50代・海外ひとり暮らしでみつけた、心が疲れない暮らし方。「今日も無事に生きていられた」で十分
53歳で単身スペインへ留学し、その後4年間でスペイン、ジョージア、そして現在暮らすタイへと拠点を移してきたRitaさん(56歳)。日本とは異なる文化や暮らしに触れるなかで、自身の価値観や生活スタイルにも変化が生まれてきたそうです。今回はRitaさんが「心が疲れない暮らし」のために大切にしている、4つの考え方を教えてもらいました。

完璧に生きなくてもいい。海外生活で気づいたこと
53歳から語学ゼロで始めたスペイン語学留学。その後スペインに3年暮らし、ジョージアで7か月生活、現在はタイに住み始めて2か月目です。
若い頃の私は、海外で暮らす人は、行動力があって、自由で、どこか特別な人たちなのだと思っていました。
でも、実際に自分が50代で海外生活を始めてみると、毎日は意外なほど地味です。洗濯をして、買い物をして、言葉が通じず困って、予定どおりにいかず疲れる。それでもまた次の日が来ます。
ただ、日本を離れて暮らすうちに、大きく変わったことがありました。それは、「ちゃんと生きなきゃ」という力みが、以前よりずっと小さくなったことです。
50代、60代になると、多くの人が長い間、がんばり続けています。仕事、家族、人間関係。責任を背負い、「迷惑をかけないように」と走り続けてきた人も多いと思います。私自身もそうでした。
でも海外で暮らしていると、「人生はそんなに完璧でなくても大丈夫なのかもしれない」と、少しずつ思えるようになりました。
1:思いどおりに進まなくてもよい

海外生活で最初に驚いたのは、「思いどおりに進まないこと」が本当に多いこと。日本では当たり前だったことが、当たり前ではありません。
配達は予定どおりに来ない。工事は終わらない。担当者によって言うことが違う。最初は、そのたびにイライラしていました。
「どうしてちゃんと確認しないの?」「え? これで終わりってこと?」
日本の感覚で考えると、信じられないことが何度も起きます。
でも、あるとき気づきました。周囲の人たちは、だれもそこまで怒っていないのです。もちろん困ってはいます。でも、「まあ、そういうこともあるよね」という空気で日常が流れています。
日本では、“予定どおりに進むこと”が安心につながっています。一方、海外では、“予定どおりにいかないことに慣れる力”で暮らしているように感じました。
私は長い間、「思いどおりに進めること」が生きる力だと思っていました。でも今は、「思いどおりにいかなくても機嫌よく暮らすこと」も、同じくらい大切なのだと感じています。
2:今、この時間を楽しむ

海外で暮らすと、国や文化が違っても共通して感じることがあります。それは、「小さなことを気にしすぎない」ということです。
多少予定がずれても、今ここを楽しむことが最優先。細かい段取りよりも、「とりあえず一緒にお茶を飲もう」という空気を感じます。たとえ店員さんが注文を間違えても、笑いながらやり直している場面もよく見かけます。人との距離が近く、初対面でも驚くほど親切にしてくれる人も多くいました。
正確さが欠けていても、効率的でなくても、人の表情はどこか穏やかなのです。
私はそれまで、ちゃんとしていることが大人らしさだと思っていました。でも今は、「人生はちゃんと続いていくから、多少抜けていてもよい」と感じています。
完璧でなくても、少しくらい予定が狂ってもいい。その感覚は、50代になった今の私にとって大きな救いでした。人生の後半は、「今あるものを味わうこと」のほうが大切なのかもしれません。
3:「こうあるべき」という思い込みを捨てる

時間どおりに行動する。人に迷惑をかけない。空気を読む。期待に応える。多くの大人たちは、こうしたことを当たり前にがんばっています。
周りの環境に合わせて“ちゃんとこなすこと”はもちろんすばらしい。でも、同時にとてもエネルギーを使うものでもあります。
海外生活を始めて間もない頃の私は、毎日とても緊張していました。はやくその土地の暮らしに慣れようとがんばっても、言葉が通じない。思ったとおりに進まない。
でもある日ふと、「もう、全部ちゃんとできなくてもいいじゃない」と思える瞬間があって、急にラクになりました。
疲れるのは、出来事そのものではなく、「この環境ではこうあるべき」という思い込みなのかもしれません。今は、自分に合うやり方が見つかればそれでいい、と思えるようになりました。
4:「暮らしのハードル」を下げる

もう1つ、私のなかで大きく変わったのは、暮らしの基準でした。
以前の私は、やるべきことを終わらせないと落ち着かないタイプ。生活習慣は守りたいし、予定もきちんと進めたい。部屋も整えておきたい。そうして気づけば、いつもなにかに追われていた気がします。
でも、海外生活は予定どおりにいかないことばかり。すると次第に、「今日はこれで十分」と思えるようになっていきました。
完璧にこなせなくても、洗濯できたから十分。ごはんを食べられたから十分。そんなふうに、暮らしのハードルを下げることで、気持ちが驚くほど軽くなりました。そうすると不思議なことに、以前より景色がよく見えるようになったのです。市場のにぎわい、クルマのクラクション、空の色…。

若い頃は、「もっと完璧にこなさなくちゃ」と、いつも先のことばかり見ていました。でも今は、ただ毎日をちゃんと暮らせるだけで十分。毎晩カーテンを閉めるとき、「今日も無事に生きていられた」と思います。
人生の後半は、自分を追い込み続けるよりも、自分のペースに戻していく。そんな暮らし方も悪くないと思っています。
私が海外生活で学んだのは、がんばることではなく、“がんばりすぎないこと”でした。
