「とりあえず歓迎会」は逆効果!? ノンアルでも防げない若手の『びっくり退職』の恐怖
乾杯の声だけは元気がいい。でも、グラスの中はウーロン茶で、1時間後には「お疲れさまでした」と解散。そんなノンアル・短時間の歓迎会が増えている。
形は変わった。でも、「なぜ歓迎会を開くのか」というしっかりとした意味づけが伴っていなければ、ただの恒例行事に過ぎない。その積み重ねが、新入社員の早期離職や、本音を言わずに働き続ける「静かな退職」につながるリスクがあると言ったら、驚くだろうか。
心理的安全性研究の第一人者・石井遼介氏に、歓迎会のあり方と組織づくりの本質を聞いた。
アルコール頼みの歓迎会は限界
春は歓迎会のシーズン。近年は、ノンアル歓迎会や勤務終了間際の短時間開催など、従来とは異なる形が広がっている。中には歓迎会そのものを開催しない会社も出てきた。石井氏は、この現状を「いい悪いではなく、世の中の変化のひとつ」と受け止めた上で、こう指摘する。
「アルコールありの飲み会は、ある意味、場の設計をアルコールに丸投げしていたと言えます。お酒が入ることで緊張がほぐれ、主催者側がアレコレ考えなくても、なんとなく盛り上がれた。しかし今は、その魔法が通じにくくなってきているのが実情です」
ただし、そもそもアルコール自体に「新しい関係を作る力」があるのかというと、それもまた別の問題だと石井氏は言う。
「アルコールは既存の人間関係を”増幅”させるものだと思っています。もともと仲がいい人たちは、さらに話が盛り上がり、関係も深まる。でも、もともと距離がある人同士は、離れた席に座っていたりしますよね。アルコールがあるから関係が劇的に変わるかというと、実はそうでもないんです」
さらに、アルコールありの飲み会は、解決しにくいリスクもはらんでいる。
「アルコールに弱い人が酔って不適切な発言や行動をしてしまったときに、周りがどれだけ止められるか、という問題もあります。実際に、思わぬ説教・グチ・ケンカなど、嫌な体験をした人も少なくないでしょう。つまり、アルコールありの飲み会は、思っているほど万能ではないのです」
タイパ世代が飲み会を避けるワケ
アルコールの魔法が通じにくくなった背景には、若い世代の価値観の変化というよりも、「環境の変化」がある。石井氏はその根本に、選択肢の爆発的な増加があると指摘する。
「コスパ・タイパは少し寂しい考え方だと思っていますが、これらが重視される理由は、20年前と比べて選択肢が圧倒的に増えているからです。自宅に帰れば、スマホでゲームや動画など、お金も手間もかけずに一人で楽しめる選択肢がいくらでもあります。
それらと、お金と時間を使って職場の人たちと会うことを天秤にかけたとき、後者を選ぶには、それ相応の理由や価値が必要となる訳です」
かつては「他にやることがないから飲み会に行く」という時代もあった。しかし今は「行かない理由」が、いくらでもある時代なのだ。
「そんな時代に、『歓迎会をやるからおいで』だけでは魅力が伝えられませんよね。まずは、この場がどういう意味を持つのか、なぜ参加する価値があるのかを、きちんと言葉を尽くして伝えることが必要です」
そしてこの変化は、飲み会だけの話ではないと石井氏は言う。
「仕事の指示も同じです。昔は『上の命令だから』で成立していた仕事も、今は『なぜこれをやるのか、これをやることで何がよくなるのか』を説明することが大切になってきました。タスクを渡すだけでなく、意味を一緒に渡すコミュニケーションが大事なんです」
恐怖の「びっくり退職」の正体
歓迎会のあり方の変化は、組織全体のコミュニケーションの変化と地続きだ。では、その変化に気づかないまま「なんとなく歓迎会」を続けた組織には、何が待っているのか。
「入ってきた人が職場になじめず、本来持っている力を発揮できないまま、組織に根を張る前に辞めてしまう。そんな残念な結果も考えられます」
問題は、歓迎会そのものではない。歓迎会を開くことの意味が考えられていないことにある。
「歓迎会は、新入社員を迎え入れる取り組み全体の中のひとつのパーツです。その人が職場になじみ、早く活躍できるよう設計された全体像があって、そこで初めて機能します。『歓迎会を開いたから大丈夫』で終わらせてはいけないのです」
多くの会社では、「ずっとやってきたから今年もやる」という惰性で歓迎会が続いている。その結果、手段だったはずの歓迎会が、いつの間にか目的化してしまっているのだ。
こうした無自覚な惰性が、職場のコミュニケーションそのものを蝕んでいく。
その表れのひとつと考えられるのが、昨年社会問題にもなった退職代行サービスの急増だと、石井氏は推測している。
「問題があっても指摘できない、本音を言えば煙たがられる、表面的なコミュニケーションしかできない。そうした状態が続くと、『この会社には何を話してもムダだ』という感覚が生まれていきます」
そうした職場では、退職の意思さえ言い出せないまま、ある日突然辞表だけが届く。前触れのない「びっくり退職」だ。
こうした問題を解決するカギとなるのが、石井氏が長年研究してきた「心理的安全性」だ。これは、単に仲がいい職場という意味ではなく、組織の中でお互いに「言うべきことが言える」「本音で話せる」という状態にあり、成果を出すために率直に話し合える関係性を指す。
この心理的安全性の確立に取り組んでいる組織では、まったく異なる光景が広がっているという。
「急に辞表を出すのではなく、多くの場合、事前に相談が来るようになります。そこから仕事量の調整や部署異動などの建設的な解決策を求める話し合いができるため、『びっくり退職』は起きにくいのです」
歓迎会を劇的に変える「問い」
では、どうすれば歓迎会を「意味のある場」に変えられるのか。
「大事なのは、その場でコミュニケーションが生まれるような『面白い問い』を用意することです。名前・年齢・前職などの自己紹介だけでは、お互いに相手のことを知ったとは言えませんよね。
しかし、『まだ誰にも話したことがない、この仕事を選んだ理由はなんですか?』といった問いなら、誰もが考え込むはずです。また、お互いに自慢話をし合う場を作るのも効果的です。自分から自慢するのは気が引けるけど、場として用意されていれば気持ちよく話せます」
石井氏は、既存メンバーも同じ問いに答える形にすることが重要だと話す。そうすることで新入社員の歓迎だけでなく、既存メンバー間の相互理解を深めるという目的も、一度に達成することができるという。
「『3〜4人で1組になり、全員の共通点を3つ以上探す』というワークもオススメです。長年一緒に働いているのに知らなかった共通点が出てきたりして、既存メンバーだけのチームからも驚きの声が上がることもあります」
意味のある歓迎会にすることは、決して難しくはない。問いひとつで、場はがらりと変わるのだ。
若手から仕掛ける逆転の歓迎会
ここまで、主催する側の「場づくり」の重要性を語ってきた。では、歓迎される側の若手はどう向き合えばいいのか。
「正直、場の設計がない飲み会も実際にあると思うので、必ず参加すべきとは言いづらいんですよね」と石井氏は苦笑する。
では、意味を感じられない歓迎会に呼ばれたらどうすればいいのか。石井氏が提案するのは、意外な逆転発想だ。
「思い切って、『私にも、お手伝いできることはありますか?』と言ってみるのはどうでしょう? 参加する側ではなく、設計する側に回ってしまうんです。そうすることで、自分にとっても意味のある場に変えられる可能性があります」
さらに、歓迎会という形にこだわらなくてもいいとも言う。
「チームのメンバー全員と、一対一でランチに行くだけでも、だいぶ働きやすくなりますよ。歓迎会という大げさな場を設けなくても、一対一で話せる関係を作ることの方が、実は大事だったりします」
歓迎会の形が変わっても、人と人がわかり合おうとする営みは変わらない。その場が「ノンアルか否か」よりも、「そこに意味があるか否か」の方が、ずっと大切なのだ。
▼石井遼介 株式会社ZENTech代表取締役。東京大学工学部卒業後、シンガポール国立大学にて経営学修士(MBA)を取得。研究者・データサイエンティストとして組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発。2020年に上梓した著書『心理的安全性のつくりかた』は「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」で「マネジメント部門賞」を受賞。日本における心理的安全性研究の第一人者として知られる。
取材・文:安倍川モチ子
WEBを中心にフリーライターとして活動。また、書籍や企業PR誌の制作にも携わっている。専門分野は持たずに、歴史・お笑い・健康・美容・旅行・グルメ・介護など、興味のそそられるものを幅広く手掛ける。
