斜め向きの視線と強い隈取りに注目!『絹本着色十一面観音像図』11の顔に込められた救済のメッセージとは【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】
十一面の顔をもって人々を救う観音菩薩!
やや斜め向きに描かれた特異な仏画 ── 絹本着色十一面観音像図
絹本着色十一面観音像図(けんぽんちゃくしょくじゅういちめんかんのんぞうず)(国宝)は、正面向きに表現されることが一般的な仏像仏画の遺品の中にあって、やや特異な印象を与える描かれ方をしているのが気になる。顔が斜め向きに描かれ、肉身には強い隈取りが加えられている。淡い彩りによる穏やかな色調を好んだ平安時代の技法と異なるところを見ると、古く、奈良時代の作ではないか、と識者の間では推測されている。
ところで、この十一面観音像は『観音経』によると、千手観音と同じく、三十三の姿に変化してそれぞれの衆生を救済するらしい。特に『西遊記』の三蔵法師のモデル、玄奘三蔵法師が漢訳した「十一面神呪心経」に説かれた姿を表しているという。頭上には仏面を含め、菩薩面から瞋怒面、狗牙上出面、大笑面までの十面を乗せ、悟りに至る十一段階に対応しているとのこと。かなり、意味深長な仏像である。
しかし、他方において、色隈と暈繝を多用し、截金文様を使って荘厳するのは平安時代後期の仏画に共通する傾向だ。だから、奈良時代の作では、との見方は違う、と指摘する専門家もいる。いずれの推測が正解なのか、時を待つほかないが、どんな世界においても見解の相違はある。じっくりと研究の成り行きを見守りたいものである。
蛇足になるが、文政4年(1821年)当時、奈良県斑鳩町の法起寺の表具に歓喜天※の本地仏(本来の姿)は十一面観音像だと墨書されていたことが確認されている。周知の通り、法起寺は別名岡本尼寺などと呼ばれ、もともと聖徳太子が法華経を講じた岡本宮を寺に改めたところ。しかも尼寺である。そこで歓喜天の本地仏として祀られていたというのは意味が深い。
※歓喜天=象の頭を持ち、人間の体をした姿で、男女が抱き合う双身像で表現される仏教の守護神。もとは修行者を惑わす魔物だったが、仏法の守護神となった。昇天ともいう。
絹本著色十一面観音像図
平成6年(1994年)に国宝指定 / 奈良国立博物館所蔵
奈良国立博物館の十一面観音像図は絹本着色像として現存最古の独尊像図。本像図は、かつて法隆寺の里坊の1つ龍田新宮の本地仏として描かれ、境内にあった伝燈寺(未確認)に伝来。のちに江戸時代末期に法起寺所蔵(奈良県斑鳩町)となったという。その経緯から奈良時代仏画の表現を踏襲しているとの見方もある。ただし、多彩な截金文様を用いた院政期(11~12世紀)に唯一のもののため、平安時代、12世紀前半の作品であることを示唆するという。一幅・絹本着色/ 縦169.0cm・横90.0cm。
にゃん太:十一面観音で頭に11個の顔があるんだよね。なんであんなに顔を付けてるのかな?
わん爺:あれは11の顔で人々みんなを救うという意味なんだな。いちばん上の大きな顔は如来相で悟りの表情、2段目の3面は慈悲の菩薩面、その下の左側3面は醜悪な人々を悔悟させて仏の道へ導く瞋怒面。右側3面はいろんな困難を取り除く狗牙上出面、後背の1面は悪行から善行へ導く暴悪大笑面だそうだ。まぁ、何がすごいかといえば、11の顔に意味を持たせて人々を救うという思想をつくったことかのう。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話』著:鈴木 旭
