井上尚弥が燃えた「中谷なら井上を倒せる」の声 “伝説と呼ばれる日”に揺れた怪物の心「舐められてんじゃないか。やってきたことが違う」

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井上と中谷の対戦には世界が注目している(C)Getty Images

流行りの“煽り”は必要なし。井上尚弥が熟成させたドラマ

 ついに日本ボクシング史上で「最高」とも言えるマッチメイクが実現する。

 3月6日、東京都内で記者会見が開かれ、世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)と3階級制覇王者の中谷潤人(M.T)が出席。5月2日に東京ドームで世界同級4団体統一タイトルマッチ12回戦を開催すると正式発表した。

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 25年の春に日本国内の年間表彰式で「1年後の東京ドームで盛り上げよう」と言葉を向けて以来、井上は常に中谷に対して“先手”を取り、自らの存在感を示してきた。そんなプロモーターのような一面を覗かせながら、丹念に“ドラマ”を作り上げてきた。そこには、昨今の流行でもある「煽り」は皆無だった。

 数多の興行に携わってきた大橋秀行会長が「本当にやるんだな、戦うんだなという気持ち。とうとうこの日が来るんだなと。見たいような見たくないような、ね」と漏らすほどだ。尚弥にも充実感があったのだろう。会見冒頭に中谷と向かい合った怪物はガッチリと握手を交わした。その珍しく目尻が緩んだ表情は、「すごくモチベーションも上がる」と指摘した雰囲気を楽しむかのようでもあった。

 井上が東京ドームのリングに立つのは、24年5月のルイス・ネリ(メキシコ)戦以来2度目。この時は、同会場でのボクシング興行開催が1990年2月に「剛腕」マイク・タイソン(米国)が、ジェームズ・ダグラス(米国)とぶつかった世界戦以来の出来事であったために、「舞い上がってはいないけど、浮き足立ったというか、そういう感じだったかなと」と振り返った。さしもの“モンスター”も特別な空気に緊張していたというわけである。

 では、今回はどうか。「最強vs最強」と評される無敗同士のマッチアップについて「僕のボクシング人生においては一つの通過点に過ぎない」と会見中に強気な言葉を繰り返した井上は囲み取材で、その心境を打ち明けている。

「非常にワクワクしてますね。プロデビューしてから自分がこの状態になるというのは初めてのことですし。それだけ、世間の注目はもちろんですけど、自分自身がこの試合にどれだけの気持ちで臨んでいるかというのが現れていると思いますね」

会見後の囲み取材に応じる井上尚弥(C)CoCoKARA next

過去イチの己を作る覚悟

 尚弥が日本人選手と世界戦に臨むのは、スーパーフライ級に属していた2016年12月に河野公平と対峙したのが最後。以降は、世界の強豪たちと拳を交わし、覇道を突き進んできた。

 ゆえに特別な感情も生まれる。「(日本人対決は)やっぱ違いますね」と冷静に語る尚弥は、「同じ時代に、お互いが全盛期と言える時代に、そして、お互いが積み上げてきた戦績というものも、見れば、運命的なまあ言っていんじゃないですか」と続ける。

「自分も最初は気にしていなかった。でも、階級が近づくにつれてファンが『中谷なら井上を倒せるんじゃないか』と。ちょっと待てよ、と。そんなところからですね。少なからずファンからそういう声が出ているのであれば、自分は証明したい。(ファンの声は)自分のこう積み上げてきたキャリアを見た時に、舐められてんじゃないかという気持ちにもなります。まぁやってきたことは違うよってところで、5月はしっかりと格の違いを見せて、勝ちたい」

 無論、中谷を軽んじるという意味ではない。それは会見内で「戦い方もいろいろ想定してます。触れさせずに打っていく、そんな戦い方も、接近戦も、距離を取る戦い方も、全てを想定して準備します」と静かに語ったところからも明白だ。無敗の挑戦者と最高の戦いをするために、“過去イチ”の己を作る覚悟だ。

 最大限にリスペクトをしている。だからこそ、自分が壁となり、“格の違い”を証明する。「THE DAY やがて、伝説と呼ばれる日」――。そう銘打たれた興行で“モンスター”はなにを世間に見せつけるのか。価値が高まっているドラマの行く末に興味は尽きない。

[取材・文/構成:羽澄凜太郎=ココカラネクスト編集部]