあったことから、大変縁起がよいとされていた。
しかしながら、当時のインターネット回線は速くてもISDNであり、多くは58kbps程度のダイヤルアップ接続しかできない、いわゆるナローバンドであったため、インパクに展示されている当時としては先進的なFLASHコンテンツなどはとてもまとまな表示には耐えない状況であった。
当時、市民に人気があったのはインパクではなく、各種ポータルや個人サイトであり、経済的な効果を期待されたにもかかわらず、110億円の国費を投入して、ほとんど成果が無く、本来であれば先進技術を競って毎年開催されるべき博覧会は1年で終了した。
なお、90年代に中止となった都市博といい、開催にこぎつけた愛・地球博といい、親方日の丸は景気浮揚策として博覧会とテレビ受像器を持ち出すのが好きである。

EUC
エンドユーザーコンピューティング(End User Computing)の略。主に表計算ソフトの高機能化に伴い、それまで会社のシステム部門が担当してきたシステム開発を、現場の事務担当者自ら行うというのが理想であったが、本当に理想で終わった。理由は、エンドユーザーは日常の業務で忙しく、ExcelVBAなどでのシステム開発などやっている暇はなかったこと、そして、実際にシステム開発を行ったにしてもドキュメントを残さないものだから、担当者の異動とともにシステムが使えなくなると云う致命的欠点があったことである。EUCの推進役として「初級システムアドミニストレータ」という資格が創設されたが、次第にIT部門の補佐役としての役割にシフトしていき、頑張ってシスアドの資格を取った人は、ただの便利屋扱いされる有様であった。2009年からこの資格試験は廃止され、ITの基本スキルを認める「ITパスポート」という試験に変わった。


(2000年代)
ワンストップサービス
もっとも地域に普及している公共施設(当時)である郵便局に、様々なお役所手続きを申請する端末を設置して「一度で用事が済む(ワンストップ)」社会を目指した施策。2000年前後に郵政省主導で進められたが、各省庁の足並みがそろわず、やがて郵政省が解体されてのち民営化されたため、空中分解した。

e-Japan u-Japan
高速インターネット回線網が行き渡り、行政機能の多くが電子化され、さらにいつでもどこでもコンピュータが存在する社会を目指そうという戦略。行政機能の電子化については、この連載で取り上げたとおり、システムだけはできあがったものの利用者が少なく閑古鳥が鳴いている状態である。
さらに「いつでもどこでもコンピュータが存在する=ユビキタス(ubiquitous)社会」については、行政の戦略とは関係なく、かなりの部分がケータイの進化とともに実現され、他にもネットワーク対応家電などで実現している。e-Japan u-Japanは失敗と云うよりは、ユーザー不在のまま戦略構想だけを華々しくぶち上げているもので、市民のITリテラシには個人差があるという事実を、どこかに置き忘れているプロジェクトであった。

なお、断っておくが、失敗それ自体が悪いわけではない。失敗を教訓として新たな展望を開けばよいのである。特に民間ではリスクが高すぎて出来ないプロジェクトを国が率先して行う必要だってあるだろう。ただ、これまでの失敗プロジェクトは、そもそも本当に成功させる気があったのかどうかも疑わしいものばかりである。冒頭に述べた消費者である市民へのサービスという基本を忘れたプロジェクトは今後も懲りずに立ち上がるであろう。

(編集部 石桁寛二)

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