創業50年の老舗「六本木ケントス」「赤坂カントリーハウス」がいま再び盛り上がるワケ…「大人の遊び場」最新事情
「みなさん、よろしいですか? いきますよ〜!」
ボーカルのこんな“煽り”で始まったのは、'60年代に大ヒットしたスタンダード・ナンバー『君の瞳に恋してる(Can't Take My Eyes Off You)』だ。生バンドが演奏するステージ前のダンスフロアには、所狭しとステップを踏みながら、曲に合わせて楽しそうに踊る“大人”たちの姿――。
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東京・六本木にあるライブハウス『六本木ケントス』は1976年創業、今年50周年を迎えた老舗だ。総席数150席の大バコながら、金曜の夜ともなるとほぼ満卓。ぎゅうぎゅうのダンスフロアで踊るのは、そのほとんどが50代以上で、70〜80代も少なくない。

そう、ここは「粋な大人たちの遊び場」として、いま再注目されるスポットなのだ。
音楽をつなぐ
日本人の健康寿命が延びてきている昨今、60歳で悠々自適な年金生活というより、65歳まで働くのが“当たり前”の時代に突入した、高齢化社会・日本。『公益財団法人 生命保険文化センター』の調べによると、60歳から64歳の就業率は、2024年には74.3%にものぼり、“70歳まで現役”という声も高まっている。
だが、このように現役期間が延びていく一方で「若者以外」の遊べる場所はどんどん減ってきているように見える。居酒屋でも「40歳以上お断り」などと銘打った店も登場し、若者の“ノリ”についていけない世代は肩身の狭い思いをするばかり……。
そんな“大人”世代にとって『六本木ケントス』のようなライブハウスは、ある意味、タイムマシーン。'50年代〜'60年代に青春を過ごした自分たちが遊んでいた時代に聴き、踊っていた曲が今でもその時のまま楽しめる場所なのだ。
23歳の時に『六本木ケントス』で歌い始め、今もレギュラーバンド「THE FLAMES」でボーカルを務めるボビーさん(年齢非公開)は、こう振り返る。
「あの当時、オシャレで“遊び人”という人がたくさんいましたね。当時、リーゼントでビシッと決めて遊んでいた人たちが、今ではすっかり会社の重役とかお偉いさんになられて……(笑)。そういう方たちが、今でも足しげく通ってきてくださっていますよ」
子や孫くらいの年齢の部下を連れてくるケースもあるという。
「“自分が若い頃はこういう店で遊んでいたんだ”と、若い部下たちの前で、生バンドの音楽に合わせて踊る……会社では想像もできない一面を、部下に見せて楽しむ方が多いですね。若い世代からすれば、オールディーズの曲の楽しみ方を初めて知る。それをきっかけにお店に通ってくれるようにもなる。若い世代に音楽をつないでくれるということは、演奏している僕らからしても非常に嬉しいことですね」(ボビーさん)
「あの頃の自分」に
今回、オープン当初から50年以上ここに通うという“レジェンド常連”、70代の古谷隆生さん・睦美さん夫妻に話を聞くことができた。
「通いはじめたのは、ちょうどバブルの頃くらい。いちばん来ていた時で“1日おき”だったかな。僕らが30代の半ばくらいです」(隆生さん)
「子どもをおじいちゃん、おばあちゃんに任せてこっそりね(笑)。店じゅう、みーんな知り合い。私ひとりで来ても、お店に来ると誰かしらいたから楽しかったな」(睦美さん)
と、当時はかなりのハイペースで通っていたふたり。今では月に1回程度と、さすがに来店回数は減った。それでも店に足を運ぶ理由は。
「今も通う常連がたくさんいて、彼らに会えるからというのもある。流れている曲も昔のままで、店に来ると“若い時の自分”に戻れる。音楽が好きなのももちろんだけど、やっぱりお店に来るのが楽しいですね」(隆生さん)
再び手をとりあい、フロアへと向かう古谷夫妻。生バンドの演奏は1回45分が、1日5ステージ。曲ごとに振り付けも変わるが、“レジェンド”夫妻は見事に踊りこなす。もちろん、熱いチークダンスもお手のものだ。
「今でも3ステージくらいは踊って帰ります。体力あるねってみんなに言われるけど、ふだん運動はしてない。ダンスは全部、身体が覚えているの。子どもたちにも“ツイスト踊れない子はうちの子じゃありません”って言って、バッチリしこんだわ(笑)」(睦美さん)
この日はデニムを履きこなしたカジュアルスタイルが小粋な2人だったが、バブル期には店側から「ジーンズ禁止令」が出たことも。
「若いときはハワイや仙台の店舗にも遊びに行ったし、銀座店にも通ってた。銀座のボトルネックのナンバーは、44と“2桁”なの。古い付き合いでしょ? ケントスは私たちにとって青春そのもの。ケントスがなかったら、今の私はいないな」(睦美さん)
数十年前に“16歳のバースデーをケントスでお祝いした”という娘と息子もいまは結婚し、それぞれに孫もできた。夫妻は、この先もずっと「青春の店」に通い続けるだろう。店長の坂井良多さんは、店の今後についてこう語る。
「今は60代〜70代のお客様がメイン。それこそ開店当時からずっと通ってくださる方も大勢います。今後もみなさんの“居場所”というか、思い出したらふらっと来られるような、そんな場所になれたら……」
本場・米軍キャンプのノリを伝えたい
“東京の老舗ライブハウス”として『六本木ケントス』と並ぶ歴史を持つのが、やはり1976年にオープンした赤坂の『赤坂COUNTRY HOUSE』だ。
日本におけるカントリーミュージックの聖地で、こちらも“大人”の遊び場として、ツウが通う店である。マスターの平尾勇さん(80)は、
「店を始めた時には、こんなに長くできると思わなかった。結果は偶然ですよ!」
と、笑う。現在も自らミュージシャンとしてステージに立つ平尾さんは、31歳で脱サラし、この店をスタートさせた。
「僕がまだ学生の時……'64年に米軍キャンプ内のライブハウスに出演したんだけど、それがものすごく楽しかった! 音が鳴り出した瞬間に客がワーッて、すごい勢いで盛り上がってね。その楽しさをなんとかみなさんに伝えたいっていう思いでこの店を作りました。当時、日本のジャズ喫茶なんかは座って静かにレコードを聞く文化でしたから」(平尾さん)
ライブは1日2ステージ、ミュージシャンは日替わりだ。テーブル席は全55席で、ステージ前はケントスと同様、ダンスフロアとなっている。
“音楽とダンスは常にセットで楽しむものだからね”と勇さん。その言葉のとおり、店ではバンドが演奏を始めると、“紳士淑女”たちがぞろぞろとフロアに整列し、揃いのカントリーラインダンスのステップを踏み始める。
“年齢”は無関係!
このダンスを前列センターで踊っているのが、この店でホールも担当する、ダンサーのワコさんだ。テンガロンハットをかぶり、ウエスタンシャツにデニムとブーツ姿がかっこいい。おそろしいほど若見えするが、この4月、御年84歳の誕生日を迎えた。ここ『赤坂COUNTRY HOUSE』にホールスタッフとして40年以上勤務し、30年前からはカントリーラインダンスを教えている。
この日も開店前から20人ほどを集め、ダンスのミニレッスンを開いていた。80歳オーバーで踊り続ける体力や記憶力、またスレンダーな体型をキープする秘訣は……。
「全部、ダンスのおかげですね。私自身、いまも先生に習っています。ステップにも流行りがあるので、ちゃんとそれを教わってから、みなさんにお伝えしていますよ」(ワコさん)
基本のステップは20種類ほど。曲によってそれを組み合わせていく。
「大体、200曲くらいは教えてもらったかな。と言っても、どんどん忘れちゃうんですけどね(笑)」とあくまで控えめなワコさんだった。
バンドの生演奏を前に、ワコさんに教わったステップでダンスを楽しむ老若男女。そこには年齢は関係ない。“ただ自分の好きなことを、お気に入りの場所で満喫している”のが伝わってくる。
そんな様子をいつもカウンターの端の席で見て楽しんでいる女性が、この店の最古参客、カエさん(83)だ。マスターが店を出してからの古い付き合いだという彼女は、今も週3日は店に通う、ナンバーワンの常連客だという。
「主人がすごくカントリーミュージックが好きで、初めは一緒に来ていたの。そのうちに主人よりも私のほうが頻繁に来るようになっちゃった。もう主人は亡くなったけれど、この店のこの席はずっと“マイシート”。主人が残してくれた、私の居場所じゃないかな」(カエさん)
お気に入りのミュージシャン・ヒロシが出演する日は、ほぼ逃さずに来店しているというカエさん。メイクもネイルも整った一見上品なマダムだが、定番席で小梅をつまみにバーボンのロックを傾ける姿は、まさしく「カッコいい大人の女性」。年齢を感じさせない元気と美貌の秘密を聞くと――。
「お酒かな。3回で1本、キープボトルを空けているの。息子は医者だけど、“あなたの健康は酒とたばこのおかげかも。もう自由にやってくれ”って(笑)。こんなに自由に楽しく飲める場所を教えてくれた主人に感謝ですね」
ここに来る時だけ
それぞれが自分の楽しみ方を、自由に貫ける場所、それこそが大人の遊び場の条件なのだろう。50年以上続いてきた『赤坂COUNTRY HOUSE』だが、今後は勇さんの息子、リュウジさんが跡を継いでいく。
「時代が変わっても、いいものはいい。カントリーミュージックを伝えていく場として、父の思いのあるこの店を守っていきたいと思っています。お客さんも、出演するミュージシャンも本当に素晴らしい人たち。結局は“人”なんです。いまの繋がりを大切にして、大人の遊び場としてはもちろん、若い人も馴染んでいける雰囲気を続けていきたいですね」(リュウジさん)
ライブ終了後、ウエスタンコーデがおしゃれな70代の女性客に「お洋服、お似合いですね」と声をかけると、「ここに来る時だけね。うちに帰ったらただのオバーサンよ」と、少しだけ照れたように答えてくれた――。
'25年に行った内閣府の調査では、60歳以上の高齢者のうち約4割が「特に趣味がない」と回答している。就労年齢が延びている今、“よく働き、よく遊ぶ”――これを実践できる人こそが、人生を謳歌できるのかもしれない。
取材・文/蒔田稔
デイリー新潮編集部
