(※写真はイメージです/PIXTA)

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「原材料が入ってこない」「生産工程で使う溶剤が底をつく」――。2026年4月現在、緊迫化する中東・イラン情勢は、世界的な原油価格の高騰とサプライチェーンの寸断を引き起こしています。事業継続のために一時的な「休業」を検討する企業が増える中、従業員の雇用を維持する支援策として「雇用調整助成金」が準備されていることをご存じでしょうか。本記事では、雇用調整助成金の制度、実務上のフロー、注意点について、特定社会保険労務士の山本達矢氏が解説します。

雇用調整助成金の概要

雇用調整助成金は、景気の変動や産業構造の変化、その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた企業が、一時的な休業や教育訓練、出向を通じて労働者の雇用を維持した場合に、休業手当等の一部を助成する制度です。

昭和56年に創設された同制度は、近年ではリーマンショック、東日本大震災などで、従業員の雇用維持のため多くの企業が利用し、近年のコロナ禍では実に6兆3,000億円以上の助成が行われました。

そして2026年4月現在の情勢(イラン紛争に伴う原材料不足やエネルギーコスト高騰)下で、再び申請の増加が見込まれています。

支給要件の確認(2026年4月現在)

助成金を受給するためには、以下の主要な要件を満たす必要があります。

(1)売上高等が減少していること(生産指標の確認)

最近3ヵ月間の生産量、売上高、または出荷量等の「生産指標」が、前年同期と比べて10%以上減少していることが基本要件です。

原材料の入手が困難となり、受注減等で事業活動の縮小を余儀なくされた場合や、原価の高騰により価格が上昇し、需要減により事業活動の縮小を余儀なくされた場合などが該当し、単に原油高によるコスト増で利益が減っても、売上高や生産量が減少していなければ原則として対象になりません。

(2)最近3ヵ月間の雇用保険加入者数の月平均値が、前年同期と比べ、一定以上増加していないこと

(3)一定期間内での休業等の日数が、雇用保険加入者の所定労働延日数の1/20(大企業の場合は1/15)以上となるものであること

例えば、社員10人の会社で所定日数が20日とすれば、10人×20日=200日。200日×1/20=10日の休業等を行う場合、原則として、対象期間内の実績を1ヵ月単位で判定し、延べ10日以上休業していること。

(4)助成対象になる休業の日数が、最大1年間で100日(3年間で150日)であること

例えば社員10人の会社で、うち6人が5日ずつ休業した場合は「5日」ではなく、休業等の延べ日数(6人×5日=30人日)を、社員10人で除して得た3日とカウントされます。

(5)休業前に、必ず休業の予定(計画届)を労働局に提出していること

提出の期限は、休業等を開始する日の前日までです。ただし初回だけは、休業等開始の2週間前までをめどに提出した方がスムーズです。

(6)休業前に労使で話し合い、休業期間・日数・対象者・休業手当の金額などを決め、協定書を締結しておくこと

これだけは気をつけて!…雇用調整助成金の注意点

(1)クーリング期間の存在

雇用調整助成金はずっと申請できるわけではありません。1つの対象期間の満了後、再び本助成金を受給する場合、1年間以上空けないと、新たな対象期間を設定することができません。

(2)自主的な出勤も、ボランティアもNG!

休業日の自主的な出社、「ボランティア」や「修行」等の名称をした出勤は実態として休業しているものと認めることは困難であることから、助成対象となりません。

(3)残業しながらの休業は相殺

休業・教育訓練を実施した判定基礎期間内に、休業等を行った労働者が残業や休日出勤を行っていた場合、対象労働者の残業や休日出勤の時間相当分が助成額から相殺されます。

(4)不正受給に陥りやすい側面やデメリットも…

コロナ禍で6兆3,000億円もの申請があった雇用調整助成金ですが、2020年4月から2025年12月までの事後調査では約1,900件、600億円以上の不正が発覚しています(『「雇用調整助成金」不正受給 鈍化も累計1,889件に 最多は愛知県の294社、倒産発生率は通常の24.3倍』東京商工リサーチ、2026年1月30日)。

自主的に返納したものも含めると金額はより大きくなり、前項にも触れたとおり、自主的な出勤と称して仕事をさせる、休業という形をとりながらリモートワークをさせる、タイムカードを改ざんするなど、申請件数の多さに比例して不正の側面もみられました。

また、助成金があるからと休業を長引かせると、従業員のモチベーションの低下、働かずとも給与は一定支給されるというマインド、将来に不安を感じた従業員から退職が相次ぐという可能性もあり、直近のコロナ禍でも筆者自身が感じたリスクでした。

(5)今後要件緩和があるか注視すること

リーマンショックや震災、コロナ禍では、上記に挙げた売上高等の減少、助成対象となる上限日数、クーリングオフ期間、残業との相殺といった様々な条件やルールが一時的に緩和されました。

今後の中東・イランの情勢次第でこれらの要件が緩和される可能性もあります。経営者だけでなく働くすべての人に影響のある措置になります。

まとめ

雇用調整助成金は、会社が儲かる制度ではありません。雇用の維持が目的であるとともに、助成金はその文字のとおり、会社でなんらかの施策を〈成〉すために〈助〉けてくれる〈お金〉です。

筆者の顧客の経営者は「せっかくコロナから立ち直ったのに…」と溜息混じりで漏らしていましたが、総務省の『労働力調査(基本集計)』の資料にもあるように、雇用者数48ヵ月連続増加、完全失業率約2.5%程度で安定していた実情が揺らがぬよう、政府の柔軟な対応を期待したいところです。

山本 達矢
社会保険労務士法人WILL
代表社労士
特定社会保険労務士