「炊き出し」に並ぶ28歳男性、おにぎり1個とバナナ1本にため息。生活保護やホームレスではない人たちも
「てめえ、何回言ったら、わかるんだよ」
「俺だけじゃねえよ、おまえの部屋もうるせえんだわ」
ドヤの中には3畳一間の狭い部屋が、いくつもひしめき合っている。テレビの音、ラジオの音、咳、くしゃみ、屁など、部屋から出た音は廊下に漏れ、そして各部屋に吸い込まれていく。
しかし、ドヤの中で喧嘩をしてしまえばドヤ中が騒動となり、場合によっては帳場(フロントにいる人間)に部屋から追い出されてしまう。そのため、表に出て言い合うのだ。
列のどこからかやってきた60代のおじさんが、短パン小僧になにやら耳打ちしている。金でも借りに来たのだろうか。おじさんが列に戻ると、短パン小僧は私の視線に気付いていたのか、思わせぶりな話し方でこう言った。
「ああいう人もいるんですよ」
「金でも貸してくれって言われたんですか?」
「いや、あの人なぜかいつも奢ってくれるんですよ。昨日は3000円くらい奢ってくれました。金も貸してくれるし、ヤバくないすか? だって、今日も朝から酒2本飲ませてもらってますから。でも、あんまりたからないであげてくださいね(笑)」
このおじさんも寿町で見かけたことがある。やはりドヤに住んでいるので、かなりの確率で生活保護を受けながら暮らしているはずだ。街で見聞きした限りでは、周りに大きな顔をするために人から金を借りておきながら、他人に金を貸している人なんかもいるようである。
とある月初めの夜、寿町を歩いていると、居酒屋から「かぐや姫」(リリース当時のグループ名は「南こうせつとかぐや姫」)の『神田川』が漏れ聞こえてきた。
しかし、街が潤う生活保護の支給日も、炊き出しは変わらず開催される。
寿公園に行くと、すでに順番取りのチラシが並べられていた。カレンダーを見ると、今日は木曜日。明日は雑炊の炊き出しである。
次の日、13時に寿公園に行くと、すでに公園の中で雑炊を食べ始めている人がいた。参加者は全部で120人以上はいるだろうか。
「今日の炊き出しは塩味の雑炊です。公園内では医療相談、法律相談、生活相談もしています。どうぞ、雑炊もおかわりしてくださいね」
生活困窮者支援団体『寿地区センター』のスタッフが、拡声器を使って案内している。この団体は1983年から40年以上、活動を続けているという。
雑炊の具材は、里芋、人参、小松菜、大根、しらたき、チャーシュー、キャベツの7種類と非常に豊富だ。午前8時〜10時にかけて野菜のカットをしているそうで、具材はインスタント食品ではなく、その日にカットして火を通したものだ。これだけのものをつくるとなると、相当の手間がかかるだろう。受け取った雑炊は、とにかく具が豊富で、短パン小僧が言うように2回、3回と、おかわりしたくなる。
「これ、うまいですね」
隣で雑炊を食べていた60代のおじさんに話しかけると、メニューは毎週雑炊だが、味はいくつかバリエーションがあるという。
「今日の塩味もうまいけど、カレー味が人気だよ。俺もカレー味の日が一番好き」
カレー味の雑炊とは珍しい。また、雑炊を食べに来てみることにしよう。
<取材・文・撮影/國友公司>
―[ルポ路上メシ]―
【國友公司】
1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。
2018年、西成のドヤ街で生活した日々を綴った『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)でデビュー。ライターとして取材地に赴き、その地に長らく身を置く取材スタイルを好む。著書に『ルポ歌舞伎町』、『ルポ路上生活』(KADOKAWA)、『ワイルドサイド漂流記』(文藝春秋)がある。X:@onkunion

