3月11日、ついにアメリカ代表のWBCが開幕した。エンゼルスのマイク・トラウトを筆頭に、"史上最強"との呼び声が高い今回の代表チーム。一体現地ではどのような盛り上がりを見せているのだろうか。また、ライバル日本を現地のファンはどう見ているのだろうか。アメリカ・シカゴ在住の筆者がリポートする。


アメリカ代表の開幕戦となったイギリス戦は4万人を超す観客が入った

【WBCよりもカレッジバスケットボール】

 WBCフィーバーに沸き立つ日本。東京ドームでの日本戦は毎試合4万人を超す観客が集まり、視聴率も4日連続の40%超えを果たすなど、開幕以来、WBCは人々の話題の中心となっている。

 一方、前回大会(2017年)を制し、初めてディフェンディング・チャンピオンとしてWBCを迎えるアメリカ。開幕前からスポーツ専門チャンネルのESPNや、試合の放映権を持つFOXなどは、連日特集を組み紹介してきた。

 とくに、野手陣を中心にスーパースターが集ったキャンプに突入してからは、報道も加熱していった印象だ。

 そしてイギリス代表との初陣を迎えた11日、筆者はシカゴ・カブスの本拠地、リグレーフィールドのすぐ裏にあるスポーツバー『マーフィーズ・ブリーチャーズ』を訪ねた。マーフィーズは1980年の開店以来、カブスファンの聖地として知られている。シーズン中は試合観戦を終えたファンが集まり、シーズンオフでも多くのファンが過去の名場面の映像を見ながら、野球談義に花を咲かせる。

 11日のシカゴは雪が舞う寒空だったが、この日はちょうどアイリッシュ系の祝日『聖パトリック・デー』の週末と重なったこともあり、店内は試合開始前からすでに多くの人々の熱気であふれていた。

 店内には大型テレビが16台設置してあるが、試合開始の午後8時になってもWBCが流れる気配はない。

 それもそのはず。アメリカでは3月はカレッジ・バスケットボールが佳境を迎えるシーズン、通称『マーチ・マッドネス』にあたる。スポーツファンの関心は、どうやらWBCよりもバスケットボールにあるようだ。

 もちろん、野球ファンが集う店とあって、WBCの中継を見にやってきた客もいた。そのうちのひとりが店員にチャンネルの変更を申し出た。そして16台のうち1台だけ、ようやくアメリカ戦が映し出されたのだ。熱心な野球ファンたちが、こちらのテレビの前に集まり出した。

【アメリカ代表は史上最強】

 チャンネル変更を申し出たカブスファン歴40年というボブさんに、「今回のWBCのチームUSAをどう思いますか」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

「間違いなく史上最強だね。マイク・トラウトにムーキー・ベッツ、ノーラン・アレナドが並ぶラインアップは相手にとって脅威だろうよ。先発ピッチャーだけが不安だね」

 すると隣でカブスの帽子をかぶり、ビールを飲んでいたアンドリューさんが話しかけてきた。

「でも、前回大会よりほかの国も本気を出してきているから、優勝はなかなか厳しいかもしれないよ」

 私が日本人だと伝えると、目を細めながら「韓国戦の圧勝は見事だったよ。USAの一番のライバルは日本だな」と話した。そして日本で注目している選手はいるかと聞くと、「大谷翔平」と即答した。

「彼は地球上で最も優れたプレーヤーだからね。誰も止めることはできないな」

 すると、セントルイス・カージナルスのユニフォームを着た女性のアナさんが話に入ってきた。

「私はラーズ(・ヌートバー)に注目よ! 彼は日本で注目されているらしいけど、私たち(カージナルス)の選手が応援されてうれしいわ」

 すぐさま、同地区のライバルであるカブスファンから手厳しいブーイングが浴びせられた。さすがに横にいた夫もかばいきれない様子で、困り果てた顔を浮かべていた。

 そして先程のボブさんは、しんみりした表情でこう語った。

「鈴木誠也がケガで代表を辞退というニュースを見たよ。心配だね。カブスファンとしてはシーズンに間に合ってほしいけど、USAと戦う姿を見たかったなぁ」

 ボブさんに「アメリカ国内でのリアルな盛り上がりはどうなのか」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

「まだ始まったばかり。これから大会が進んで、アメリカが勝ち進んでいけば、自ずとみんな興味を持つさ。僕みたいなコアなファンはもう臨戦態勢だけどね」

【スタジアムは4万人超え】

 たしかにこの日、試合が行なわれたアリゾナのチェイス・フィールドは4万人を超す観客で埋め尽くされていた。

 試合のほうは、先発したカージナルスのベテラン右腕、アダム・ウェインライトが初回に先制ホームランを打たれると、「ほら、だから言ったろ! これだからセントルイスは......」と、アナさんにまたしても厳しいヤジが飛ぶ。

 すかさずアナさんも反撃。「今に見ていて。ノーラン(・アレナド)がなんとかするから」の言葉どおり、カージナルスのアレナドが3回に同点タイムリーを放つと、テレビの前で全員がハイタッチを交わし、乾杯が始まった。

 そして4回に、カブスに在籍したカイル・シュワーバーが3ランホームランを放つと、「ほら、カブスだってやれるんだ!」の声が飛ぶ。しかし、シュワーバーは現在フィラデルフィア・フィリーズでプレーしているが......そこはご愛嬌か。

 いずれにせよ、チームUSAが6対2で無事に勝利を収めると、「イギリスに勝った! 1776年の独立戦争以来だ!」という声とともに、店内揃っての「USAコール」で大円団を迎えた。

 最後に、ここにいたファンたちと「準決勝以降に会おう!」と固い握手を交わし、店をあとにした。

 まだアメリカでWBCが本格的に盛り上がっているとは言い難い。それでもスタジアムには多くの観客が入り、数試合だけだが地上波での放送もあるという。2006年の第1回大会に比べれば、かなりの前進だ。この先、アメリカが勝ち進めば、さらに盛り上がることは間違いないだろう。