「米国による民主化は無理」アメリカの退役軍人が語る「戦場と軍事ビジネス」の乖離
イラク戦争に従軍した退役軍人JD・シムキンズ氏は、軍事専門メディア「ミリタリータイムズ」の編集長を務めている。高校卒業直後の2004年に海兵隊に入隊し、戦場の最前線でミサイルや砲撃、空爆などを誘導する「スカウト・オブザーバー」と呼ばれる任務に従事した。シムキンズ氏が語るハイテク戦争の裏側とは。
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AI兵器が「憎悪の連鎖」を生み出す危険
トランプ政権と米軍の戦略の不備のなかで、唯一の光明と言えるのが、米国防総省が安価なイラン製自爆型ドローンを模倣した、「LUCAS」と呼ばれるドローンを完成させ、すでに実戦配備したことだ。」米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、このドローンは、米軍自らがウクライナで回収したイランのドローンをリバースエンジニアリング(分解・解析)して設計したもので、1機あたりのコストは、イラン製「シャヘド」と同程度の約5万5000ドル(約880万円)という。
米軍は、LUCASを実戦配備可能にするまでの工程を2年足らずで成し遂げたとされる。このドローンの開発は、安価な兵器を迅速に製造するという新戦略が実証された初期の事例だとWSJは報じている。また、LUCASの製造は、アリゾナ州拠点のスペクトルワークスというほぼ無名の企業が受託したとされるが、シムキンズ氏は、今後はさらに他の防衛関連のスタートアップが台頭してくると考えている。
「米国はこれまで、軍を退役した将官たちがロッキードやRTX、BAEなどの防衛大手に移る構造に依存していた。その結果、国防総省から資金力のある大企業へのパイプラインが形成されていた。しかし、直近の動きは、大手の官僚的な障害を取り除き、新興企業との取り組みでイノベーションを迅速化しようとする姿勢の現れだと言える。
防衛関連のスタートアップとしては、日本では米国の若手起業家パルマー・ラッキー氏率いる「アンドゥリル・インダストリーズ」が注目を浴びている。評価額が305億ドル(約4兆7000億円)の同社は、人工知能(AI)を活用した軍事用ドローンなどで知られ、昨年12月に日本への本格進出を発表。「100%日本産ドローン」の製造を宣言した。小泉進次郎防衛大臣と面談したラッキー氏は、以前のインタビューで「AIなどのテクノロジーが戦争を人間にとってより安全にする」と語っていたが、シムキンズ氏は、このような主張をどう捉えるのか?
「イエスとノーの両方だと言える。ウクライナで言えば、2022年の開戦当初と現在とでは、人間の前線への関与の度合いがまったく違うものになった。現在では、何マイルにもわたる前線が地上ロボットやドローンによって守られ、ドローン対ドローン、あるいは機械同士の戦争になっている。人間の関与はどこかに必ず残ると考えているが、その要素をできるだけ排除できるのであれば、それは望ましいことだ」
だが、「ここには別の問題もある」と指摘する。「例えば米軍がイラン南部で行なったAIを目標の選定に使用した空爆では、古い地図データが原因で誤って女子小学校を攻撃してしまい、児童ら少なくとも175人が死亡した。こうした点がテクノロジーの課題になると考えている。人間がそれを適切に制御し、民間人の命を守れるかどうかが問われている」
シムキンズ氏が従軍した当時、ジム・マティス海兵隊大将は「倒した敵の数以上の、新たな敵を生み出してはならない」と説いていたという。「学校の誤爆によって娘を失った親たちの気持ちを想像するのは耐え難い」と話す同氏は、米国がまたしても「憎悪の連鎖」を生んでしまったことを示唆した。
米国による民主化やテロの根絶が困難
しかし、そのシムキンズ氏もまた、過激派組織「アルカイダ」への復讐心から戦場に向かった若者の一人だった。同氏が海兵隊に志願した2004年は、約3000人が犠牲となった9.11同時多発テロの記憶がまだ生々しい時期だった。「首都ワシントン近郊で育った私は、ハイジャックされた航空機が突入したペンタゴンのすぐ近くで暮らしていた。10代の多感な年齢で、復讐したいと願うのは自然なことだ。学業には関心がなく、高校の卒業直前に軍隊を志願した。海兵隊を選んだのは、確実に戦闘に参加できると考えたからだ」
だが、実際に戦地に向かうと米国が目標に掲げたイラクの民主化やテロの根絶が困難であることは明らかだった。「今のイランでも似たような流れが見えている。明確な目的も終わりもない戦争で、新しい世代の兵士たちが命を落とすのを見たくない」と語るシムキンズ氏は、戦場の現実を知るジャーナリストとしての立場から、米軍や防衛テクノロジー分野の最新動向を伝えている。
「防衛テクノロジーの展示会に足を運ぶと、いつも奇妙な思いにとらわれる。さまざまな企業が集まって、自分たちのシステムを並べているが、あの光景は、自分にはかなり不気味なものに思える。会場に並ぶ兵器は、すべてが華やかで洗練されていて、いかにも魅力的に演出されている。しかし、その横をスーツ姿で歩く来場者たちは、そうした兵器の標的にされる側がどんな思いを味わうのかをまったく理解していない。現実から完全に切り離されている」
一方で、戦争が利益を生むビジネスであることもまた、否定のしようがない現実だ。「昔からずっとそうだった」と語るシムキンズ氏は、海兵隊の英雄として有名なスメドリー・バトラー少将が1935年の著書に記した「戦争は、利益がドルで計算され、損失が人命で数えられる唯一の分野だ」という言葉を挙げた。
20世紀初頭に二度の名誉勲章を受賞したバトラー少将は、退役後に反戦活動家に転じ、「War Is A Racket(戦争はカネになる)」と題した著書でそう論じていた。
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