もうすぐ「成人」なダウン症のある娘と母親がアメリカのバスケ試合で体感した「インクルーシブ」の本当の意味

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待望の第一子を産んだ直後に、ダウン症と知らされたフリーアナウンサーの長谷部真奈見さん。出産当初は娘がダウン症である事実を受け入れることができず、誰にも明かせないまま、自殺を考えるほど思いつめた時期もあったという。

「大好きで大事で大切な娘のことを、出産当時なかなか受け入れられなかった自分を、娘に許してもらいたい」――そんな思いから、覚悟をもって当時の自らの思いと向き合いスタートした連載『私が「母」になるまで』の第15回。

前編では、現在ハワイ留学中でもうすぐ18歳になる娘さんに長谷部さん家族がどんな選択を考えてきたのか――迷いながら下した選択について、ポジティブな面もネガティブな面も含めて綴っていただいた。

後編では、ハワイ留学中に実感したインクルーシブな環境について、3月に開催された『Prime Night Friday Night(PNFT)』という高校対抗バスケットボール大会のエピソードから寄稿いただく。

※正式名はダウン症候群。染色体の突然変異によって起こり、通常、21番目の染色体が1本多くなっていることから「21トリソミー」とも呼ばれる。筋肉の緊張度が低く、多くの場合、知的な発達に遅れがある。心疾患などを伴うことも多いが、医療や療育、教育が進み、最近ではほとんどの人が普通に学校生活や社会生活を送っている(参考:日本ダウン症協会 )。

特別支援の生徒が参加するバスケ大会

娘が留学しているハワイ州・オアフ島には約20校の公立高校があり、『Prime Night Friday Night(PNFT)』という高校対抗バスケットボール大会が開催されています。

約10年前に教育プログラムの一環としてスタートし、特別支援(スペシャルニーズ)の生徒たちがプレーするために設計された大会なのですが、とても丁寧に考えられていて、障がいやリスクのある生徒だけでなく、バスケ部の主力選手や、元プロバスケ選手などがコーチやサポート役として一緒に試合に出場します。スペシャルニーズの生徒だけでなく、レギュラークラスの生徒や先生、家族も応援に駆けつけ、大勢の観客が大熱狂で盛り上がり、その様子は地元メディアでも放送される一大イベントなのです。

この大会では、ファウル(失敗や減点)よりも、チャレンジ(成功や得点)を重視する仕組みが用意され、ルールも柔軟です。

トラベリング(ドリブルをしないで3歩以上歩くこと)や、ダブルドリブル(ドリブルをストップした後にまた同じ人がドリブルをすること)など、通常バスケットボールでNGとされている細かいルールもすべてOK。そのため、通常のバスケットボールの試合では見られないようなミラクルな光景にあふれています。

車椅子の生徒がボールを膝の上で抱えたまま、コートを縦断し、そのままゴール下まで行ってシュートを決めるなんてことも。そんなときは、車椅子で走り出した瞬間から観覧席はスタンディング状態になり大声援で盛り上がります。チームの勝ち負けを忘れるほど両チームの応援団がエールを送り合い、会場のみんなが笑顔になります。

体のとても小さな生徒が得意なダンスや側転を交えたドリブルで客席を沸かせたり、自閉症のある生徒が常に精密で正確なシュートを放ち得点を決めるという勝ちパターンもあったりして、それぞれの選手のプレーを自然な形で讃え合う素晴らしいイベントなのです。

「インクルーシブ」の意味を教えられた

娘は、2025年に初めて参加したのですが、私も応援に行ってみて本当に楽しくて、得点や勝敗のみでなく、個性的なプレーのひとつひとつに会場が一体となって盛り上がる空気に、心から感動したのを思い出します。

唯一あるルールとしては、サポートに入るレギュラークラスの生徒たちは、シュートをしたり、スペシャルニーズの生徒たちがシュートをするのを妨げたりすることはNGとされています。それ以外は何でもサポートしてOKというルールのため、バスケットボールの技術に関係なく、生徒たち同士が関われる仕組みです。ここにもインクルーシブ教育のヒントがあるように感じました。

通常級の生徒と特別支援学級の生徒が同じ試合に出て、同じルールや条件の下、同じチームで戦うとなれば、動きなどの面で危険性も高くなる可能性は明らかです。それは持続可能なインクルーシブの形とは言えません。

一方で、特別支援の生徒や、運動が苦手な生徒たちも参加できるFNPTのような機会があって、通常級の生徒たちもサポート役として参加するという形であれば、みんなが戸惑いや不安を感じずに、お互いに関わり合えるインクルーシブな成功体験を自然と積み上げることができるのだと、今回のイベントに参加して実感しました。

インクルーシブ教育が進まない原因のひとつに、理念には賛成するものの、教員の不安や、通常級の生徒たちがどう接して良いかわからないといった戸惑いがあるなど、現場で実装できるイメージがついていってないという現実があります。

今回のバスケットボール大会では、通常級の生徒たちはサポート役として関わるという設計になっているため、不安や戸惑いはなく参加していました。サポートに入った生徒たちからは「一緒にバスケができて楽しかった」「あんなにシュートが上手いとは想像以上だった」「スペシャルニーズのイメージが変わった」といったポジティブな意見が多く聞かれたのです。

「障がいのある人たちとともに」という試みが大切であることはわかっていても、最初の関わりが楽しいものでなければ、継続は難しく、「インクルーシブ」に対する印象もネガティブに反応してしまうことでしょう。 “成功しやすい出会い”が生まれるように設計されているFNPTは本当に素晴らしく、こうした成功体験の積み重ねが、教員や生徒の意識を少しずつ変えていっていることを実感しました。

日本でも多くのイベントが開催されるようになり、娘も日本にいたときにはいろいろなイベントに参加し、素敵な出会いもたくさんありました。でも、特別支援学級の生徒と通常級の生徒とが接する機会は残念ながら多くはありませんでした。そのため、なかなか理解が進まず、より不安や戸惑いに繋がる悪循環のような状況を経験することもありました。もしかしたら、ハワイで体験したバスケットボール大会のような機会があれば、少しずつ変わっていくのではないかと感じました。

アメリカでボランティアが根付く理由

ここまで読まれて、FNPTのバスケットボール大会が「約10年の月日をかけてきたといっても通常級の生徒の中には、参加したくないと感じる人もいるのでは?」と思う方もいるかもしれません。

もちろん、特別支援の生徒も通常級の生徒も参加は自由で、義務ではありません。サポート役として参加する通常級の生徒たちはボランティアでの参加になるわけですが、「気持ち」だけの参加ではない側面もあります。

アメリカの高校生が特別支援の生徒たちをサポートしたり、イベントの手伝いや、ボランティア活動を進んで行う背景には、さまざまなボランティア活動をすると、卒業時に必要なクレジット(単位)がもらえるという対価やメリットもあるのです。

娘も、休日に学校の清掃活動(Beautification Day)に参加したりすることで、クレジットをもらっています(参加の都度、オンラインでクレジットを申請しています)。その上、参加すると大好きなスナックやドリンクがもらえたりするので、お友だちと楽しそうにうれしそうにボランティア活動に参加しています。

また、アメリカの高校生にとって、ボランティア活動は、高校卒業後の進路にも大きく影響してくる大切な要素でもあります。

アメリカの大学では日本のような一発試験で合否が決まるのではなく、普段の成績や人物像などその生徒がどんな強みを持っていて、今までどんなことをしてきた人なのかが問われ、それらをもって総合的に評価される仕組みのため、高校生たちは特にボランティア活動や、自ら進んで社会貢献をすることに普段からとても興味を持っています。

娘が月に数回、日曜日にダンスを教わっているのは、同年代の高校生グループで、彼女たちは自ら「Reach for the Stars」というボランティア団体を立ち上げ、スペシャルニーズ(特別支援)のある人たちにダンスの機会を提供する活動を継続して行っています。ダンスプログラムの発案からレッスン会場の手配、レッスンや発表会まですべて自分たちで行い、参加費も無償で提供しています。

リーダーのジュリアさんは、幼いころからダンスが得意で、高校ではミュージカルの主演を務めるほど人気も実力もある生徒です。ボランティアのきっかけは自閉症のあるお姉さんの存在だったといいます。スペシャルニーズの人たちにはダンスをする機会が限られていることに気が付き、「自分でその機会を作ろう」と、自らボランティア団体を立ち上げ、15歳のときには地元のメディアで取材されるなど注目を集めるまでに成長しました。

娘もこのダンスレッスンに参加させていただき、ダンスの楽しさはもちろん、同年代のお友だちとの関わりの楽しさをも同時に学んでいます。とにかく、通常級の生徒たちとスペシャルニーズの生徒との関わりの機会がとても多いと感じるのがハワイに来てからの感想です。

それも、どちらかが、どちらに何かを「してあげる」という形ではなく、お互いがお互いから学び、クレジットや大学進学へのボランティア経験にもなり、結果的に「お互いのためになっている」というイメージのため、とても自然な形で継続されているのも特徴です。

娘が18歳になるということ

ハワイでは、まもなく卒業シーズン(5月)を迎えます。シニア(4年生)の生徒たちはすでに進路が決まっているケースがほとんどですが、すでに娘たちの学年(2年生)も大学入試に向けた模試や、面接を受ける練習も始まっています。

そして、娘はこの夏、18歳という大きな節目を迎えます。

18歳の誕生日を迎えた瞬間から、日常生活のあらゆる場面でこれまでと大きく変わってくることがあります。成人とみなされるため、そのまま何もしなければ、保護者が学校の書類に代わりに署名したり、ミーティングに付き添ったり、病院に付き添ったりすることができなくなるのです。

そのため、障がいのある子を育てる親たちは子どもが18歳になる前に、「ガーディアンシップ」という、日本の「後見制度」のような、障がいなどがあって意思判断能力が不十分な人のために、裁判所が代わりの人(ガーディアン)に意思決定権を与える制度を申請し、取得する必要に迫られます。

最近では、本人の意思をなるべく尊重する「Supported Decision-Making(支援付き意思決定)」や、「Power of Attorney」という、日本の「委任状」や「代理権授与書」のような法的文書を作成し、本人がそれに署名することで、指定した人が代わりに重要な判断や手続きを行える制度など、ガーディアンシップだけでなく、より柔軟な代替手段も出てきていて、目下、いろいろと勉強中です。

娘がこの先、どんなふうに成長し、どんな人生を過ごしていくのかは未だ想像がつかないのですが、これからも、娘が自分自身の人生を選択して生きていける力や、自信を身につけられるよう、そしてそのサポートができるように、一緒に向き合い、考えて行きたいと思っています。

【前編】ダウン症のある娘がもうすぐ「18歳」。出産時心中すら考えた母親が”娘が大人になるまで”に大切にしてきたこと