高島屋の5年ぶり赤字転落で分かった 中国客減の「百貨店」が外国人観光客に売るべき“2つのモノ”
百貨店売上軟調から見たインバウンド消費の今後を占うと、大きな転換期が2026年に訪れていると言えそうです。
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大手百貨店の2026年2月期決算では各社減益が目立ち、特に高島屋は最終赤字に転落しました。2028年満期の転換社債を買い入れて消却したことによる一過性の特別損失が主な要因であるものの、営業利益の面では訪日外国人客の低調、特に免税売上高の減少も影響しています。前期は395億円の黒字だったこともあり、5年ぶりとなる赤字は大きな衝撃をもって受け止められているようです。こうした流れは高島屋にとどまらず、松屋も減益、大丸松坂屋百貨店やパルコを傘下に置く「J・フロント リテイリング」でも、免税売上の低迷が業績を圧迫している点は同じです。

訪日外国人客が減っているわけではありません。2025年は約4,268万人と過去最高を更新し、旅行消費額も約9.5兆円に達して3年連続で最高記録を塗り替えました。2026年3月の訪日客数も前年同月比3.5%増の361万人。中国客は前年比55.9%減の29万1,600人にとどまり、中東客も3割減となっているにもかかわらずこの数字を記録するのは、インバウンド市場が“量から質”へのシフトを迫られていることを示唆しています。
“爆買い”が流行語大賞に選ばれたのは2015年のことでした。実際、ここ数年の百貨店はラグジュアリーブランドや化粧品を中心に、インバウンド需要を取り込んで成長してきました。円安を追い風にした高額品の免税販売の伸びが業績を後押しした時期もありました。しかし最近、その流れが明らかに変わりつつあります。百貨店を長く見てきた視点から言うと、これは一時的なものではなく、中長期的な変化が始まっています。
歴史は繰り返す?“爆買い”から変わった日本人
歴史は繰り返すと言いますが、バブル時代、日本人が海外旅行に行くと、ラグジュアリーブランドの品を現地で購入する光景は珍しくありませんでした。当時は円高の恩恵で、海外ブランド品が日本国内価格の3分の1程度で購入できたためです。パリのルイ・ヴィトンでは日本人観光客の行列で入場制限がかかるほどで、ハワイや欧米の免税店でも、高級バッグやスカーフ、香水、宝石、スイスの時計などを大量に買い込み、紙袋を両手に抱えてホテルに戻る姿が日常的でした。私もシーバスリーガルのウイスキーやマルボロメンソールをお土産に買った記憶があります。中には1回の旅行で200万円から300万円相当を現金で使い切り、ショーケースごと宝石を買った……というような豪快なエピソードも聞こえていました。
つまり、買い物が旅行の大きな目的の一つだった時代といえます。翻って、現在の日本人の海外旅行は様変わりし、現地の文化や体験を楽しむことを優先する人が増えました。日本を訪れるインバウンド客の消費行動にも、これに通じる変化が見られます。昔のような大量のブランド品爆買いから、日本独自の質の高い価値を求める消費へとシフトしているのです。
この変化が、“爆買い”の恩恵を受けてきた百貨店の売上の軟調に表れているわけです。そもそもラグジュアリーブランドや輸入化粧品を中心としたビジネスモデルは、為替の変動や地政学的リスクに左右されやすく、持続しにくい面があります。実際、2025年は訪日客数が過去最高の4,268万人、消費額9.5兆円と好調だったのに、百貨店では高額品の反動減が目立ちました。これは中国客の減少が大きく影響し、免税売上高が前年を下回る月が続いたためです。
オーバーツーリズム対策の好機ではあるが…
高市早苗首相の台湾有事に関する発言をきっかけに、中国側が渡航自粛を呼びかけた点は大きく、特に11月以降にそれが顕著になりました。2025年を通してみれば、中国人客は前年比30.3%増の909万6,300人だったものの、年末から減少に転じたことで、年間のインバウンド総客数の伸びを鈍らせたとみられます。
別の視点に立てば、オーバーツーリズム対策をしっかり進める好機と言えます。とはいえ、日本は人口減少が進んでいます。若年層や地方の消費力が弱まる中で、国内消費の落ち込みは避けられません。ゆえに、外国人観光客によるインバウンド消費は、数少ない“勝ち筋”のひとつであることも事実。2025年の消費額9.5兆円は日本経済にとって大きな支えです。が、ただ人数を増やすだけでは限界があります。政府が目指す2030年の目標は訪日客数6,000万人、消費額15兆円です。一人当たりの消費単価を25万円程度に引き上げる必要があり、“質”への転換が鍵になる。
消費経済の視点で見ると、インバウンドは日本経済の構造転換を後押しする重要なドライバーです。人口減少で国内市場が縮小する中、外国人観光客の消費は輸出に匹敵する効果を発揮します。2025年の一人当たり旅行支出は約22.9万円と高水準を保っていますが、これをさらに押し上げるには、モノ消費からコト消費へシフトを加速させる必要があり、百貨店にはそのポテンシャルがあると私は考えています。百貨店をはじめとする小売業は、ここでビジネスモデルの見直しを迫られているのです。
どう変わる?二つのポイント
では具体的にどう変わればいいのか。ポイントは二つあります。
一つは、ハードルは高いですが、海外製のラグジュアリーブランドの販売から日本製の高額品の販売にシフトすることでしょう。それも単なる値段の高さで売るのではなく、技術・伝統・ブランドストーリーがしっかり詰まった商品群に軸足を移すことです。
たとえば南部鉄器の鉄瓶は10万円から数十万円しますが、職人の技と歴史が価値を支えています。輪島塗、有田焼、江戸切子といった伝統工芸品も同様です。日本ブランドの化粧品や時計・宝飾類も売りになるはずです。資生堂のクレ・ド・ポー ボーテ、ポーラのB.Aシリーズ、コーセーのコスメデコルテ、アルビオン、THREE、グランドセイコー、ミキモトなどが候補となるでしょうか。これらはただのモノではなく、日本独自の匠の技や文化的な背景が付加価値になっています。訪日客、特に欧米やアジアの富裕層・リピーターはこうしたストーリー性を強く求めていて、単価も安定しやすい。輸入ブランド中心から、日本ならではの付加価値を前面に出す戦略が有効になります。
私もかつて業界にいたので強調したいのですが、日本化粧品の強みは、品質が保たれる安定性と、肌へのやさしさにあります。製造管理が非常に厳しく、ロットごとのバラつきが少なく、長く使っても安心できる。当たり外れが少ないという信頼感が訪日客に支持されています。特に資生堂やポーラの製品はその代表です。敏感肌向けの低刺激設計が多く、刺激より継続使用を重視した処方が特徴で、日本人の肌データを豊富に持っている点も大きな魅力です。イプサやアルビオンなどはそうしたやさしさを体現しており、海外の消費者が日本コスメに求める安心感と実用性を兼ね備えています。
百貨店が取り組むべきもう一つの視点は、“体験”の要素を強く取り入れることでしょう。物産展やバレンタインなどの「催事」は、国内顧客を中心に好調に推移している一方で、まだインバウンド顧客を十分に取り込めていない実情があります。百貨店は単に物を売る場ではなく、顧客が日本文化を体感できる空間に進化すべきなのです。イートインを中心とした飲食スペースを充実させるなどして、こうした催事を通じてインバウンド顧客を引き込む取り組みが今後ますます重要になります。
どういった催事が考えられるでしょうか。伝統工芸の職人による実演販売、化粧品カウンターでのパーソナルカウンセリング、和菓子や日本酒のテイスティングを交えたイベントなどは、買い物と体験を融合させ、滞在時間を延ばして消費を促せそうです。こうした工夫は客単価を上げるだけでなく、リピート意向を高め、口コミで新しい顧客を呼び込む効果も期待できます。
中国以外からの誘客チャンス
円安の動きに左右されやすいインバウンド売上の先行きですが、中東情勢で航空燃料費が上がれば、超富裕層以外の来日需要が落ち込むリスクもあります。中国人観光客の減少は日中関係の政治的な要因が絡んでいるわけですが、そもそも中国国内経済の低迷や消費マインドの変化も背景にありました。中国客の“空白”を埋めるため、他の国や地域からの誘客を強めるチャンスです(繰り返しになりますが、オーバーツーリズム対策を徹底するチャンスでもあります。京都や東京の人気スポットでは混雑緩和のための入場制限や分散誘導を進め、地方への誘客も同時に進めることで、持続可能な観光モデルを作れるはず)。
2026年は百貨店にとって、インバウンド消費の新たな転換期になり、進化を求められそうです。変化を危機ではなく機会と捉え、消費の質を高める戦略が今、強く問われています。
渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。近著に『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(馬渕磨理子氏と共著、フォレスト出版)がある。
デイリー新潮編集部
