『藁にもすがる獣たち』©曽根圭介/講談社 ©2026「藁にもすがる獣たち」製作委員会

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 鈴鹿央士主演の映画『藁にもすがる獣たち』に森七菜が出演することが発表された。本作で彼女が演じるのは、夜の気配を漂わせながら、1億円争奪戦に参加する悪女の“し~な”。解禁された特報映像では、鈴鹿演じる大学生YouTuberの佐藤寛治を脅しながら、挑発するような悪い表情を浮かべている。デビュー10周年を迎えた森にとって、本作は今までにない一面を披露するチャレンジ作品となりそうだ。

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 彼女の10年の軌跡を振り返れば、純粋な感性と自然体な姿を芝居に反映させながらも、キャリアを重ねるごとに演技の幅を着々と広げていることがわかる。芸能界入りしてすぐに実写版『心が叫びたがってるんだ。』(2017年)で映画初出演を果たすと、2019年に出演したドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)で脚光を浴びる。新海誠が手がけたアニメーション映画『天気の子』(2019年)では、主演ヒロイン・天野陽菜の声優に抜擢。燦々と照りつける太陽のような天真爛漫な笑顔と、透き通るような歌声も後押しとなり、自然と森のパブリックイメージが形成されていった。

 俳優としても眩い輝きを放つなか、岩井俊二が監督を務めた映画『ラストレター』(2020年)では、広瀬すず演じる鮎美の従姉妹・颯香を演じる。夏休みの間をともに過ごし、等身大の悩みを抱えた2人の関係を広瀬とともに伸びやかに育んだ森は、本作で第44回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した(本作で森は、松たか子演じる裕里の学生時代役も一人二役として演じている)。

 そんな彼女の大きな転機となったのが、是枝裕和監督が演出と脚本を務めたNetflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』(2023年)ではないだろうか。出口夏希とともにW主演を務めた本作では、“まかないさん”として舞妓さんの毎日の食事を作る少女・キヨを演じた。自然な佇まい、屈託のない笑顔、愛嬌たっぷりの表情など、森のキャラクターが余すことなく詰め込まれた本作は、今の彼女の根底に流れる芝居が全編にわたって映し出されている。

 そして2025年は森にとって、本領発揮と新境地を切り拓く役柄の両輪で駆け抜けた1年になったのは誰もが知るところだろう。塚原あゆ子監督と脚本家の坂元裕二がタッグを組んだ映画『ファーストキス 1ST KISS』に出演したことを皮切りに、4本の長編映画に出演。新型コロナウイルスが広がる豪華客船を舞台に、パンデミックの最中に起きていた事実を元にして描かれた『フロントライン』では、日本人医師と乗客の橋渡し役を引き受けるクルー・羽鳥寛子のまっすぐな思いが胸を打つ。2025年の映画界を席巻した『国宝』では、主人公・喜久雄(吉沢亮)を慕う歌舞伎役者の娘・彰子を演じた際、喜久雄に惹かれて献身的にその身を捧げる姿から、彼女の心が離れていく去り際の表情まで、美しくも残酷に映し出される芸の道を彩った。これまで演じてきた純粋無垢な役柄のイメージを脱ぎ捨て、新境地を開拓する姿を世の中に知らしめた本作での活躍によって、森は第49回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞する。

 秋以降もその勢いは止まるところを知らず、映画『秒速5センチメートル』では主人公の遠野貴樹(高校時代:青木柚)に思いを寄せる少女・澄田花苗の届かない恋心を、一つひとつの言葉やさりげない仕草にめぐらせる。青春の煌めきと儚さを100%の純度で小瓶に詰めたような繊細な芝居は、まさに森にしか演じることができないと思わせる眩さがあった。

 さらに、11月に放送がスタートした夜ドラ『ひらやすみ』(NHK総合)では、岡山天音演じる自由人・ヒロトの従姉妹で、美大に入学するために上京してきたなつみを好演。本当に阿佐ヶ谷の平屋でのんびり暮らしながら、今も2人でとりとめのない会話を交わしているのではないかと思うほど、あの“ひらやすみ”の日常に溶け込んでいた姿が懐かしい。本作で演じたなつみは、森の新たな名刺代わりになるキャラクターとして、今も多くの人々の心の余白に棲みついているのではないだろうか。

 そして、4月10日に公開されたばかりの映画『炎上』で単独初主演を飾った森は、親の虐待から逃れるようにしてトー横広場にたどり着いた少女・小林樹理恵として、歌舞伎町に火をつけるにいたる彼女の不安定な心境、熱を帯びては冷めていく感情を生々しく表現する。今まで演じてきたどのキャラクターとも異なる表情、異なる話し方で、さまざまな事情を抱えた子どもたちが集まるトー横を行き来する彼女の姿は、あの場所に“じゅじゅ”という少女が実在していたことを観客に突きつける。今も脳裏に焼きついているのは、痛々しいほどの後悔と憎しみを引きずる森の刹那的な表情だった。

 あらためて森の出演作を振り返ると、名だたる監督たちが携わる撮影現場で、唯一無二の輝きを放っていることがわかる。“悪女”と呼ばれる女性を演じることになった『藁にもすがる獣たち』の出演を経て、その輝きはまた色を変えて、多くの人々を魅了することだろう。そんな彼女の一瞬一瞬の輝きを、これからも見逃すわけにはいかない。(文=ばやし)