なぜ「池ポチャ」の記憶は消えないのか? スコアを崩す「原始時代の脳」の正体

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朝イチのティーショットが右のOBへ。その瞬間に「今日もまた100が切れない……」と絶望……。多くの人は「メンタルが弱い」と自分を責めますが、これは大間違い!あなたの性格のせいでも、メンタルのせいでもなく、すべては5万年間アップデートされていないあなたの「原始脳」の“仕組み”からくるものなのです。仕組みがわかれば解決法がわかる。解決法がわかれば、ナイスショットの確率もアップします。

脳の最優先事項は“生存”すること

「練習場ではうまく打てるのに、コースに出ると別人のようにミスを連発してしまう」。私のもとに相談にくるアマチュアの多くがこのような悩みを抱え、決まって「メンタルが弱いのでしょうか」というフレーズを口にします。

しかし、断言します。メンタルに「強い」「弱い」はありません。あるのは、脳の仕組みを「知っているか」「知らないか」、そしてそれを「使いこなす技術があるか」どうかだけなのです。

人間には、ポジティブな情報よりもネガティブな情報を優先的に記憶し、過剰に反応してしまう「ネガティビティバイアス」という脳の特性があります。人類が狩猟採集をして生きていた原始時代を想像してみてください。

森の茂みがカサッと揺れたとき「あ、可愛いウサギかもしれない」と楽観視する人はいません。もしそれがライオンだった場合、あっという間に食べられて命を落としてしまうからです。逆に「猛獣かもしれない!」と最悪の事態を想定して逃げる人は、生き残ることができます。

つまり、私たちの脳は「幸福(ウェルビーイング)になるため」ではなく、「生存(サバイバル)するため」の回路が優先的に配線されているのです。危険や失敗、恐怖といったネガティブな情報を強烈に記憶に焼きつけることで、同じ過ちを繰り返さず生き延びてきた、これが私たちの「原始脳」です。

ハザードの本当の狙いは「心理的な恐怖」だった

ゴルフコースにおいて、池やバンカーなどの「ハザード」は、単なる物理的な障害物ではありません。それらはまさに、あなたの脳を揺さぶり、ネガティビティバイアスを意図的に発動させるために巧妙に仕掛けられた「罠」なのです。

フェアウェイにある1本の木、グリーン手前の池が、ゴルファーにとっての「猛獣」となり、脳が危険信号発して自滅していくことを設計者は知っているのです。さらに脳は「さっきも右に曲げた」という過去の失敗の記憶を瞬時に引っ張り出し「また同じ危険が迫っているぞ!」と強烈なアラートを鳴らします。

不安や恐怖を感じるのは、あなたが弱いからではありません。あなたのなかにいる「もうひとりの自分(生存本能)」が、設計者の罠からあなたを守ろうとして必死に警告してくれているだけです。だからこそ「不安になっちゃダメだ」と無理に感情を抑えようとするほど、脳は「危険を無視するな!」とさらに強くアラートを鳴らしてしまいます。

情報過多はショットを崩す

ネガティビティバイアスが発動すると、罠(ミス)を避けようとして「ワキを締めて」「頭を残して」など、過剰な情報処理をしはじめるもの。これが「思考のオーバーロード(情報過多)」です。頭がパンパンの状態では、体の動きはスムーズさを失い、結果として恐れていたとおりのミスショットを引き起こしてしまいます。

では、どうすればいいのか? コントロールできない「過去のミス」や「未来の不安(結果)」を手放し、いま自分がコントロールできることだけに意識を向けるのです。

「右に池があるな。不安を感じている自分がいるな」と客観的に受け入れたうえで、「池を避ける」のではなく「フェアウェイのあの木を狙う」という肯定的なターゲットにフォーカスする。これこそが脳の特性に振り回されないための「スキル」です。

実践!いますぐできるメンタルワーク
【不安を味方につける「3秒メタ実況」ワーク】

ティーイングエリアに立って「また右に行きそう」と不安になったら、以下の3ステップを3秒で実行してください。

STEP 1
観察(1秒) 「いま、○○(状況)を見て、▲▲(感情)を感じています」
例:「右の池を見て、不安を感じています」 STEP 2
承認(1秒) 「これは脳の生存本能。設計者の罠に正常に反応している証拠です。教えてくれてありがとう」 STEP 3
転換(1秒) 「さて、私が狙うのは▽▽(ターゲット名)だ」とつぶやきゆっくりと息を吐き切る
例:「フェアウェイ左のあの木だ」
ポイント 自分の状態を客観的な言葉にする(メタ認知)だけで、感情と距離を取ることができます。不安を否定せず受け入れたあと、ゆっくりと深く息を吐き切る。それだけで、ガチガチだった脳と体の緊張がスッと解けていきます。

いかがでしたか? ぜひ、メンタルワークを参考にして、練習してみてください。

解説=阿部健二

●あべ・けんじ/メンタルパフォーマンスコーチ。合同会社All Days Sports代表。オリンピック選手や日本代表選手など、トップアスリートを多数指導。
「メンタルは技術」を信念に、最新の脳神経科学とアドラー心理学を用いた再現性の高いコーチングに定評がある。(2026年5月現在)

構成=石川大祐