力こそ正義の世界であるはずのヤクザ界で時代が変わりつつある。「下の人間に暴力?もうそんな時代じゃない」と組長クラスが口を揃えて言う。世間で相次ぐ『体罰問題』はこの世界でも例外ではないようだ。

「部屋住みの若い連中で、何度言ってもわからないやつには、どうしても手が出てしまうね。でも今は、1回殴ると10人中8人はやめてしまう。しかもやめたうち2人ぐらいは、親と一緒に警察に駆け込むんですよ。警察は警察で、『暴力団ってわかって入ったんでしょ』となだめて帰しちゃうんだけどね。もともと暴力団なんだから暴力がいちばんいいと思っていたのに、そうはいかなくなったね」(広域指定暴力団傘下の組長A・50代)

ヤクザ界が根本から揺らぎつつある。組事務所では、10代〜20代の若い組員が住み込み修行し、掃除、洗濯、食事作りをしながら電話当番も受け持つ。2年ほどの修行で正式な組員に昇格するのだ。A組長の下には部屋住み修行中の組員が7人ほどいるというが、「入れ替わりは激しい」と言う。同様の嘆きはほかの組でも聞かれた。

「たとえば、電話にすぐ出なかったりして連絡が取れないことが何度も続くと殴るしかない。必要最低限のマナーを教えないといけないから。でも、今は組に入っても3日で逃げるやつもいるよ。拘束されることに慣れていないやつばかりだからね。だから、確かに殴ることは減ってます。理不尽なことで殴るとすぐやめるしね。このご時世、ヤクザをやりたいっていうやつも少ないから、大事にしないといけないんですよ」(別の組の幹部B・30代)

組の存続には『人』が必要だ。だが、法律の締めつけが強まり、ヤクザ界は人材難に直面している。その影響が意外な形で表面化したのが『体罰ゼロのヤクザ界』なのだ。だが、暴力で言うことを聞かせないならば、どうやって下の人間をコントロールするのか。

「ある組では、若い衆をシメる代わりに罰金制にしたところもあるんだ。それがいいかどうかわからないけどね。本当は、体で教えたほうがいいとは思う。外で暴力を誇示するのに、中では暴力を振るえないというのも、これでいいのかと思う。でも、実際は難しい」(前出・A組長)

こうして自分たちの組での「体罰」を否定するヤクザたちだが、現在スポーツ界で社会問題となっている体罰に関しては口をそろえて肯定する。彼らは、スポーツ界だけではなく、本当は自分たちの組のなかでも体罰は必要だと感じているようだ。

力の源泉を失いつつあるヤクザたちに未来はあるのか——。

(週刊FLASH 3月12日号)