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あだ名はイングリッシュ・コルベット

「彼らの要求によって、コーナリングも乗り心地も悪い、買い物グルマになってしまったようです。タイヤはすぐに鳴き、ボディロールは大きい。運転が楽しくありません」。1979年5月、トライアンフTR8へ試乗したAUTOCARは、落胆を隠さなかった。

【画像】イングリッシュ・コルベットの異名 V8エンジンのTR8 スポーティなトライアンフたち 全146枚

ところが、その北米仕様はアメリカで称賛された。現地の自動車雑誌は「スポーツカーの再発明」と伝え、「イングリッシュ・コルベット」というあだ名も得ている。


シルバーのトライアンフTR8 北米仕様と、グリーンの英国仕様プロトタイプ    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

一方で親会社、ブリティッシュ・レイランド(BL)社が陥った経営難により、TR8は充分な提供に至っていない。いかにも、同ブランドらしい結末といえる。

ウェッジシェイプ・ボディのトライアンフTR7に、3.5L V8エンジンを押し込んだだけでは、欧州市場で支持を集めることは難しかったはず。今回ご紹介する、ポセイドン・グリーンに塗られた1台は、それを想定して作られている。

耐久レースやラリーで優勝を掴んだTR7 V8

時代遅れになっていたスピットファイアの後継モデルは、計画がまったく進んでいなかったが、トライアンフにとって北米は要といえる市場だった。そこで、2.0L 4気筒エンジンを積んだTR7は、英国に先駆けて、1975年から彼の地で販売が始まっていた。

スタイリングを手掛けたのは、ハリス・マン氏。異論も巻き起こした大胆なウェッジシェイプだったが、アメリカ人は受け入れた。コンバーチブルの噂や、ビュイック由来のローバー社製V8エンジンを搭載した仕様の計画は、小さくない関心を呼んだ。


トライアンフTR8(1979〜1981年/北米仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

その後トライアンフは、レース参戦を目的にV8エンジン版の開発を進展。TR7 V8は、1978年4月にグループ4のホモロゲーションを取得している。

ペル・エクルンド氏など、名だたるドライバーがTR7 V8をドライブし、威圧的な排気音と圧倒的な速さでファンを魅了。1978年のイープル24時間レースや、マンクス・インターナショナル・ラリーなどで優勝し、注目を着実に高めた。

ストライキに悩まされていたトライアンフ

果たして1979年に、アメリカとカナダでコンバーチブルのTR8は発売される。TR7をベースに、オープントップのスタイリングは、巨匠ジョヴァンニ・ミケロッティ氏の手で印象を改善。3.5L V8エンジンは、インジェクション仕様で150psが発揮された。

大幅に増したトルクに合わせて、ギア比はロング化。サブフレームやブレーキが強化され、パワーステアリングを獲得し、改良されたラジエーターで冷却性能も高められた。


トライアンフTR8(1979〜1981年/北米仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

北米市場はTR8を歓迎したが、1970年末のトライアンフはストライキに悩まされていた。グレートブリテン島中西部、リバプールにある工場は、5か月にも及ぶストライキでまともに稼働していなかった。ブランドの終幕は、確実に迫っていた。

BLの会長、マイケル・エドワーズ氏は経営立て直しを掲げ、その工場を大胆にも閉鎖。TR7とTR8の生産は、中部のコベントリー郊外に位置したカンリーと、近郊のソリハルへ転々としている。この戦略に、北米では将来性を見出していたようだ。

目指したのはラリーカーの量産版

トライアンフ側にも、諦めない空気は残っていた。1980年12月、BLでモータースポーツ部門を率いたリチャード・ハードウェル氏から、ソリハル工場長のジョン・ミックルライトへ届けられた手紙には、次のように記されていた。

「グリーンのTR8は、モータースポーツ部門でエンジンとサスペンションの改造を受けています。英国と欧州のスポーツカー市場向けとして、仕様を決めるために」。ワークス仕様のTR7 V8を仕上げた技術者は、密かに作業を進めていた。


トライアンフTR8(1979〜1981年/北米仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

当時TR7の製品企画を仕切っていたデニス・チック氏は、成功を収めたTR7 V8 ラリーカーの量産版を、英国仕様では目指していたことを認めている。今回ご登場願ったポセイドン・グリーンの1台は、そこに記されていた車両そのもので、唯一の試作車だ。

V8エンジンの最高出力は273psへ上昇

エンジンには、ローバーSD1用のカムシャフトと強化バルブスプリングが組まれ、ピストンは高圧縮比化。標準の北米仕様は8.31:1だったが、9.75:1へ高められ、最高出力はシャシーダイナモ試験で273psへ上昇していたという。

この馬力を受け止めるべく、シャシーも改良。サスペンションは、タイトなダンパーへ交換され、専用スプリングで車高は25mmダウン。リアのスタビライザーは省かれた。


BLモータースポーツ・トライアンフTR8(1980年/英国仕様プロトタイプ)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

トレーリングリンクの再設計や強化ブッシュなどで、減速時のノーズダイブや加速時のテールスクワットは抑制。ブレーキはAP社製で、フロントには4ポッドキャリパーとベンチレーテッドディスク、専用パッドが組まれ、リアのディスクも大径化された。

アルミホイールもインチアップし、タイヤはミシュランTRXを履いた。現在は、トーヨー・プロクセスだが。フロントノーズには、TR7 V8ラリーカー譲りとなるFRP製のスポイラーを装備。風洞実験で、リフト量を3割低減することが確かめられている。

この続きは、トライアンフTR8(2)にて。