寺島実郎・日本総合研究所会長は緊迫する中央アジア・中東情勢をどう見るか?
―― 中央アジアを巡る混乱が生じています。寺島さんは現状をどう見ていますか。
寺島 先日の米バイデン大統領のスピーチが今の米国を象徴していると思うのですが、彼はアフガニスタンにおいて我々がやろうとしていた目的は、ネーションビルディング(国づくり)ではないと言ったのです。これは重要なキーワードです。
―― アフガンの国づくりをするつもりはないと。
寺島 そうです。ネーションビルディングという言葉は、戦後の日本を占領して、日本という国を米国の思う体制につくった時に、よく彼らが使っていた言葉です。彼らは日本を占領して、日本を新しい民主国家に変えたということが成功モデルだと思っているわけです。彼らはその後、イラク戦争でバグダッドに侵攻していった時にも、この言葉を使いました。
今回、バイデン大統領がこの言葉を使った意味は、いわゆる、ホームグラウンド・セキュリティ。つまり、彼らの関心は、米国の本土でテロが行われなければ、もっと言えば、タリバン勢力が米国の治安をかき回してくることが無ければ、なぜ我々があんなに腐敗した政府軍を支援して、自国の青年が血を流す必要があるのか、ということです。
自分たちは何もアフガンのネーションビルディングにコミットしたわけではない。自分のところのホームグラウンド、米本土がテロから守られればもういいのではないか、ということを言ったわけです。
ここから見えてくることは、今後、米国が中東を束ねたり、守ったり、中東秩序の中心に立つなどと考えるのは、「大国の横暴」だということ。中東における米国の後退と影響力の喪失極まれり、ということです。
―― 米国が中東から後退するとなると、今度は周辺国の思惑が複雑に絡んできますね。
寺島 そこなのです。ユーラシアのユーラシア化と言った時にピンと来るかと思いますが、我々はユーラシア大陸の大国である中国、ロシア、そしてインドの動きをきちんと見ておかなければなりません。
中国も、ロシアも、今のところ、今回の出来事に関して微妙なスタンスをとっている。タリバンともコミュニケーションのパイプを持ちながら、一方で米国に対しては、失望と批判を隠さない。どういうことかというと、中国にとってみれば、彼らはタリバンのようなイスラム過激主義というのが、中国にも襲いかかってくる可能性を懸念しているわけです。
例えば、中国は少数民族であるウイグル族を抱えていて、いつイスラム過激派が、国境を越えてウイグル族と一緒になって中国の国内を攪乱するかということについて、ものすごく警戒している。別の言い方をすれば、中国も自分の国をかき回わさないでくれれば、タリバンとも一定のコミュニケーションをとってもいいというスタンスです。
―― これはある意味で、米国の考え方とも共通する。
寺島 ロシアもチェチェンなど、国内にイスラム過激派勢力のテロ組織を抱え込んでいて微妙な立場です。しかも、ロシアはシリアでのIS(過激派組織イスラム国)掃討作戦の中心にプーチン大統領が躍り出て、実質的にはシリアの後ろ楯になっている。この時、ロシアによって追い出された勢力がアフガンに流れ込んでいるからです。
だから、ロシアにしてみると、その勢力がロシア国内、もしくは中東の各地に影響力を行使し、イスラム過激主義という形で襲いかかってくることに対して、ものすごく警戒している。
