世界中が未曽有の危機に陥っている今…“あの男”が動き出しました。

前澤友作さんが、「ベーシックインカム」に関する実験をスタートさせたのです。


【前澤友作(まえざわ・ゆうさく)】1998年にスタート・トゥデイを設立し、輸入CD・レコードの販売を開始。2000年、カタログ販売をオンライン化するとともにアパレル商材の取り扱いを始め、2004年にファッションECサイト「ZOZOTOWN」を開設。2007年東証マザーズに、2012年2月には東証第一部に上場。2018年、株式会社ZOZOに社名変更。2019年には社長を退任。株式会社スタートトゥデイを新たに設立し、代表取締役社長に

前澤式ベーシックインカム社会実験
https://www.yusakumaezawa.com/

発表によれば「スタートトゥデイの前澤友作は応募者約403万人の中からランダムに選ばれた当選者1000名に対し、現金100万円を配布する『ベーシックインカム社会実験調査』を4月から開始すると発表した」とのこと。

ベーシックインカムとは、政府がすべての国民に対して、生活最低限のお金を給付すること。コロナウイルスの感染拡大による経済的ダメージが大きいスペインで、ベーシックインカムの導入が決定された、という報道もされています。

前澤さんは何をしようとしているのか?

ベーシックインカムにはどんな意味があるのか?

今回は、「前澤式ベーシックインカム社会実験」の研究チームにジョインしている井上智洋先生(駒沢大学経済学部准教授)、宇南山卓先生(一橋大学経済研究所教授)に、くわしいお話をうかがいました。

「休業補償」「現金給付」といった話題に関心が集まる今、ぜひお読みいただきたい内容になっております。ではどうぞ!

〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長〉

定説とは逆張りの“性善説”。前澤さんの実験意図とは…

天野:
今回の「ベーシックインカム社会実験」について教えてください。

具体的にどんな実験をするんでしょうか?


オンライン取材させていただきました

宇南山先生:
今回の実験では、「#前澤お年玉」にTwitterで応募した当選者1000人を3つに分け、以下の3つの方法で100万円を支給します。

100万円を4月に一括支給
100万円を10月に一括支給
100万円を1年間毎月分割して支給

さらに当選者以外も含めて4つのグループをつくり、17回のアンケート調査で、それぞれのグループの人がどう行動するかを観察します。

「何かを買うか」「何も買わずに貯蓄するか」「仕事を減らして、収入を減らすか」のどれなのかを確認するんです。

天野:
今もらえるか、半年後にもらえるか、少しずつもらえるか…ってことですね。

前澤さんがこの「実験」をするのには、どんな意図があるんでしょうか?

宇南山先生:
メインは100万円によって人々の行動がどれだけ変わるのかを調べることです。さらに、支給のタイミングを変えることで「手元にお金がある“現実”と、お金が確実にもらえるという“情報”の、どちらが人間にとって重要なのか?」を調べることもできます。

たとえば、新しい車がほしい人がいたとして、半年後に100万円もらえることが約束されていれば貯蓄をつかって今買うのか? それとも手元にお金が来るまでは買わないのか? ということですね。

天野:
どういう結果を予想しているんでしょうか?

井上先生:
経済学の素朴な理論では、「お金が今もらえても、将来でも、消費行動はそんなに変わらない」と言われているんです。まったく貯蓄がないときでも、将来もらえることがわかっているなら、お金を借りて消費することができる。

ただ、実際には「手元にお金が得られるまでは、消費しない傾向がある」という結果が出るんじゃないかと予想してますね。

宇南山先生:
海外と比較して日本人は貯蓄をしているので、100万円の「約束」だけでお金をつかうことはできるはず。

それでもお金を受け取るまで使わないなら、その理由を明らかにしたいですね。

天野:
3つめに「100万円を1年間毎月分割して支給」っていうグループがあるのはなぜなんでしょうか?

宇南山先生:
大きいお金がいっぺんに入ると、雑なお金の使い方をするのか」「少しずつ渡すと合理的に使うのか」ということを調べるためです。

実験では、「ギャンブルをする」「リスク性のある投資をする」といった項目を“雑なつかいかた”として集計。逆に、何かの勉強をはじめるなど「自己投資」につながるものは“合理的なつかいかた”として着目していきます。

井上先生:
一般的には、「少しずつ渡したほうがいい」と言われています。いっぺんにお金をもらうと、無駄遣いしてしまうから。

ただ、前澤さんの予想はそれとは逆。

むしろ「一括で渡したほうが、自己投資のための“いいつかいかた”をするんじゃないか」という考えなんです。

天野:
お金があれば、自分を高めるためにつかうだろうと…。前澤さんらしい「性善説」ですね。

井上先生:
そうなんですよ。

前澤さんは、「お金を配る」→「人々が自己投資にお金をつかうようになる」→「もっと多くの人が活躍できる」という社会の実現を考えている

だから、お金を配ったときにどれぐらいの人が「自分を成長させるためにつかうか」は、注目したいポイントなんです。

天野:
でも正直、何もせずにお金がもらえちゃったら、無駄づかいするかもなと思いました…

井上先生:
気持ちはわかります(笑)。

ただ、海外の実験では“意外と無駄なことに使わない”という話があって…

極端な例ですけど、「麻薬中毒者にお金を渡しても、麻薬を買わなかった」という実験もあるんです。

天野:
へええ〜! どういう実験…?


※リベリアで、貧しい人たち(その多くが麻薬中毒者やアルコール中毒者、軽犯罪者だった)に200ドルほどのお金を渡す実験があった。彼らは、意外にもまともに食料や衣服を買ったとのこと

井上先生:
ほかにも、ベーシックインカムに関する実験でいうと、1974年にカナダで“ひとつの街全体に給付した”という実験があったんです。

ところが政権交代があったせいで、実験結果が長年倉庫のなかで眠っていた。

その記録が最近偶然発見されたっていう話があって…

天野:
(映画か?)

井上先生:
2011年に報告書が出されたのですが、それによると、街全体で「交通事故が減る」「入院するようなケガをする人が減る」「DVが減る」という事象が起きていたそうなんです。

天野:
すごい…! なんでそんなことが起きるんですか?

DVはなんとなくわかりますが…

井上先生:
人々の気持ちに余裕ができるからだろうと思われます。

原因はハッキリしませんが、お金によって気持ちに余裕が生まれれば、不注意による事故やケガが減る可能性はありますね。

ベーシックインカムには、このように、一定の金額を給付されることで社会が安定するという意義があります

日本でベーシックインカムが導入される可能性ってあるの?

天野:
すごく壮大な社会実験が行われようとしてることがよくわかりました。

ただ、実際に日本でベーシックインカムが導入される可能性ってあるんですか?

井上先生:
あります。

私は、「あと10年以内に導入決定までいけばいいかな」と思っていたんですが、“コロナショック”のせいで生活に困る人が多数出てきて、さらに早まると考えています。

天野:
じゃあ、あと数年のうちに導入が決まる可能性があるってことなんですね…!

井上先生:
はい、政治家のなかにも興味を持っている人は多いんですよ。たとえば国民民主党は、ベーシックインカムを公約として掲げています。

ちなみに政治家にも、今ある社会保障を残したままベーシックインカムを導入しようという人と、社会保障制度をやめてベーシックインカムのみにしようという人がいるので、注意が必要です。国民民主党は前者のようです。

天野:
社会保険というと、生活保護とかですよね…

ベーシックインカムは生活保護とは意味が違うんですかね?

井上先生:
生活保護は、貧しい人に限定して給付するものという前提があります。

また大きな違いは、ベーシックインカムは“その人がどれぐらい働いているかにかかわらず、一定額が給付されるもの”です。

生活保護は、働いて収入が上がったら給付額が減らされてしまうので、労働のインセンティブがないんです。「貧困の罠」って言うんですけど、貧しい人が貧しいままになってしまうんですね。

私はベーシックインカムが導入されても、生活保護を生活の「ラスト・ディフェンス」(最後の守り手)として残しておいた方がいいと思っています。

天野:
「ベーシックインカムが導入されると、労働意欲がなくなるんじゃないか」という懸念があると思うんですが、そこはどうですか?

井上先生:
労働意欲を失わせるかは額次第だと思います。

「そんなにもらえるなら、働かなくていいから会社辞めよう」となってしまわない適正な額。日本で導入するなら、7万円ぐらいが適正だと思いますね。

天野:
たしかに、7万円だったら会社はやめないけど、生活がめちゃくちゃ安定しそうです。

「一律給付」を多くの人が支持。ベーシックインカム導入に近づく?

天野:
最後に、ここのところずっと話題になっている「休業補償」「現金給付」についてなんですが…

井上先生:
今回の「現金10万円一律給付」は、一時的なベーシックインカムみたいなもの。

それを多くの人々が支持したというのは、ベーシックインカム的なやり方の妥当性にみんなが気づきはじめたことを意味するんじゃないでしょうか。

休業補償のほうはなかなか難しい問題です。私は、すべての中小企業や個人事業主に少なくない額の現金を給付して、「当面これでしのいでくれ」と言うべきだと思います。今月には倒産する企業が多く出てくると言われてますし…

天野:
やはり、そこまで危機的な状況なんですね。

井上先生:
そうなんです。“儲かっている企業には必要ないじゃないか”っていう意見もあるかと思うんですが、後から法人税で調整すればいいんです。

これはベーシックインカムと同じ思想で、まず全員に配ることで、シンプルかつスピーディーにできるんですよね。

天野:
たしかに10万円の現金一律給付もシンプルですよね。

でも、どうして決定までに時間が掛かったんでしょうか?

井上先生:
今、「政府が国民の安全よりも経済を優先してるんじゃないか」という批判がありますが、私はそのどちらも軽視してると思ってます。

重視しているのは“国の財政”。政府の借金を減らしたいという話が、すべての足かせになってると思ってます。

宇南山先生:
私も、今回の現金給付の決定は良かったと思います。ただ、手続きの面で課題が明らかになりましたよね。

今の日本では政府と個人が直接つながるのは極めて難しい。実際、今回の現金給付でも、給付そのものに1000憶円以上のコストがかかるとされています。

ベーシックインカムを実現していくには、現金給付がスムーズにできるような体制を考えていく必要がありますね。

「あと数年のうちにベーシックインカムの導入が決まる」という、衝撃的なお話。

働くモチベーションがなくなるんじゃないか…という懸念も聞きますが、給付額などによってコントロールできるとのことでした。

新型コロナウイルスの感染拡大により、今まで以上に社会や政治のあり方に関心を持つようになったという人も多いでしょう。

ベーシックインカムの導入、あなたは賛成? それとも反対?

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〈取材・文=天野俊吉(@amanop)〉

前澤式ベーシックインカム社会実験
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