月の重力下で火災が起こるとどうなるの? NASAが実験を計画
炎の挙動が読めない場合、消化剤の挙動も読めないと思うのだけど、いったいどうやって消すんだろう?
アルテミス2は、月面探査の再開に向けた節目でもあり、どれくらい準備が整っているか、どこを改善すべきかを見極める機会でもありました。
といっても、別に歴史的なミッションじゃなくても、科学者が重要な安全対策を調査するのは可能です。時として、地味な研究分野の進展が、宇宙飛行においてめちゃくちゃ重要な進歩と重なることもあるようです。
宇宙で火災が発生したらどうなるの?
今回の研究対象は、宇宙空間での火災発生の防止についてです。月惑星科学会議で発表された短い報告のなかで、NASA(アメリカ航空宇宙局)の研究者が「Flammability of Materials on the Moon(月面における材料の可燃性: FM2)」という新たなミッションを明らかにしました。
これは、地球以外の天体で火災がどのように発生するかを初めて検証するミッションなのだとか。今年後半に打ち上げ予定で、4つの固体燃料サンプルを月に送り込み、月の重力下における炎の特性を長期間にわたって記録する予定。
研究者チームは、「今回の実験は、基準データを提供するものであり、月の重力が材料の可燃性にどのような影響を及ぼすかを理解するための、より広範な取り組みの一環です」と述べています。
火の滴、宇宙では火の玉に?
微小重力下では、炎の振る舞いが地球の重力下とは大きく異なるため、宇宙でのミッション中に火災が発生すると、壊滅的な事態に陥る恐れがあります。
地球上では、上昇する高温のガスと、より冷たく密度の高い空気を下に引っ張る重力の作用が組み合わさるため、小さな炎は水滴のような形になります。
NASAの燃焼科学に関するブログ記事によると、微小重力下ではこのような動きは見られず、炎はより丸みを帯びた球状になる傾向があるとのことです。下の動画でその仕組みを説明しているので、日本語の音声トラックでご覧ください。
また、宇宙航空研究開発機構(JAXA)も無重力下でろうそくの炎が球状になる仕組みを解説しています。
こういった背景から、NASAのエンジニアたちは、宇宙飛行に適した材料を特定するために、「NASA-STD-6001B」という試験方法を確立しました。長年にわたって数多くの燃焼実験を重ね、宇宙空間における火災の特異な物理現象に関するデータを収集してきたといいます。
月の重力、地球よりヤバいかも
ただ、ここでちょっとした問題があります。宇宙での可燃性を幅広く研究してきたとはいえ、その知見を月面ミッションでどこまで適用できるのか、NASAの研究者たちは大まかな見通ししか持っていないそうなんです。
FM2に関する最新の報告では、現時点の数値的・実験的な証拠に基づくと、特定の部分重力環境下(惑星の表面など、地球よりも重力が小さい環境)では、「炎の伝播速度が重力のピーク値に依存するため、月面の重力はより危険な可能性がある」と予測されています。研究チームは、この予測は宇宙服の設計にも影響を及ぼすと付け加えています。
つまり、月は重力が小さいため、炎がどこへどのようにどんな速さで燃え広がるのか、挙動が読みづらくて危険ってことみたいです。ということは、消すのも難しくなりそうですよね。実験室レベルではうまく消火できても、月面でどうなるかはわからないですものね。スペース消防士が必要かも。
1997年には、ロシアの宇宙ステーションで火災が発生したこともあるそう。すぐに消し止められたとのこと。実験では、酸素が少なかったり、空気の流れが遅かったりといった火が燃えにくい環境下でも、予想に反して火が広がり長時間燃えたという結果もあります。
月面探査と安全に関する研究の好循環
FM2が予定通り今年後半に打ち上げられるとしたら、これ以上のタイミングはないようです。アルテミス2の成功を受けて、NASAの関係者はアルテミス3 について言及し始めています。アルテミス3でさらなる予備テストを実施したのち、アルテミス4とアルテミス5で人類を月面に着陸させる計画だそう。
エンジニアたちが最終的に目指すのは、月面で直接、材料適格性試験を実施すること。ただ、最新の報告書において、研究チームは「人間が長期にわたって月面に滞在できる方法が確立」されない限り、そのような試験の実施は不可能だと認めています。
つまり、これはある種の循環的なプロセスになっています。FM2がうまくいけば、アルテミス計画の乗組員たちの旅がはるかに安全なものになります。そして、アルテミス計画によって月へ飛び立つ人が増えれば、宇宙空間における物理現象についてより深い知見を得られる好循環が起こるとのこと。
万が一のことが起こってからでは遅いので、FM2の実験も安全第一でお願いしたいところ。火の用心です。
Source: USRA, NASA (1, 2, 3, 4), Universe Today
Reference: JAXA, NHK

