日本はチキン大国なのか ケンタ値上げ、“鳥貴族バーガー”撤退でも揺るがない「鶏肉」の強さ
日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)が、オリジナルチキンなど全メニューの約3割にあたる商品を値上げした。オリジナルチキンと骨なしケンタッキーは310円から330円へ、ドリンク類も各サイズ20円引き上げられる。2023年10月以来の値上げとなるが、一方で、チキンフィレバーガー、辛口チキンフィレバーガー、チーズチキンフィレバーガー、ダブルチキンフィレバーガー、和風チキンカツバーガーなどの定番バーガー類とセットメニューは価格を据え置いた。
単なる値上げではなく、値上げしながらもバーガー領域を守った点は注目に値する。日本KFCの遠藤会長は、今年2月の日経新聞のインタビューで「現在チキンの売上比率は5〜6割、バーガーは3割程度。今後5年でバーガー比率をチキンと半々の5割に引き上げたい」と明言していた。つまりKFCは、オリジナルチキン中心のブランドから、バーガーを含めた“日常使いのチキンチェーン”への転換を進めているのである。それは、6月2日までカーネルクリスピー1ピース半額キャンペーンも実施していることからもわかる。原材料価格、物流費、エネルギーコストの上昇に対応しながら、客離れを防ぎ、日常利用を維持するための価格設計と言える。

これを機会に、「チキン」メニューと日本についてすこし考えてみたい。
【写真】そんなのあったの?なんて声もあるかも…もう見られない“鳥貴族バーガー” ほか
日本のチキン市場を厚くする2つの要素
KFCが価格を上げる背景には、鳥インフルエンザによる供給不安、世界的な鶏肉需要の増加、飼料費や物流費の上昇によるチキン価格増がある。とはいえ、鶏肉は牛肉や豚肉に比べて比較的安価で、健康志向にも合うたんぱく源として世界的に需要がある。日本でも節約志向の中で鶏肉需要は強く、外食や中食にとってチキンは欠かせない主力食材になっている。
特に日本は輸入鶏肉への依存度が高く、ブラジルなど海外産地の状況に影響を受けやすい。鳥インフルエンザの発生や輸送コストの上昇、円安が重なると、仕入れ価格は一気に跳ね上がる。つまりKFCの値上げは一社の問題ではなく、外食産業全体が直面しているチキン調達リスクの表れともいえる。
日本における“強い”チキンメニューといえば、まず唐揚げがある。醤油、生姜、にんにくで下味をつけて揚げる唐揚げは、家庭料理、弁当、居酒屋、コンビニのすべてに浸透している。一時の専門店ブームこそ去ったものの、依然として、唐揚げは日本の国民食と言ってよい存在だろう(別記事「結局続く『唐揚げ』人気、残るのは本物だけ セブン&吉野家も参戦…“第二の定番”模索へ」も参照のこと)。
もうひとつ「コンビニチキン」も見逃せない存在感をもちつづけている。1986年に登場したローソンのからあげクンを皮切りに、2006年にはファミリーマートがファミチキを、2016年にはセブン-イレブンがななチキを発売し、今やどれもおなじみの存在である。「唐揚げ」文化の下地があるからこそ、KFCもコンビニチキンも違和感なく受け入れられてきたと筆者は考えているのだが、売る側にとっても、鶏肉は、牛肉や豚肉よりも価格面で扱いやすく、商品化しやすい。コンビニにとってはレジ横ホットスナックという衝動買い導線と相性が良く、小腹満たしにも、食事の一品追加にもなる。ここにチキンの強さがある。
加えて、KFCが1970年代から「クリスマスにはケンタッキー」という文化を定着させたことも大きい。日本ではクリスマスとチキンが結びつき、季節催事としても消費が生まれた。日常食であり、イベント食でもある。この二面性が日本のチキン市場を厚くしている。
「バーガー」もジャンル確立の一方、難しさも…
2026年のゴールデンウィーク商戦では、チキンバーガーをめぐる競争も鮮明だった。マクドナルドは1991年に登場したチキンタツタが35周年を迎えたとして、機動戦士ガンダムとコラボし、タルタル油淋鶏風チキンタツタ、チーズチキンタツタを期間限定で投入した。今年のチキンタツタは、アジア風フレーバーやチーズを取り入れ、既存ファンと新規客の両方を狙う戦略が見えた。
フレッシュネスバーガーは、パクチーチキンバーガーでエスニック路線を強めている。カオマンガイ、バインミー、グリーンカレーといったアジアの味は、若年層だけでなくインバウンドにも伝わりやすい。チキンは味付けの自由度が高く、エスニックとの相性も良い。
バーガーでいえば、モスバーガーのテリヤキチキンも根強い定番だ。各社が揚げチキンやスパイスで勝負する中、モスは焼きやソースのこだわりで差別化している。
一方、鳥貴族グループが2021年にスタートさせたTORIKI BURGER(トリキバーガー、のちに鳥貴バーガーに)は、今年3月29日で最後の店舗が閉店となった。チキンバーガー専門店として始まり、焼鳥バーガーへの転換もあったが、最終的には撤退となった。
これはチキンバーガー市場の難しさを示している。大手チェーンが既存の集客力、店舗網、ブランド力を活用してチキンバーガーを強化する一方、専業業態でスケールさせるのは簡単ではないのだろう。21年にはてんやなどを展開するロイヤルフードサービス社もバターミルクフライドチキン専門店「ラッキーロッキーチキン」を始め、一時は武蔵小山、吉祥寺、新小岩、代々木八幡など都内に店舗を展開していたが、現在は代々木八幡店のみとなっている。これはバーガー専業ではないもののバーガーを中心に据えたメニュー設計だった。
つまり、消費者はチキンバーガーを食べたいのではなく、マクドナルドの限定チキンタツタ、KFCのチキンフィレバーガー、モスのテリヤキチキンといった、ブランド文脈込みで選んでいるからだ。
「宗教」面でも強い?鶏の可能性
海外に目を向ければ、韓国のチェーンマムズタッチも、2021年より、チキンバーガーを武器に世界展開を始めている。現在はタイ、モンゴル、日本ほか、ラオス、ウズベキスタンに進出予定のようだ。
背景には、チキンの扱いやすさもあるのだろう。宗教面でもチキンは、牛肉や豚肉に比べて比較的ハードルが低い。いわずもがな、イスラム教では豚肉が避けられ、ヒンドゥー教では牛肉が避けられるが、鶏肉は処理方法に対応すれば多くの地域で受け入れられやすいからだ。
もしかすると、鶏肉価格が上がっても、各社がチキンを手放さない事情はそこにもあるのかもしれない。これからの外食市場では、牛でも豚でもなく、チキンをどう磨くかが、チェーンの成長力を左右する大きな要素になっていくだろう。
同時に、日本の唐揚げを中心とした文化も、味の独自性と品質管理を武器にすれば、海外で十分に可能性があるのではないだろうか。たとえば醤油、生姜、にんにくを使った日本の唐揚げは、アジアを中心に受け入れられやすい土台がありそうだし、スパイスを調整すれば中東やインドにも対応できそうだ。揚げるという調理法は世界共通で、フライドチキン文化は米国、韓国、東南アジアにもすでに根付いている。海外からの観光客にもファミチキは人気だそうで、「たまごサンドイッチにはさんで食べる」のが一時はブームだったと聞く。
KFCの値上げは、チキン市場の逆風を示すニュースではある。しかし同時に、バーガー価格を据え置いたことは、チキンの成長余地を示している。チキンは安いから売れる食材ではなく、日常、催事、健康志向、インバウンド、海外展開までつながる戦略食材になった。
渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。近著に『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(馬渕磨理子氏と共著、フォレスト出版)がある。
デイリー新潮編集部
