開幕戦は川崎に4失点大敗。自信に慢心が含まれていたことを気づかされた。(C)SOCCER DIGEST

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 何のためにサッカーをするのかと言えば、プロフェッショナルのピッチにおいては何を置いても勝つためである。それ以外の答えはまず存在しない。

 フットボールの世界にはしばしば“美しく負ける”まさしく美学が取りざたされることもあるが、それとて勝利へのアプローチをおろそかにしているわけではない。そう語る人々が望んでいるのは、美しく勝つことであり、それが最上だからこそ、泥臭い勝ち方ならばと注釈がつく。

 ところで現在開幕4試合勝ちなしの名古屋グランパスはと言えば、美しいと言うにはやや物足りず、かと言って泥臭く勝ちに行くことがあるかと言えば、そこまででもない。

 前節のFC町田ゼルビア戦(1−2)では、後半に徳元悠平のロングスローを連発し、とにかくゴールに迫ろうと努力をしていたが、それが泥臭いかと言えば違う印象を受けた。

 ただただ焦っている。長谷川健太監督にそのことを問えば、「落ち着きを持ちながら戦ってもらいたいという話をしたが、後半ああいう展開になり、どうしてもシンプルにゴールを目ざすという、ホームで勝点3を取りたいっていう選手の気持ちも分からんでもない」と声のトーンを落とした。

 遮二無二に攻める時間帯、がむしゃらなゴールへの向かい方、それが実際のピッチ上の力関係とかみ合っていないことは、この4試合における名古屋の不具合と重なるところがある。
 
 なぜこうなってしまったのか。違和感は沖縄でのキャンプ中盤から感じてはいた。おそらく史上最も早い1月6日のチーム始動から、指揮官はかなり強度の高いトレーニングをチームに課し、1週間後のキャンプインからはかなり早い段階で戦術練習を始めている。

 今季の補強の傾向は、手薄だったポジションへの中堅選手を中心とした獲得と、チームが求めるインテンシティを確保しつつ、ボールを保持した時に力を発揮できるタイプの確保にあったと見ることができる。宮大樹、原輝綺、佐藤瑶大、そして加藤玄らはその最たるもので、彼らのもたらすポゼッション思考とそのスキルは、確かなプラスアルファとして明確だった。

 ただ、チームは軸をぶらすことはなかった。ポゼッションと聞いてイメージするのは、保持しながら前進していく美しいフットボールだが、長谷川監督が伝えたのは「いかに背後を取るか」という部分に連なるボールの保持だった。

 ボールを奪われず、縦に急ぎすぎることなく、ボール回しと前線の動き出しをシンクロさせていく。出し手側は動き出しを見逃さない保持の仕方を、受け手側はボールの動きに合わせた動き出しを。

 これは昨季にも言えたことだが、永井謙佑、山岸祐也、キャスパー・ユンカー(現在は負傷中)、マテウス・カストロ、浅野雄也と揃う名古屋の前線は、数的不利でも突破できてしまうぐらいの強力な能力を保有している。彼らにいかに勝負をさせるかは、初めから彼らが持っているアドバンテージ、質的優位の最たるものだ。

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 だがキャンプも二次に突入すると、選手たちの言葉にやや変化が出てきた。「今年はつなぐことに力を入れているので」。それまで見てきた保持の概念とは明らかに異なる感覚に少し違和感を覚えながらも、しかし練習試合では東京ヴェルディや浦和レッズにしっかりと勝ちきる戦いを演じ、失点も少なく前線の選手の得点も多く、良い手応えを得てキャンプを終了。

 アピールに成功した大学3年生で、プロ契約に至った逸材・加藤がスタメン組でプレーし続けていたことでも、ボールを持って戦う傾向は強まり、開幕直前の非公開で行なわれたジュビロ磐田との練習試合でも内容は良かったとのことで、名古屋はボールを持って戦う自分たちに自信を持って開幕を迎えていたことになる。

 それが開幕戦で川崎の猛攻を浴び、まず自信に慢心が含まれていたことに気づかされた。「キャンプから磐田戦でもあまり先制点でやられてきてなかったから、そこでみんなが『うっ』てなっちゃって。それが4失点してしまった原因の一つかなとは思う」とはGK武田洋平の言。

 あれよあれよと食らった4失点のショックは大きく、続く2節はヴィッセル神戸とやり合ったものの2失点、3節のFC東京戦では3失点、4節で町田にも2失点を喰らい、計11失点はもちろんリーグワーストの数字だ。

 キャンプ中に負傷した三國ケネディエブスの調子が上がってこないこともあり、カバーリングやシュートブロックなど、最後の瞬間の守備力が落ちていることも否めない。

 この失点数に対し得点数は4と、そこまで悪くはないものだが多くもない。直接FKが1、PKが1、FKからのものが1、流れの中から奪ったものが1とほとんどがセットプレーというのもやはり悪くはないが、FWの得点がないのは指揮官も指摘するところで、それはつまりチームが意図する攻撃ができていないという意味にもなってくる。
 
 ここでようやく思い出されるのが、保持への意識の持ち方である。彼らはいま、保持からの崩しになぜか固執している。キャンプ序盤にあれだけ意識させられてきたはずの、“背後を取るための保持”はここまでほぼ見られず、ではシンプルな速攻がどれだけあったかと言えば数えるほど。1試合に何度、永井や和泉竜司らが背後に抜け出し、ボールが出てこないことへの不満をあらわにするシーンに出くわすことか。

 町田戦の試合後、永井は攻撃の優先順位について言及し、自分の動き出しにも反省点を見出しながらも「まずはオフサイドでもいいから出せばいい」と要求した。足もとから背後への選択肢の取り直しはまず不可能で、その逆はむしろ自然だ。

 そこから始めるべきだというのは、その試合のハーフタイムで長谷川監督が前半のリプレイ映像を見せ、「永井が良いタイミングで走っていて、使えなかったシーンがあった。こういうところをうまく使っていこうよ」と選手に伝えていることでもよく分かる。

 動き出しが見えているのか、見えていないのか、それは確かめようのない部分だが、実際に出てこない理由と、試合の様子を見ていれば分かることはある。まずはつなぐことを考えているから、そもそも前を見ていないのではないか。そして思う。どこで歯車は狂ってしまったのか。
 
 FC東京戦では、それでも保持しながら前進はできていたが、それも相手の罠だったことは失点の形を見れば一目瞭然で、そのリスクマネジメントの部分にも再考は必須。そしていまだ勝利無しの状況を思えば、チームは一度シンプルに自分たちの強みを活かす戦い方を選択したうえで、その枝葉として保持への意識を改めて持ち直した方が良い気もしてくる。

 チャレンジを止める必要はないが、結果とのバランスは取らねばならず、ひとつのチャレンジに勤しむあまりに、もともとの強みを使わずじまいでは本末転倒だ。町田戦後、長谷川監督はこうも言っている。

「この4試合、じゃあ一方的にやられたか、点差ほどやられたかって言ったら、そういうわけではないという風に思っています。そこはやっぱり自信を持ってやっていいところだと思っています。ただ、結果として今は出てないのも現実なので、そこの整合性というのを取っていかなきゃいけない」

 おそらくは町田戦もメンバーを見る限り、かなり割り切った戦い方を目論んだのだと思う。それでも割り切れなかったピッチ上の戦いぶりを見て、指揮官とチームの次の判断は注目のしどころだ。
 
 昨季は無得点での3連敗から、キャンプでの積み上げをかなぐり捨てるようなパワーサッカーで勝利をもぎ取った。あそこまで割り切った戦いを選べるか、そして実際にもできるか、あるいはそれでもやってきたこと、いまチャレンジしていることのディテールを詰めて勝点3につなげる方を選ぶのか。

 いずれにせよ同じなのは、そこに“縦への速さ”という名古屋の本質的な強さが含まれているかどうかであり、そこが最下位に沈むチームの突破口になるのは間違いない。

取材・文●今井雄一朗(フリーライター)