ウイスキーは世界的なブームであるとともに、ジャパニーズウイスキーの評価も近年はうなぎのぼり。国内ではマイクロディスティラリー(小規模蒸留所)も生まれていて、ファンを喜ばせています。人気の理由は、小規模ゆえの希少性だけではありません。その土地ならではの風土が生み出す個性や、造り手の情熱もファンを魅了する要素です。

 

今回紹介するのは、そんなマイクロディスティラリーのなかでも、未踏のチャレンジから生まれたきわめて稀有なウイスキー「三郎丸蒸留所 ニューポット 2020 ヘビリーピーテッド 52PPM」。蒸溜所のストーリーとともに紹介します。

 

↑透明の液色や細身のボトルが印象的な1本です

 

冬は日本酒、夏はウイスキー。北陸唯一の蒸留所

このウイスキーを造った若鶴酒造は、1862年創業の酒造メーカー。富山県の自然に育まれた良質な水を使い、日本酒造りを手がけています。同社の日本酒のフラッグシップである「若鶴」ブランドは、海外の品評会で高い評価を得ています。

 

同社は日本酒醸造の一方で、自社で運営する三郎丸蒸留所でウイスキー造りにも取り組んでいます。製造開始は1952年とその歴史は古く、北陸で唯一のウイスキー蒸留所として、こだわりの酒を造り続けています。

 

↑若鶴酒造の三郎丸蒸留所

 

まだウイスキー製造が一般的ではなかった時代から試行錯誤を繰り返してきたそうで、昔ながらのビール酵母を使用した製法は、小さな蒸留所ならでは。冬は日本酒を仕込み、夏にのみウイスキーを蒸留するため、生産量が限られています。

 

ヒントはお寺の鐘

伝統的な製法や素材をベースにしながら、新しいものを柔軟に採り入れているのが三郎丸蒸留所の面白いところ。大きな特徴は、同社が開発に携わった「ZEMON(ゼモン)」というポットスチル(蒸留器)を採用している点です。

 

「ZEMON」は梵鐘(寺院の鐘)の伝統技術から生まれた、まったく新しいポットスチル。日本の梵鐘製造のトップシェアを誇る老子製作所との共同開発で造られました。老子製作所のある富山県高岡市は、400年の銅器製造の歴史があり、現在でも日本の銅器の90%以上が生産されているそうです。

 

↑高岡銅器鋳物蒸留器「ZEMON」

 

「ZEMON」は従来のポットスチルに比べて低コストかつ短納期での製造が可能になるだけでなく、耐久性やメンテナンス性、さらにはエネルギー効率向上による省エネも実現しました。

 

そして見逃せないのが、ウイスキーの味わいにもたらす影響です。「ZEMON」は従来の純粋な銅ではなく、銅と錫の合金でできています。昔から錫は「酒の味をまろやかにする」といわれていて、酒質の向上に大きく貢献しました。表面に細かな凹凸がある砂型鋳造によって、酒と触れる面積が広がったことで、この効果がより強調されました。

 

三郎丸蒸留所では「ZEMON」を2019年からウイスキー蒸留に使用。その技術は権威のあるウイスキー専門誌で紹介されるなど、国内外を問わず注目されています。そして、「ZEMON」で蒸留されたウイスキー原酒が世界的な品評会で特別賞を受賞したことで、そのポテンシャルも明らかになってきました。

 

パワフルでスモーキーな、限定生産のウイスキー原酒

そんな「ZEMON」で蒸留されたのが「三郎丸蒸留所 ニューポット 2020 ヘビリーピーテッド 52PPM」です。ピートを強く焚き込んだヘビリーピーテッド麦芽で仕込まれていて、スモーキーかつヘビーなウイスキー造りを信条とする三郎丸蒸留所らしさが感じられます。

 

↑「三郎丸」と「ZEMON」の文字が目を引くラベル

 

これは熟成や調整を施す前の、蒸留したてのウイスキーの原液「ニューポット」(ニューメイク)というもので、琥珀色のウイスキーとは異なりますが、お酒としての個性は十分楽しめます。

 

↑ウイスキー酵母に加えてエール酵母が使用されています。アルコール度数は60度

 

↑原酒であることを表す「NEW POT」の印字。樽で熟成させる前の状態です

 

フタを開けてみて驚きましたが、まず香りからしてパワフル。商品名にもなっている「52PPM」はダテじゃありません。

 

PPMとはピートの強さを表す数値(フェノール値)で、いわゆる“スモーキーさ”の度合いのことを指します。ピートが強いことで知られるスコットランド・アイラ島のスコッチにおいて「アイラモルトの王者」と呼ばれる銘酒「ラフロイグ」でも40〜45PPMなので、今回の52PPMというのはかなりスモーキー。ちなみに筆者はアイラモルトが大好きなので、このヘビリースモーキーフレーバーはうれしい限りです。

 

↑グラスに注ぐと、スモーキーな香りが立ちます

 

そして何も割らずにそのまま飲んでみると、豊かな甘味とやわらかなタッチを感じます。ニューポットは荒々しい味わいになりがちですが、こちらはカドがなくてむしろスムース。ミドルの味はふわっとした印象で、余韻はサッと引きながら奥に染み込んでいく感じです。

 

この甘味は独特で、鮮烈なスモーキーフレーバーと調和し、無邪気なスイートテイストを醸し出しています。アルコール度数も60度と高めながら、ストレートでクイッといけてしまう魔性のおいしさを秘めています。

 

↑本当に60度もあるのか、というくらいスムースに入ってきます

 

加水してみると、甘やかなニュアンスがより前に出てきて、これもナイス。さらに飲みやすくなるので、オススメの飲み方です。

 

ハイボールも試してみました。やはり甘味とピートの香りがしっかりしていて、飲みごたえのあるハイボールになりました。ストレートでもそうですが、熟成されていない分、キレがあって、香りは強めながら味としてはシャープな印象です。

 

↑香りもキレも一味違うハイボールに

 

今回は料理とのペアリングは試していませんが、ソーセージやベーコン、いぶりがっこやスモークチーズなど、燻製の料理が抜群に合うと思います。アウトドアにも最高でしょう。

 

三郎丸蒸留所からは今後もさまざまなニューポットがリリースされそうですし、熟成されたウイスキーもいずれ発売されるでしょう。今後も要注目の造り手です。「三郎丸蒸留所 ニューポット 2020 ヘビリーピーテッド 52PPM」は9月12日に発売されたばかりですが、2000本の数量限定なので、気になる方はお早めのチェックを。

 

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