(※写真はイメージです/PIXTA)

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念願の地方移住を果たし、豊かな自然に囲まれた暮らしを手に入れたはずが、見えない「同居人」の存在に脅かされるケースが後を絶ちません。ある家族の事例から、東日本と西日本で異なる害獣リスクの正体と、多くの家庭が陥る対策の落とし穴について見ていきます。

築40年の古民家で始まった「見えない侵入者」との攻防

IT企業に勤務する佐藤健太さん(45歳・仮名)。月収は50万円ほど。場所を問わない働き方が推奨されるなか、妻の直子さん(42歳・仮名)と小学生の長女の3人で、都内から兵庫県内の里山地域へ移住を決めました。購入したのは、手入れの行き届いた築40年の木造戸建て。660万円で購入し、コツコツとリノベーションをしながら、理想の住まいへと近づけていました。

「異変に気づいたのは、移住して2年目の4月でした」と健太さんは振り返ります。

夜中、天井裏から「ドスドス」と何かが走り回るような重い足音が聞こえるようになったそうです。当初はネズミかと思いましたが、足音の主はもっと体が大きいようでした。さらに数日後、家の周囲には強烈な獣臭が漂い始めます。

「最初は我慢していたのですが、ある日、押し入れの天井に茶色いシミができているのを見つけて。妻が『これ、おしっこじゃない?』と言い出したんです。そこからはもう、怖くて夜も眠れなくなりました」

健太さんは市販の忌避スプレーや超音波発生器を購入し、自ら天井裏に潜って対策を試みました。一時は足音が止まったものの、1カ月もしないうちに再び異変が起こります。

「今度は以前より激しい音がしました。慌てて専門業者を呼んで調査してもらうと、侵入していたのはイタチでした。業者の方からは『この地域はイタチの被害が非常に多い。一度追い出しても、入り口を完全に塞がないと執着して戻ってくる』と指摘されました」

断熱材はボロボロに引き裂かれ、隅には大量の糞尿が溜まっていました。結局、清掃と除菌、そして数カ所の侵入経路の封鎖を含め、数十万円の出費を余儀なくされました。

「自然豊かな場所だから仕方ない、では済まされない実害でした。もっと早く地域の害獣特性を知っておくべきだったと痛感しています」

データが示す「獣害の地域格差」と再発のメカニズム

AAAメディアソリューション株式会社/駆除ザウルスが行った調査によると、害獣被害には明確な地域特性と、深刻な再発リスクが存在することが明らかになっています。

全国共通で最も被害が多いのは「ネズミ」ですが、それに次ぐ害獣には東西で大きな差が見られます。関東や中部などの東日本エリアではハクビシンが約2割を占める一方、関西や九州などの西日本エリアではイタチが2割を超えています。

【自宅に侵入した、または侵入が疑われた害獣】

■北海道…ネズミ(48.9%)、カラス(29.8%)、イタチ・タヌキ(6.4%)

■東北…ネズミ(32.1%)、ハクビシン(25.0%)、コウモリ(23.2%)

■関東…ネズミ(48.7%)、ハクビシン(21.9%)、カラス(18.5%)

■中部…ネズミ(35.9%)、コウモリ(21.0%)、ハクビシン(19.9%)

■関西…ネズミ(36.7%)、イタチ(23.2%)、カラス(21.3%)

■中国・四国…ネズミ(37.3%)、ハクビシン(18.7%)、カラス(17.3%)

■九州・沖縄…ネズミ(43.2%)、イタチ(21.6%)、コウモリ(18.2%)

環境省の資料によれば、ハクビシンは元来、東日本を中心に分布を広げてきた経緯があります。対してイタチ(特に外来種のチョウセンイタチ)は、西日本の平野部や都市部で高い適応力を見せています。移住や転居の際は、その土地で「どの動物が優占種か」を把握することが防衛の第一歩となります。

さらに調査では、被害の異変を感じた季節を尋ねています。それによると「春(48.6%)」と「夏(46.4%)」に集中。これは、多くの野生動物が繁殖期を迎え、出産・育児のために安全で暖かい場所を求める時期と一致します。断熱材が敷かれた天井裏は、彼らにとって理想的な「巣」になってしまうのです。

最も注目すべきは、被害を経験した家庭の約8割が「再発」を経験しているという事実です。佐藤さんのように「市販グッズで自力対策(46.7%)」を試みる人は多いですが、根本的な解決に至るケースは稀です。

その理由は、野生動物の執着心と侵入能力にあります。農林水産省の野生鳥獣被害防止マニュアルでも指摘されている通り、わずか数センチの隙間があれば彼らは侵入可能です。単に「追い出す」だけでは一時的に立ち退かせたに過ぎず、執着心を持った個体は必ず戻ってきます。

調査では「睡眠不足・不眠」を訴える層が1割を超えています。足音による騒音だけでなく、糞尿による衛生環境の悪化は、アレルギーや感染症のリスクも増大させます。地方移住や郊外での戸建て生活を維持するためには、一時的な対処療法ではなく、専門的な知見に基づいた対応と、地域特性に合わせた長期的な警戒が不可欠といえるでしょう。