中村憲剛とともに写真に収まる高尾氏(写真右)と田代氏(写真左)。カナダで奮闘する。(C)Pacific FC

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 3月、今季はJFLを戦ういわてグルージャ盛岡に、カナダから新助っ人が加わったのをご存知だろうか。

 カナダ生まれでハイチ代表の24歳MFセドリック・トゥサンである。

  彼の前所属のチーム名を訊いてピンとくる人もいるのかもしれない。プレーしていたのはカナダの「パシフィックFC」。中村憲剛がS級ライセンス(現在はProライセンス)取得に必要な海外研修先として向かったカナディアンプレミアリーグ(カナダ1部)のクラブである。当時、メディアに何度か登場したムラサキ色のユニホームを覚えている人もいるのかもしれない。

 ちなみに中村もセドリックのプレーは現地でチェック済みで、「筋骨隆々の身体が光るボランチ(167センチ・67キロ)で、良いモノを持っています。だからこそ日本でも活躍してくれるのではないかと期待しているんですよね」と注目している。また岩手のGMはかつて千葉や日本代表でプレーした水野晃樹が務めているが、中村はセドリック加入にあたって水野にも、その特長などを伝えるため連絡を入れたという。

 さらにパシフィックFCは、中村憲剛を含め、川崎フロンターレとも縁が深い。その橋渡し的な役割りを果たしたのが、かつて川崎フロンターレのプロモーション部で働き、その後にカナダへ移住した高尾真人(株式会社A to代表取締役)である。

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 高尾が抱えるのは「日本とカナダを、主にサッカーで、スポーツで結びたい」という想い。その意味では、現在、パシフィックFCには日本人スタッフが6人も所属するようになり、高尾は中村とタッグを組んで今年初めに、「カナディアンプレミアリーグ、カナダ カレッジ・ユニバーシティ 合同セレクション(男女)」も日本で開催。カナダでプロ選手になりたい若者らを募った。

 そして今回のセドリックの岩手への移籍である。高尾は日本とカナダの行き来が徐々に増えていることを喜ぶ。

「私からしたらとんでもないことなんです。当たり前のような話になってきましたが、私がカナダに来た2018年1月頃には、現地にいたのはまさに私ひとりみたいな状況でしたから。周りにサッカー仲間がいない状態でしたが、今は少しずつ輪が広がってくれている。非常に感慨深いですね」

 
 高尾自身もセドリックの岩手移籍にも絡んだが、その背景には様々な縁もあったようだ。

「まずパシフィックFCのあるビクトリアと盛岡は姉妹都市なんです。しかも40周年の節目の年。また、私は学生時代、ジェフのユースでプレーしていましたが、その時のチームメイトに工藤浩平(千葉などで活躍/現・千葉U-12ヘッドコーチ)がいて、仲が良かった。そこで彼に後輩である水野晃樹くんにつないでもらい、セドリックを紹介させてもらったという形でした。すると、『興味がある、ボランチを探していた』ということで。

 セドリックはケンゴさんがこちらに来た時もチームの主力で、性格も非常に良い。そしてムキムキの身体で、技術もある。ただ、実はパシフィックFCとは契約満了になっていました。それは彼が新たなチャレンジ先を探していたからで、そこで岩手さんに興味を持っていただきました。

 セドリックはハイチ代表でもあるので、日本に行くと代表に呼ばれる回数が減ってしまうのではないか、また、岩手さんは現在、JFL所属というカテゴリーの面でも不安も感じていたようですが、新しい挑戦として日本を選んでくれました」

 そして高尾は興奮気味に続ける。

「これはとてつもないことだと思うんです。カナディアンプレミアリーグから日本に移籍した初めての選手ですから。日本の関係者にしてみれば未知で、彼が実際にどこまでプレーできるかで今後の流れも決まってくるはず。ただ、その道ができたことはめちゃくちゃデカいです」

 カナディアンプレミアリーグは現在の方式としてスタートしたのは2019年で、待遇面や環境面は未整備な部分を残す。ただ、中村も現地で目にしたのは、2026年のワールドカップ(アメリカ・カナダ・メキシコでの共催)を控える熱や、粗さはあるが一芸に秀でた興味深い選手たちであったと振り返っている。そんな知られざるタレントを日本クラブが発掘する構図ができれば、これまでにない強化ルートが生まれることにもなるだろう。
 
 一方で日本からカナダへ渡っている人も増えていると高尾は説明してくれた。

「パシフィックFCの事業部にいる(田代)楽(元川崎フロンターレスタッフ)は一昨年から所属していますし、去年はカナダ生まれの日本人トレーナーの方が来てくれました。また、留学生としてアルバイトしていた子がホペイロとして採用されたり、鳥栖で分析を担当していた玉木笙汰が海外で挑戦したいと、森谷賢太郎(川崎や鳥栖などで活躍/現・川崎強化部)の紹介で入ってくれました。

 さらに鹿島の育成年代のコーチや、中国(広州富力)の育成年代の監督、滝川二高でも4年ほど監督を務めた亀谷誠さんもパシフィックFCの下部組織や私が運営しているサッカースクールに携わってくれています。パシフィックFCの練習では日本人選手はいないのに、周りで動いているスタッフは5、6人が日本人というなかなか珍しい光景になっている。私も通訳として加わらせてもらっています」

 日本でプロクラブの指導者やスタッフになるには、狭き門をくぐり抜ける必要がある。ただ、カナダリーグは未発達な分、人材が限られている。その意味で海外で経験を積みたい人や海外での指導にチャレンジしたい人にとっては貴重な場と言えるのだろう。高尾は改めてアピールする。

「サッカー的には発展途上国なので、やっぱりコーチだったり、クラブスタッフだったり、アナリストらは現地の人材だけでは手が届きません。例えばゴールキーパーコーチの人数は本当に少ない。だからこそサッカーに携わりたい人にとってはチャンスしかありません。

 私だって最初はどうなるか分かりませんでしたが、『意志あるところに道は通じる』。まず行動してみることが大事だと思います。しかも来年はワールドカップがカナダでも開催されるので、間違いなく盛り上がる。チャンスは広がっていると感じますね」

 先日、こんなエピソードもあった。高尾は盛岡第一高校から短期留学の生徒をビクトリアで受け入れる活動もサポートしている。すると、川崎は東日本大震災を機に岩手県の陸前高田市と手を取り合ってイベントなどを実施してきたが、今回の留学生のひとりは、当時、現地で川崎の選手たちと触れ合った少年だったという。

 やはり人はどこでどんな縁でつながるか分からない。だからこそ、今後もパシフィックFCで働く日本人、そしてJリーグにやってくる助っ人は増えるのかもしれない。そうしたこれまでにない流れが生まれることを高尾は強く願っている。

 最後に高尾は「Jリーグ、WEリーグの強化担当者様のご連絡お待ちしております!!」とまぶしい笑顔で締めくくった。

(全2回/1回目)

※敬称略

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)