『九条の大罪』から一転 町田啓太が『タツキ先生は甘すぎる!』で示す“令和のヒーロー像”
土曜の夜、私たちの心をふわりと包み込むような温かい物語が幕を開けた。ドラマ『タツキ先生は甘すぎる!』(日本テレビ系)だ。子どもたちと同じ目線で話をするフリースクールの教室長・浮田タツキ(町田啓太)の姿は、令和時代の新たなヒーロー像の誕生を予感させる。
参考:『タツキ先生は甘すぎる!』は子どもたちに本気で寄り添う ドラマを彩る町田啓太の安心感
物語の舞台は、学校に行くかわりに子どもたちが思い思いの時間を過ごすフリースクール「ユカナイ」。教室長のタツキは、まるで自身も少年のように、子どもたちと教室内を走り回っている。就職面接にやってきた元中学教師の青峰しずく(松本穂香)は、その様子に戸惑いを隠せない。
町田啓太演じる「タツキ」という人物を前にして、まず驚いた視聴者も多いのではないだろうか。4月に配信を開始したばかりのNetflixシリーズ『九条の大罪』で町田が演じた半グレ・壬生憲剛と、あまりにもイメージがかけ離れていたからだ。
壬生は、タツキと同じ「金髪」をトレードマークとしている半グレのリーダーである。同じ髪色であっても、タツキと壬生とでは、その印象は180度異なる。壬生の、整髪料で固められたオールバックの金髪は、裏社会で自分を誇示するための「威嚇」の象徴のように見えた。しかしタツキのふわふわの金髪は、既存の枠組みや「こうあるべき」という固定観念からの解放を告げる、自由の象徴に見える。
それだけに、本作で町田が「タツキ」として登場した瞬間の変貌ぶりには目を見張った。壬生がまとっていた「圧」を完全に消し去り、まさに「甘すぎる」ほどに柔らかな雰囲気を醸し出す町田啓太の表現力の底知れなさに、改めて驚かされたのだ。
第1話では、学校に行けない中学生・早乙女綾香(藤本唯千夏)の様子が描かれた。勉強の遅れを案じる母・真白(瀬戸朝香)に対し、タツキは「教科書を捨てちゃえばいい」と言い放つ。「ここでは楽しいと思うことだけやろう」。その一言から、綾香とタツキの「絵しりとり」を通じた静かな心の交流が始まっていく。
この交流のシーンで、町田は極めて細やかな視線の芝居を見せる。綾香がキャンバスに向かう間、タツキは彼女が描く「絵」そのものよりも、筆を動かす彼女の「横顔」を見つめている。彼女の指先の震えや視線の迷いから、今この瞬間に彼女の心の中で起きている変化を一つも漏らさずに感じ取ろうとしているのだ。
町田啓太の細やかな視線の動かし方からは、相手を子ども扱いせず、一人の人間として深く理解しようとするタツキの誠実さが伝わってくる。この町田の表現は、「何にも追われなくていい」という、深い「受容」のメッセージとして、子どもたち、そして観る者の心を解きほぐしていく。
町田啓太という俳優を語る上で、近年の話題作との対比は避けて通れない。Netflix映画『10DANCE』で町田が見せた表現は、今回のタツキが示す「受容」とは、まさに真逆といっていいほどの距離がある。
社交ダンスの世界を描いた同作では、トップダンサーの杉木信也を演じた。伝統と格式を重んじ、完璧な美しさを追求するキャラクターだ。指先一つ、視線一つにまで自己管理を徹底する。真っすぐに伸びた背筋は、決して他者を寄せ付けない孤高の美学を放っていた。そこにあったのは、受容とは正反対の、張り詰めたストイックさだ。
社交ダンスの舞台で、頭の先から指先までピンと伸びたあの身体が、本作では子どもたちの目線に合わせて、驚くほど低い位置へと降りてきている。あえて同じ高さに身を置くことで、彼は子どもたちの視界から「大人という壁」を取り払い、全身で受容の姿勢を示しているのだ。
町田が表現する「タツキ」という人物は、これまでのテレビドラマが描いてきたヒーロー像とは、明らかに一線を画している。かつての学園ドラマを彩ったのは、「熱血」や「カリスマ」といった、圧倒的なエネルギーで生徒を導くリーダーたちが多かった。そこには常に、迷える者を正解へと引き上げる、ある種の力強さが存在していたように思う。
正論に背中を押されるよりも、ただ「今のままの自分」でいさせてほしい。そんな現代の切実な願いに応える「余白」を、町田は圧のない柔らかな芝居で作り出した。綾香が描いた「ひとりぼっちのスズメ」の絵を前にしたとき、タツキはただ静かに、綾香の「学校に行きたくない」という気持ちを受け入れた。導こうとしないことで、結果として誰よりも深く寄り添う。その静かな佇まいこそが、頑張りすぎる私たちを全肯定してくれる、令和の新たな優しさの形なのだ。
「何かに追われる必要はない」という肯定は、同時に「自分らしく生きる」という、ある種の覚悟を伴う道への誘いでもある。タツキを通して、町田啓太がいかに現代の子どもたち、そして閉塞感を抱える大人たちのヒーローを体現していくのか。その挑戦の行方から、一瞬たりとも目が離せそうにない。(文=よしはらゆう)
