この記事をまとめると

■エンジン性能の土台となるのはトルクである

■馬力はトルクと回転数から算出される数値だ

■HPやPSなど馬力表記には複数の規格が存在する

速さを決めるのは馬力だけじゃない

 クルマに興味をもつ人間なら、動力性能に大きくかかわるエンジン性能に関して、誰もが大きな関心をもっているだろう。ハイパワー/ハイトルクなエンジンは、そのこと自体が動力性能のゆとりを表している。だが、もう少し本音に沿っていうと、速いクルマであることを端的に意味しているからだ。

 エンジン性能が、クルマの価値そのものだとはいわないが、歴史的に高性能エンジンが好まれ続けてきた(クルマ好きの憧れだった)ことは疑いようもない。高性能エンジンによって速く走れるクルマ、鋭い加速力をもつクルマはマニアにとって垂涎の存在である。

 さて、エンジン性能を示す要素だが、これはいわずと知れた出力とトルクになる。では、出力とトルクの意味の違いを正しく理解しているだろうか。クルマ好きの間では、出力が性能比較の基準としてよく語られているが、トルクでエンジン性能を評価する話はほとんど聞いたことがない。まず出力、パワーありきで考えていないだろうか。

 少し基本の話になるが、エンジン性能は、まずトルクが土台になると考えてほしい。トルクとは、エンジンの回転力、回転する力の強さ、いい換えれば仕事量を表すものだ。現在はNm(ニュートンメーター)がトルクを表す単位として使われているが、かつての表記単位kgf-m(kg-mの表記も実質的に同じ、キログラムメーター)で考えるとわかりやすいかもしれない(kgfは力の単位、kgは重さの単位)。

 1kgf-mのトルクとは、1kgの力が回転軸から1メートル離れたところで作用する力を表し、たとえばかつての表記を例に挙げれば、最大トルク15kg-m(kgf-m)/4000rpmのエンジンは、4000回転時に最大トルクを発揮し、その大きさは回転軸から1メートル離れたところで15kgf-mの力であることを表している。

 現在は国際単位系(=SI、世界共通標準単位と考えてよい)に従い、トルクはNmの単位表記が用いられ、1kgf-m=9.8Nmで換算することができる。

トルクとの関係をあわせて見ることが重要

 では、馬力、出力とはなにか、ということになる。馬力(最高出力)とは、回転数にエンジントルクを掛け合わせた数値のことだが、先ほどの例を使えば、最大トルク147Nm(15kgf-m)/4000rpmのエンジンが最高出力100馬力/6500rpmと表記されている場合、最大トルク147Nmに最高出力発揮時の回転数6500を掛け合わせたものが最高出力であるかといえば、これが違うのである。

 最大トルクの発生回転数は、簡単にいえばエンジン機関効率がもっとも優れる回転域のことで、この領域から回転数が上昇すると効率は低下することになり、トルク値自体も下がってくる。だから最高出力は、許容回転数時(常用域の回転上限と考えてよいかも)の発生トルク値を掛け合わせた数値と理解しておこう。

 この出力を表す単位は、現在はkW(キロワット)が世界共通単位として使われているが、少し前まではいろいろな表記単位があった。現在も一般的な日本語の表現では、出力といわず「馬力」と表現する場合のほうが多いだろう。この馬力は英語表現のhorse power(=馬力、略すとHP)に由来するもので、発祥がイギリスであることから英(イギリス)馬力と呼ばれている。

 その一方で、日本でも馴染みのあるPSの表記は仏(フランス)馬力のことだが、言葉自体はドイツ語のpferde(プフェート、馬) starke(シュテルケ、力)の頭文字に由来するもので、英馬力(HP)と同じ数値にはならない。PSとHPの関係は1PS=0.986HPとなっている。また、イタリアのCV単位があるが、これはCavallo(カヴァッロ、馬)Vapore(ヴァポーレ、蒸気)の頭文字を略したもので、仏馬力PSと同等の値になっている。

 このCVの由来が示すように、産業革命後に蒸気機関が定着し、その機関動力の単位としてCVやPS、HPなどが考案されてきた歴史背景を推察することができる。なお、馬力といっているが、実際に馬1頭の出力は4〜5馬力からピークで10馬力強に達しているというから、馬力がそのまま馬の頭数と考えるのは「お馬さん」に対してはなはだ失礼なことになる。出力の単位は、電気モーターを使うEVが登場したことで、kWを標準に考えるとわかりやすくなるかもしれない。