「ここはカレーも出るんですか?」
「昨日(月曜日)はカレーだったんですよ。めちゃめちゃよかった」

 私が知っている情報では、ここの炊き出しは火・木・土・日の週4日である。昨日もあったのだろうか。

「正直言うと、毎日どこかであるっす。場所は少しずつ違うんですけど。昨日はあそこの炊き出しが最終日だったんすよ」

 短パン小僧は駅前の大通りを挟んだ反対側にあるパチンコ店のほうを指差した。そこでは4年間、炊き出しが行われていたが、なんと昨日をもって撤退してしまったのだという。

「めちゃめちゃよかった」というカレーは、どんな味だったのか。一度は食べてみたかったものだ。

「今日の朝は(寿町の中にある)寿公園でも炊き出しがあったんですよ。あっちに住んでいる人に聞いてみたらいろいろあるはずですよ。ってか、お兄さんなんか普通に働いてそうじゃないですか。なんで、こんなところいるんすか?」

 とくに小綺麗な格好をしているわけでもないのだが、30代というだけでやはり炊き出し界隈では浮いてしまう。それに、私はサンダル履きでもなければ、歯も1本も抜けていない。

 短パン小僧は28歳だと言った。1カ月前に横浜の綱島にある実家を出て、寿町のすぐ裏手にある山田町に住み始めた。短期の派遣に登録し、月に数日だけ仕事に行っているという。

 理由はぼかされてしまったが、「親と喧嘩して、今は実家にいるのがダメなんですよ」と話していたので、「いい加減、仕事しろ」などと言われ、追い出されたのかもしれない。

「ってか、まだ始まんないんすかね」

 イラつく短パン小僧に「19時半に始まったこともあるよ。あっちにも都合あるんじゃないの」と、間に並んでいるおじさんが言う。

「ふざっけんなよ。遅すぎですよ。もう15分くらい待ってるんすよ」

 あえて口にはしないが、文句を言う立場ではないだろうとおじさんは感じていたと思うし、私もそう思った。

 しばらくすると行列が動き出した。外国人のボランティアたちから配られたのは、小さめのおにぎり1つとバナナ1本だった。

 おにぎりは、わかめと鮭のふりかけを混ぜただけのもので、具は入っていない。かなり腹が減っていたので、1分足らずで完食してしまった。

「おにぎり1個とバナナ1本だけか……」

 先ほど、身勝手に憤る短パン小僧を心の中でたしなめていたはずが、炊き出しの内容に不満を感じている自分がいた。少し離れた場所でおにぎりを頬張っている短パン小僧をチラッと見ると、やはり私と同じ表情をしていた。

◆愛を煮込む雑炊

「雑炊のときとかヤバイっすよ、マジで。あれはうますぎる。しかも、おかわり何杯でもできるんですよ。最終的に4周くらいした人が勝ちみたいな。だから、早く並ぶみたいな。お兄さん、そこは行ったほうがいいですよ」

 短パン小僧がそう教えてくれた。そんなに勧めるのなら明日にでも行ってみたい。いつ、開催されるのだろうか。

「えっと……」

 短パン小僧が日程を思い出そうとしていると、「毎週金曜13時から!」と、間にいた70代のおじさんが即答した。

 その早さは新参者である私たちとは明らかに格が違った。炊き出し界隈には、炊き出しのスケジュールをすべて丸暗記し、その時間になると体が勝手に動き出すレベルまで達している達人が何人かいるのだ。

「火曜と木曜は19時から、土日は18時から!」

 おじさんはまるで「九九」を唱えるくらい、板に付いている。

 短パン小僧絶賛の雑炊は、寿町の中にある寿公園で振る舞われるという。寿町にもうひとつある公園、横浜市寿町健康福祉交流センター前の広場もそうだが、寿公園ではドヤの住人同士が口論する光景をよく目にする。