23区最後の鉄道空白地帯がなぜ…5年連続で全国ワースト「日暮里・舎人ライナー」が日本一の混雑路線になったワケ

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舎人ライナーの利用者数は15年で倍近くに

2025年12月22日から翌2026年3月27日までの平日朝、東京都と足立区が共同で取り組んでいた“日暮里・舎人ライナーにおけるバスを活用した実証実験”が終了した。

日暮里・舎人ライナー(舎人ライナー)は2008年に開業した路線で、東京都荒川区に所在する日暮里駅と足立区の見沼代親水公園駅とを約9.8キロメートルで結んでいる。舎人ライナー沿線は開業前まで“23区最後の鉄道空白地帯”とも呼ばれ、同区間には都バスの「里48」系統が運行していた。

この里48は舎人ライナーとほぼ同じルートを走っている。通常、鉄道とバスが同一ルートで競合する場合、速達性や定時性の面からバスは乗客を奪われる。両者が利用者を奪い合う構図は事業者にとって経営的に非効率であり、そのため里48は舎人ライナーの開業と同時に廃止されてもおかしくなかった。

しかし舎人ライナーという悲願が達成されながらも、状況は東京都・足立区の思惑とは違った方向へと進み始める。それは、舎人ライナーが日本一の混雑路線になるという事態だ。

舎人ライナーが開業した2008年度は、1日の平均輸送人員が約4万8000人。そこから輸送人員は右肩上がりで増え続けていった。そして2024年度は約9万5000人にまで達した。日本全国が人口減少局面に入っているにもかかわらず、舎人ライナーの利用者数は約15年で倍近くへと増加したことになる。こうした事態を受け、東京都は路線バスとして里48の運行を継続している。

国土交通省の調査・統計によると、2024年度における舎人ライナーの混雑率がもっとも高い区間は「赤土小学校前駅→西日暮里駅間」で177%に達した。これは全国の鉄道路線で最悪の数値であり、舎人ライナーは5年連続で混雑率ワーストという不名誉な称号を受け続けている。

東京都交通局は、開業前に舎人ライナーがここまで混雑することを予測できなかった。そうした面だけ見れば、日暮里・舎人ライナーは公共交通として成功した部類に入るといえるだろう。なぜなら鉄道路線が混雑することは経営的に黒字となり、それは一般的に“よいこと”と解釈されるからだ。だが、それも度が過ぎると、負の影響が大きくなって見過ごせない行政課題になる。

混雑が激しくなったことによって、ホームで電車を待つ人たちが乗れない事態が発生したり、車内の乗客が窮屈に感じたり、不快感が高まったりする。それだけであれば利用者が我慢すれば済む話だが、混雑によって遅延や事故といった輸送障害が起きやすくなる。人命に関わる事故も起こるだろう。

加えて輸送障害は、時に社会に混乱を与え、経済に負の影響をもたらすこともある。そうした事態を未然に防ぐためにも、行政や鉄道事業者には混雑を緩和するための手立てを講じる責務がある。

混雑で乗れない客をバスで運ぶ

冒頭で触れた実証実験は、朝7時から8時までの1時間に江北駅から日暮里駅へと向かう直通バスを3便走らせるという内容で、これは足立区が以前から繰り返し東京都に要請してきた施策のひとつだ。

「舎人ライナーは始発駅でもある見沼代親水公園駅から座席が埋まっていることがあり、途中からは混雑が激しくて乗れない事態も起きています。今回の実証実験はそれらの混雑で乗ることができない利用者に向けた施策です。

直通バスの始発を江北駅に設定したのは、東京都との協議によるところが大きいのですが、バスを乗り入れられるロータリーが駅前にあったことも理由のひとつです」と話すのは、足立区都市建設部交通対策課の担当者だ。

筆者は以前から舎人ライナーを断続的に取材しており、これまでにも混雑の問題は何度も話を聞いてきた。過去の担当者は「舎人ライナーの当該区間の定期券を持っている利用者は、里48にも乗車可能な共通定期にするという特例措置を設けてほしい」と提案していた。

これなら朝は混雑を避けて里48を使い、夕方は所要時間が短い舎人ライナーを使うといったハイブリッドな使い方ができる。しかし、交通局はなかなかクビを縦に振らず、ようやく今回の直通バスという実証実験にまで漕ぎ着けた。

「実証実験でバスを利用できるのは、事前に申し込みをした足立区民だけです。また、申し込みの条件には同区間の舎人ライナー定期券利用者という条件をつけています。最終的に350人から利用申請がありました」

担当者によると、実証実験にかかった費用は約2600万円で、東京都と足立区で折半したという。

実証実験は3月27日に終了し、足立区は区民にアンケートを実施している。寄せられた意見を参考に、路線バスを引き続き運行するかどうかを判断するという。

鉄道空白地帯がなぜ「日本一の混雑路線」に?

それにしても、それまで鉄道空白地帯だった舎人ライナーの沿線が、なぜ日本一の混雑路線へと姿を変えたのか?

もともと舎人ライナーの沿線は都市再生機構(UR)や都営住宅といった大規模集合住宅が立ち並ぶエリアだった。そのため、決して人口が少ないエリアではない。

ただ、それら居住者は多くが地元に密着した生活を送っていた。そのため、都心部に通勤・通学する人は少なく、舎人ライナーが開業してから10年間は沿線にも農地が多く残り、東京23区の喧騒を感じさせない雰囲気が残っていた。

そうした沿線環境だったこともあり、東京都は鉄道空白地帯を解消することを優先し、利用者の想定を少なく見積もった。利用者が少なければ、鉄道車両のほか線路や駅もコンパクトで済む。それは工費や工期だけではなく、開業後から永続的に発生する維持費にも反映される。つまり舎人ライナーは、採算性から逆算して導き出された規格の鉄道だったのだ。

平たく言えば東京都は舎人ライナーの建設費をケチったわけで、沿線自治体の関係者たちからは都の需要予測を暗に批判する声も聞かれる。

関係者たちによる批判は当然なのだが、開業前の舎人ライナー沿線の風景を見れば、東京都が採算性を疑問視してコンパクトな規格の鉄道にしたことは仕方がないことだったのかもしれない。

割安な地価が、沿線を人口爆発へと導いた

ただ、東京都交通局がまったく舎人ライナーに後ろ向きだったわけではない。例えば、2008年にJTBパブリッシングは『るるぶ東京都バスで散歩』という雑誌を刊行している。誌名から窺えるように、同誌は都バス路線に乗ることを前提としつつ東京各地の観光地などを紹介する内容で、スポンサーは東京都交通局だった。

そして、都バスの雑誌にもかかわらず、開業したばかりの舎人ライナーを紹介するコラムが掲載されている。都バスも舎人ライナーも同じ東京都交通局が運行する公共交通機関だからそれほど違和感はないかもしれない。しかし、同誌には同じ交通局が運行している都営地下鉄や都電荒川線の記事はない。舎人ライナーのコラムだけが掲載されているのだ。

同誌に舎人ライナーのコラムが掲載された背景には、スポンサーである東京都交通局がコラム掲載をゴリ押しして頼み込んだからという経緯がある。なぜ、そんなことを知っているのかといえば、同コラムは無署名記事ながら、執筆したのが筆者だったからだ。とはいえ筆者はこうした姿勢を批判するつもりはない。むしろ、舎人ライナーが無用の長物との烙印を押されないためにも、あらゆる媒体を使って需要を喚起する手を打っていたと好意的に受け止めている。

また、交通局は舎人ライナーで沿線外需要を生み出せる唯一の集客施設ともいえる舎人公園で、毎春に開催される千本桜まつりにブースを出展し、舎人ライナーのPRに努めている。

こうしてゴリ押しした同コラムは大した影響を及ぼさなかったと推測でき、また千本桜まつりのブース出展の効果も大きくないと思われるが、東京都の思惑とは別のところで舎人ライナーは注目を集めた。それが、庶民でも手が届く一戸建てという夢のマイホームの実現だった。

東京で一戸建てという夢は、不動産価格が高騰した2000年代後半から非現実的になった。それを叶えられる唯一の沿線が舎人ライナーだった。そうした安価な地価に着目したデベロッパーたちは、舎人ライナー建設時から宅地化に着手。ファミリー層を中心に人気を高め、急速に沿線人口は増加した。

そして転入してきたファミリー層は、開業直後の舎人ライナーを通勤・通学の足として利用した。こうして舎人ライナーは日本一混雑する路線へと早変わりする。

(Gettyimages以外の写真はすべて筆者撮影)

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