旭川市「女子中学生凍死」から5年、黒塗りなし文書入手 拡散情報に“誤り”指摘も…混乱解決の糸口になるか
北海道旭川市で2021年3月、中学2年の廣瀬爽彩(さあや)さん(当時14歳)が凍死した状態で発見された。
出版社系のウェブメディアの報道をきっかけに、この出来事は「いじめ自殺」として社会的に大きな注目を集め、5年がたった今もネット上で繰り返し取り上げられている。
しかし、ネット上には事実関係が不明確な情報や誤解に基づく発信も広がっている。こうした状況を受け、当時の学校関係者が公の場で反論する動きも出ている。
なぜ、こうした混乱が続いているのか。取材を進めると、第三者委員会の調査報告書にある非公表部分(いわゆる黒塗り)の存在が、その一因である可能性が浮かび上がった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●遺族が旭川市に賠償請求、和解が成立
爽彩さんは2021年2月に行方不明となり、同年3月23日、旭川市内の公園で発見された。
その後、生前に友人からわいせつな写真を送るよう求められていたなどと報じられ、「いじめ自殺」として全国的な関心を集めた。
旭川市教育委員会が設置した第三者委員会は2022年9月、調査報告書を公表したが、遺族側は内容に納得せず、市は再調査委員会を設置した。
再調査の結果、市は2024年、「いじめが自殺の『主要な原因』であった可能性が高い」とする報告書を公表した。
遺族側は2025年2月、旭川市に対して約1億1600万円の損害賠償を求めて提訴。報道によると、旭川地裁が2026年1月、市に7000万円を支払うよう和解を勧告し、同年3月に和解が成立したという。
●元校長らが反論 マスキングなし報告書の存在
こうした中、当時の中学校の元校長らが、過去の報道や再調査委員会の報告内容に事実と異なる点があると指摘し、反論を始めている。
学校や教育委員会への批判が噴出したこれまでの経緯を踏まえると、このタイミングでの発信は、新たな議論を呼ぶ可能性もある。なぜ今、関係者が声を上げているのか。
その背景の一つとして浮かび上がるのが、第三者委員会の報告書のうち、公表されていない部分の存在だ。
報告書は、個人情報などに配慮し、一部を黒塗り(マスキング)した形で市のホームページで公表されたが、弁護士ドットコムニュースは今回、黒塗りのない文書を入手した。
公表版と比較すると、現在も流通している情報に含まれる誤解や不正確な内容に関して、一定の整理がされていることがうかがえる。
●報告書77〜80ページの黒塗り
問題となるのは、報告書の77ページから80ページにかけての部分だ。
公表版では、「第6」という見出しの一部のみ確認できるが、それ以降の記載はすべて黒塗りとなっている。
一方、入手した文書では、この部分の見出しは「第6 本件重大事態に係る報道の誤り」と記されていた。
●マスキングの理由、市教委「遺族の意向や個人情報保護法など」
公表版と入手文書を比較すると、該当部分の行数や構成が一致しており、同一箇所であるように見える。
この文書が、市教委に最終的に提出された報告書と同一のものかどうかについて、旭川市教委は「お答えできません」としている。
マスキングの理由についても取材で尋ねたところ、旭川市教委は「ご遺族の意向や個人情報保護法などに基づいて判断した」と説明した。
ただし、入手した文書の当該部分は確認した限り、個人情報保護法や旭川市の情報公開条例に直ちに抵触すると認められるような記載は見当たらなかった。再調査委員会がまとめた公表版の報告書で認定された事実も一部含まれている。
また、「遺族の意向」の具体的な内容は明らかではないが、当該部分には、故人の尊厳を傷つけたり、関係者のプライバシーを著しく侵害する内容が含まれているとも読み取れなかった。
こうした点を踏まえて、弁護士ドットコムニュースは、事実関係の整理に資すると判断し、「報道の誤り」に関する部分に限って、その一部を紹介する。
●指摘されていた「報道の誤り」の数々
(1)(女子生徒の不適切な自画撮りの画像や動画の)データをSNSなどで拡散していた。
→EからC、D、E三人のLINEグループに送信されているが、この三人から更に拡散した事実は確認されていない。
(2)女子生徒は、市内の橋から飛び降りた。
→そのような事実はなかった。
(3)6月15日、本件生徒は、「A子」(D)、「B男」(C)、「C男」(E)にたまり場の公園に呼び出された。
→同日、本件生徒が一人でW公園にいたところ、CとDが遊びに来て、そのすぐ後にE、F、Gの三人も偶然遊びに来て合流する形になった。
(4)川に飛び込む直前、本件生徒は「助けてください」と中学校に助けを求める電話をした。
→本件生徒はパニック状態でX中へ電話を掛け、電話に出た男性教員に死にたいと繰り返した。
(5)この事件の一部始終を川の対岸から目撃していた人物が110番通報した。その人物は、「私見てたの、1人の女の子をみんなが囲んでいて、あれはイジメだよ。女の子が川に飛び込んだ時にはみんなが携帯のカメラを向けていた」と母親に話した。取材班はこの目撃者に話を聞こうとしたが、既に亡くなっていることが現場周辺の聞き込みでわかった。
→公園と川を挟んだ向かい側にいた近所の女性が、本件生徒が土手下の草むらに立っているのに気づき、そのまま何もしないでいることを不審に思って110番通報した。(当委員会は、警察署に110番通報者の照会を行い、事前に警察署を通じて承諾を得た上で事情聴取させていただいた。通報者の女性は、自分が行った110番がテレビで報道されていた有名ないじめ事件であることを警察署に知らされて驚いたと話された。本件に関する通報がこの1件のみであったことも警察から確認している。)
(6)加害少年らは自身のスマホを初期化するなどいじめの証拠隠滅を図ったが、警察がそのデータを復元し、彼らが撮ったわいせつ動画や画像の存在が明らかになった。
→警察による事情聴取は迅速に行われているので、証拠隠滅を図る余裕はなかったと考えられる。加害少年らが本件生徒を撮影した事実はない。
●認定されなかった担任の「彼氏とデート」発言
報告書は、このパートの最後で次のように指摘している。
「本件に関する報道においては、関係者の問題のある言動として具体的に摘示されたものもあったが、そのような関係者の言動について、当委員会の調査において当事者本人が否定していたり、問題とされた言動があったとする情報自体が出てこないこともあったことを付言する」
第三者委員会が具体的にどの言動を指すのかは明らかでない。
ただ、当初、学校関係者の振る舞いとしてセンセーショナルに報道された内容の中には、報告書で触れられていないものもある。
たとえば、爽彩さんの死をめぐり社会的な関心が高まる一因となった、担任の教員による、いわゆる「彼氏とデート」発言がある。
これは、爽彩さんの保護者が「娘はいじめられているのではないか」と相談した際、教員から「今日は彼氏とデートなので、相談は明日でもいいですか?」などと対応を後回しにされたとする趣旨で報じられた。
この報道を受け、ネット上では教員に対する批判や誹謗中傷が相次ぎ、個人情報の拡散などの問題も生じた。
一方で、第三者委員会の報告書には、このような発言があったと認定する記載は確認できない。
●「重要な事実が誤って報道されたことで苛烈なバッシング」
報告書は、マスキングがされた部分で、次のように指摘していた。
「重要な事実が誤って報道されたことも一因となってネットの情報発信が過熱し、特定の個人(無関係の人も含む)がネット上で苛烈なバッシングを受ける騒動となった」
そのうえで、「今後、本件重大事態が採り上げられる際、誤った事実関係が前提とされることがないように、当委員会が調査した結果判明した事実関係の誤り等を指摘しておきたい」としている。
