今季の終了前に続投が発表された松橋監督。「新潟の未来に繋いでいくために、引き続き真剣に取り組んでまいります」と意気込む。写真:鈴木颯太朗

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 2022年にアルビレックス新潟の指揮官に就任し、1年目でJ1昇格を達成し、2年目の23年はJ1で10位に導いた松橋力蔵監督。指導経験は豊富だが、その大半が横浜F・マリノスのアカデミー。横浜や新潟でコーチを経験したが、それでも監督としてここまでの成果を残したことを、驚きを持って受け止めた人も少なくないだろう。

「自分の中で何かをコントロールしようという感覚で接してはいません。それが自然とマネジメントになっているかもしれません。もちろん本当に必要なことは、必要なことで伝えますし、それはポジティブでもネガティブなこともない。普通に向き合ってきただけだし、違う力を使うとか、特別なことはしていません。

 僕は結構コーチとして長いので、選手と面と向かって向き合うというより、後ろから見つめることが多かった。そのスタンスがいつ始まったかは分かりませんけど、そういう目で見ている自分はコーチになってから早い時期、育成の時からそうでしたね」と、松橋監督は20年超の指導者人生の中で、選手と向き合う自分なりのスタイルを構築してきたことを明かす。

 J1初挑戦だった今季も、特に何かを変えなかった。試合前のミーティングも各担当コーチに説明を任せ、自身は後ろからチーム全体の様子を見ているケースも少なくなかったという。
 
「今季は試合を重ねるごとに、みんなが自信を持ってやってくれていると感じていました。最初は緊張感もあったと思いますけど、トライしていることが結果に表われ始めた時の選手の行動や姿勢を見ると、『自信を持って取り組んでいるな』と。それはトレーニングや試合、試合当日のホテルでのミーティングの姿からも感じられました。

 試合当日のミーティングは僕が全部、前にいるわけではなくて、他の担当コーチに話をしてもらって、自分は後ろから見ていたりすることもあるんですけど、彼らの背中からいろんなことを勝手に感じていました。

『今日はやりそうだな』とか、『そわそわ、ガヤガヤしてるけど、今日のガヤガヤはちょっと違うな』とか、『すごく静かだな、悲壮感を感じてるのかな』と思ったり。自分がそう見たいからかもしれないけど、そういう選手の背中を見ながら、試合を重ねるごとに自信や堂々としてる感じをすごく多く受けるようになりました」

 こうしたアプローチは、日本代表の森保一監督に似ていると言っていい。森保監督もトレーニング時は、名波浩コーチや前田遼一コーチらに任せ、自分は遠くから全体を見守っていることが多い。

 そのほうが様々な変化を敏感に感じ取れるし、実際、そのやり方で成功している。「成功する日本人監督」というのは、選手・スタッフと良い距離感を保ちつつ、彼らの自主性を引き出し、自信を抱かせることができる人物なのかもしれない。

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 とはいえ、松橋監督率いる新潟にも厳しい時期はあった。一番苦しかったのが、鹿島アントラーズ、FC東京、横浜FCに3連敗した4〜5月にかけてだろう。開幕4戦無敗という好発進を見せただけに、そこからの停滞は重苦しいものがあったに違いない。それでも指揮官はブレずに、目ざすべき方向に進むことを忘れなかった。

「あの時期は事務所も明るかったし、選手も我々もできることをやってました。『内心は...』という部分もありましたけど、ネガティブなことを考えていると、そっちに引き寄せられてしまう。占い師でも何でもないけど、そういう時の全員の取り組み方はすごく評価できると思います。

 かといって、問題から目を背けてるわけじゃない。ギリギリのところでどう堪えるか。行く方向は分かっていても、逆風にさらされて流されそうな時には、漕ぐことも大事ですけど、しっかり捕まって流されないことも大事。できるだけ流されないようにしがみついて前へ行く、しっかりやるべきことをやっていきましょうということも大事。

 その結果、何とかタイミングを掴んで、『今だ』って時に全員で全力で漕ぎ始めたところが、少しずつ前に進めた要因かと思います」と、松橋監督は独特の表現で苦境脱出のポイントを語っていた。

 新潟は5月以降も黒星が先行。前半戦終了時点の第17節では13位という順位にいたが、ブレることなく攻撃的スタイルを貫き、守備強度を引き上げていった。それが終盤戦の再浮上につながったと言っていいだろう。

「終盤戦にかけては非常に素晴らしかったと思います。『攻撃的』と言うと、自分たちがボールを持ってイニシアチブを持っていれば、当然、攻守において攻撃的であるということになります。ただ、逆に相手がボールを持っていても、前からプレスに行けば攻撃的に行っているとも見えます。

 ブロックを敷いて相手の良さを出させない、相手の特長を出させないように構える、最後の最後でボールを奪ってカウンターに転じるといったことと、前からのプレスの両方が混在しているなかでの『攻撃的』というのは、ゴールキーパーを上手く利用しながら後ろのゾーンからできる有用性も重要になってくると思います。

 最終節・セレッソ大阪戦の長倉幹樹の得点を見ていただければ分かると思いますが、有効なスペースや時間、人を上手く使って崩して、最後に生まれたイニシアチブ、アドバンテージをどう得点につなげるか。そういう部分に成長が出たと思います。

 攻撃的というのもいろんな捉え方がありますけど、僕は今季は勝てなかった試合の中でも多くあったと考えています」
 
 松橋監督は選手たちが「攻撃的」の意味を理解し、ピッチ上で臨機応変に表現してくれたことに、大きな手応えを掴んでいる様子。そのうえで、勝負となる2024年に挑むつもりだ。来季は陣容も入れ替わるが、新潟はさらなる躍進を遂げられるのか。そこが大いに気になるところだ。

「今年はもうちょっと高い山を目ざすことはできたんじゃないかという気持ちもあります。最初から選手を信じて、さらに高い目標設定をしていれば、彼らは応えたんじゃないかなと。だからこそ、来年は登る山を間違えないようにしたいと思っています。

 今季終盤の戦いをベースにして、より進化し、良い結果を出せるようにしたい。細かいところを選手と向き合いながら、しっかりと積み重ねていくことが来年の抱負ですね」

 謙虚な口ぶりでこう語った松橋監督。彼の来季のマネジメントに改めて注目したい。

※このシリーズ了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)