妊婦向けRSウイルスワクチンの定期接種が原則無料で4月からスタート、ワクチンの有効性や安全性について専門医が解説

乳幼児が感染する「RSウイルス」に対する妊婦向けRSウイルスワクチン「アブリスボ筋注用」の定期接種が4月からスタートした。これまで、同ワクチンの接種は任意であり、費用も自己負担(約3万円前後)となっていたが、定期接種では公費で支援が受けられるため、原則無料で接種することが可能となる。妊婦からは、定期接種化に期待の声があがる一方で、ワクチン接種に不安を感じている人も一定数見られる。そこで今回、RSウイルスに感染するリスクやRSウイルスワクチンの有効性・安全性などについて、おぎくぼ小児科 院長の上野健太郎先生に聞いた。

RSウイルスは、咳・くしゃみによる飛沫感染や、ウイルスが付着した物品を介した接触感染によって広がり、感染すると鼻水や咳、発熱など風邪に似た症状を引き起こす。RSウイルス感染症は、2歳までにほぼ100%の乳幼児が罹患する身近な病気だが、医療機関を受診した2歳未満の乳幼児の約4人に1人は入院が必要になるという報告もある。入院した乳幼児のうち、90%以上は基礎疾患を持っておらず、特別な持病がなくても誰にでも入院に至るリスクがあると考えられる。また、入院した乳幼児の約40%を生後6ヵ月未満の赤ちゃんが占めており、細気管支炎や肺炎などの重症化を引き起こすケースも少なくないという。(出典1)
さらに、乳幼児期にRSウイルス感染症で入院を経験した子どもは、後遺症として反復性喘鳴(気管支喘息)を残すリスクがあることも懸念される。実際に、RSウイルス感染症で入院経験のある子どもの喘息発症率は、3歳時点で対照群(入院経験がない子ども)1%に対して23%、7歳時点では対照群3%に対して30%、13歳時点では対照群5.4%に対して37%と、一貫して高い傾向が報告されている。(出典2)
このように、RSウイルス感染症は、乳幼児にとって身近でありながら重症化リスクも少なくない感染症であり、入院した場合には、病院への付き添いなど家族にとって心身の負担も大きくなる。今回、定期接種が開始されたRSウイルスワクチンは、妊婦向けのワクチンで、出生後に赤ちゃんをRSウイルスから守るための母子免疫ワクチンとなっている。上野先生は、「従来からRSウイルスに対するワクチンは研究されてきたが、新生児・乳児期の免疫系は脆弱で発達段階であることからうまくいかず、未だに実用的な子ども向けワクチンは完成していない。そこで、妊娠中の母体にワクチンを接種することで、母親にRSウイルスの免疫を獲得してもらい、その抗体が胎盤を通じて赤ちゃんにも移行するように研究・開発されたのが『アブリスボ筋注用』となる」と、母子免疫ワクチンの仕組みを解説してくれた。
定期接種の対象となるのは28〜36週の妊婦で、接種は1回のみ。また、2人目以降の妊娠で再び接種する場合なども対象となる。妊婦が定期接種の対象になるのは今回が初めて。妊娠中に接種しておくことで、出生後その日から、赤ちゃんがRSウイルス感染症による気管支炎や肺炎などで重症化するのを防ぐ効果が期待される。4月から原則無料の定期接種がスタートしたことについて、上野先生は、「今まで、生まれて間もない時期にRSウイルスに感染して、重症化する子どもたちを多く診療してきた。中には重症化して人工呼吸器による管理が必要となった症例もある。そのような症例が、今後劇的に減ることが予想され、すべての小児科医にとって、とても喜ばしい出来事だと思っている」との見解を述べている。
こうした背景から、RSウイルスワクチンは、生まれてくる赤ちゃんを守るための第一歩となる可能性があると考えられている。ワクチンの有効性について聞くと、「まず、ワクチン接種後2週間以内で出産となった場合には、母体から胎児に抗体が移動していない可能性があり、効果が不十分となるケースがある。通常に出産した場合は、生後6ヵ月まで有効性が証明されており、RSウイルス感染症による医療受診を必要とした下気道感染症の予防は生後0〜90日で約60%(57.1%)、生後0日〜180日では約50%(51.3%)程度、RSウイルス感染による医療受診を必要とした重症下気道感染症の予防は生後0〜90日で約80%(81.8%)、生後0日〜180日では約70%(69.4%)程度とされている(出典3)」と説明してくれた。なお、有効性(%)とは、「ワクチンを打たなかった場合と比べて、どれくらい病気が減ったか」を表している。例えば、生後0〜90日の重症下気道感染症においては、ワクチンなしの場合33人が重症化したのに対して、ワクチンありの場合は6人となっており、この減少率「81.8%」を有効性としている。
また、妊婦にとって大きな不安要素となる副反応については、「世界65ヵ国以上で承認されており、副反応についても大きな問題はない」と上野先生。「海外における一部の報告では、妊娠高血圧症候群の発症リスクが増加する可能性があるという報告もあるが、結果の解釈に注意が必要であるとされている。薬事承認において用いられた臨床試験では、妊娠高血圧症候群の発症リスクの増加は認めなかった」と、副反応などのリスクはなく、妊婦への接種が推奨されるワクチンであると強調した。
「接種が難しいケースとしては、24週0日未満で出産となる早産の場合、接種は不可となる。24週0日〜27週6日までの間は接種できるものの、定期接種の対象外となるため、この間に出産となる場合も接種できない人が多くなると思われる。また、1人目妊娠時にRSウイルスワクチン接種によってアレルギー症状(アナフィラキシー)が出現した人も接種することができない。この他、発熱していたり、明らかに急性疾患に罹患している人、医師が不適当と判断した場合も接種が難しい。厚生労働省のホームページにも接種に注意が必要な妊婦について記載があるので確認してほしい」と、ワクチン接種にあたって注意すべきポイントにも言及。「特に注意が必要なのは、切迫早産で接種後2週間以内に分娩となる可能性が高い妊婦で、必ず産婦人科の医師と相談してほしい。また、三種混合ワクチンについては、RSウイルスワクチンと一緒に接種すると三種混合に含まれる百日咳の抗体上昇が低下するという研究データがある(出典4)。そのため、三種混合ワクチンとRSウイルスワクチンは1〜2週間程度間隔をあけた方が良いとする医療機関が多いようだ」と教えてくれた。
待望の定期接種がスタートした一方で、SNSではワクチン接種に批判的な声も散見される。この状況について上野先生は、「ワクチンに対して批判的な声があるのはRSウイルスワクチンに限らず、昔から変わらない。私としては、そうした反応に激しい憤りなどはなく、『ワクチンに対して批判的な感情を抱く人間は一定数出現するのが普通』と解釈している」とコメント。「私としては、ワクチンを接種する本人が納得することが一番大事だと思っている。そのため、接種を希望しない人に対して、『説得して接種させる』といったことはしていない。接種を迷っている場合には、『データ上は安全性に問題なく、接種することの利益の方が大きい』ことを伝えるようにしている。また、RSウイルスワクチンは妊婦が受けるワクチンなので、妊婦健診で受診している産婦人科でも相談することを推奨している」と、RSウイルスワクチンへの正しい理解を促すことが重要であると訴えた。
おぎくぼ小児科=https://ogikubo-shonika.com/
出典1:Kobayashi Y, Togo K, Agosti Y, McLaughlin JM. Epidemiology of respiratory syncytial virus in Japan:A nationwide claims database analysis. Pediatr Int. 2022;64(1):e14957. doi:10.1111/ped.14957
出典2:Sigurs N. et al.:Pediatrics 95(4):500, 1995、Sigurs N. et al.:Am J Respir Crit Care Med 161(5):1501, 2000、Sigurs N. et al.:Am J Respir Crit Care Med 171(2):137, 2005
出典3:Kampmann B, Madhi SA, Munjal I, et al. Bivalent Prefusion F Vaccine in Pregnancy to Prevent RSV Illness in Infants. N Engl J Med. 2023;388(16):1451−1464. doi:10.1056/NEJMoa2216480
出典4:Peterson JT, Zareba AM, Fitz−Patrick D, et al. Safety and Immunogenicity of a Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Vaccine When Coadministered With a Tetanus, Diphtheria, and Acellular Pertussis Vaccine. J Infect Dis. 2022;225(12):2077−2086. doi:10.1093/infdis/jiab505
