記事のポイントプーマはAIコンシェルジュ導入などを通じて、店舗体験の高度化と顧客接点の拡張を進めている。AI Creatorによりファンがユニフォームを共創できる仕組みを構築し、短期間で大規模な参加と高いエンゲージメントを実現した。業績低迷を受け、AIやデジタル施策を軸にブランド再生と成長回帰をめざす戦略を推進している。
スポーツブランドのプーマ(Puma)は、成長への回帰をめざすなかで、最新テクノロジーの活用にも取り組んでいる。約80年の歴史を持つこのブランドは、以前からロブロックス(Roblox)での体験やNFT、Web3プログラムに取り組んできた。直近では4月13日、ラスベガスのフラッグシップストアで、AIを活用したデジタルコンシェルジュ「ディラン(Dylan)」を披露した。また、サッカークラブのマンチェスター・シティとの提携で2年前に開催したAIユニフォームコンテストの優勝デザインの発表も控えている。プーマのAI施策を推進しているエマージングマーケティングテクノロジー責任者のイワン・ダシュコフ氏は、AIのさまざまな活用方法を試すことに意欲を見せている。「最近は、ツールを見せて人々に興味を持ってもらうことが、以前よりうまくできるようになってきたと思う」とダシュコフ氏は述べた。それは常に課題でもある。AIに対して全員が同じ方向を向き、ポジティブに捉えるようにするにはどうすればいいか、だ。より広い文脈として、プーマは新たな立て直しの最中にある。同社は2025年に継続事業から6億4360万ユーロ(約966億円)の損失を報告しており、前年の2億8070万ユーロ(約421億円)の利益から大幅に落ち込んだ。最近の書簡でCEOのアーサー・ヘルド氏は、ブランドが「長年にわたって商業的になりすぎた」ことを認め、「これはブランド力の低下、販売品質の悪さ、インパクトのない商品ラインアップに表れている」と述べた。2025年に同氏は「目標は、プーマを世界トップ3のスポーツブランドとして確立し、業界の成長を上回る成長に戻り、中期的に健全な利益を生み出すことである」と語った。ダシュコフ氏はModern Retailの取材に応じ、同ブランドの最新AI施策と、2026年にファンが期待できることについて語った。なお、このインタビューは、内容の明瞭さのために編集を加えている。

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新しいAIストアコンシェルジュはどのように機能する?

非常に大きなスクリーンで、7フィート(約2.1メートル)くらいの高さがあり、なかに人間がいるように見える。その人間はAIで動いていて、プーマストアにあるあらゆる製品について話すことができる。ディランは100以上の言語を話し、ランニング製品を専門としている。さまざまなランニングシューズの種類について、ランニングスタイルや走る場所、フィットネスの目標に基づいて説明できる。また、ライフスタイルやバスケットボールなど、店内のすべての商品についての知識も持っている。さらにインベントリー(在庫)APIにアクセスでき、消費者が特定のサイズを尋ねると『サイズ9.5はございます。すぐにお持ちしますね』と答えることもできる。このプロジェクトにはエヌビディア(Nvidia)とLiveX AIが関わっており、開発には約1年を要し、テスト期間は3カ月だった。

テストプロセスはどのようなものだった?

オフィスのなかに従業員向け店舗があるので、店舗の横にコンシェルジュを設置した。すると、本当に素晴らしいフィードバックをいただいた。なかでも特によかったのは、ちょっとおかしく聞こえるかもしれないが、不気味さがまったくない点だ。世の中にはAIとのやり取りがまだ少し不自然に感じられるものが多いが、これは自然でオーガニックな感じがする。職場の友人からも、『私は少し内向的なので、デジタル接客の選択肢があるのはありがたい』とフィードバックをもらった。これは予想外の興味深い意見だった。消費者にブランドとのさまざまな接点を提供するのは重要なことである。そして、人によっては、ほかの方法よりもこの方法を好む場合もあるだろう。

従業員のなかで、デジタル接客との共存について懸念を抱いている人はいないのか?

我々はいくつかの店舗を訪問したが、従業員からのフィードバックはすべて好意的だった。彼らも興味を持っていると思う。AIは我々の生活のさまざまな場面で繰り返し耳にするトレンドワードだからだ。彼らも、自分たちが操作したり、そこから学んだりできる新しいテクノロジーが登場することに興奮しているのではないだろうか。

コンシェルジュサービスをほかの店舗にも展開する予定はあるのか?

まだ完全に初期段階だ。まずは最初のものがどうなるかを見て、微調整し、トレーニングを続け、どんな質問が来ているのか、どこに穴があるのかを確認して、埋めていきたいと考えている。体験が本当によいものになり、よい指標が出てきたら、ほかのどの店舗に展開するかについて検討をはじめられるかもしれない。今はラスベガスに注力し、サービスの微調整を行うことが重要です。消費者が我々の予想しない方法でコンシェルジュを利用するケースも出てくるかもしれない。そのときは、サービスの活用方法を再考する必要が出てくるだろう。

顧客がAIを通じて製品をデザインできる仕組みを導入したとのことだが、それについて詳しく教えてもらえるだろうか?

2024年に、テキストから画像を生成するAIツール『プーマAI Creator』を使って、サッカークラブであるマンチェスター・シティのユニフォームを自分でデザインできる仕組みを作った。消費者に権限を与え、誰でも自由に自分だけのユニフォームを作れるようにしたかったのだ。何でも入力してユニフォームに反映させることができたが、我々のブランドとマンチェスター・シティを守るための安全策も講じていた。当初、テストでは(最初のデザインの生成に)2〜5分かかっていたが、Googleとエヌビディアとの協力により30秒まで短縮した。それでもその待ち時間を埋めたかったため、ほかのユーザーのキットを閲覧できるTinderのような投票システムを追加した。デザインが完全に読み込まれると、デザインの大きさを変えたり、Vネック、クルーネック、ボタンネックに変更したりできた。また、トリムカラー、バッジカラー、スポンサーカラーを変更したり、背番号に好きな選手の名前を入れたりすることも可能だった。これを制作した結果は素晴らしいものだった。10日間で5万4000人のユーザーが206の国と地域から参加し、18万のデザインが制作された。170万枚のキットが投票システムで評価され、計算すると平均的な投票者は30回以上投票したことになる。コンテスト形式で行われたため、1つの優勝キットが選ばれ、数カ月以内に発表される予定だ。その優勝キットがマンチェスター・シティのシーズン公式サードキットとなる。ファンはクラシックでシンプルなキットを好む傾向があったため、その意向を尊重し、忠実に反映させた。数カ月前にはプロサッカークラブのオリンピック・マルセイユとも同様の取り組みを行い、バックエンドのAIエンジンを改良した。最初のAIユニフォーム施策から、『好きなものを入力してください』というプロンプト方式は非常に難しいと学んだため、今回はプロンプトをチャット機能にした。ユーザーがプロンプトを入力すると、AIが応答し、プロンプトをより強くするための提案をしてくれるようにした。これによりデザインのバリエーションが広がった。また、リミックス機能付きのギャラリー機能も追加し、ほかのユーザーのユニフォームをクリックしてリミックスできるようにした。このバージョンでは、3万3000人近くのユーザーから17万3000のデザインが制作され、177カ国から参加があり、90万枚のキットが評価された。平均セッション時間は1セッションあたり8分だった。デジタルヒューマンとAI Creatorは、プーマが取り組んできた大きなプロジェクトのうちの2つだが、同社はAI分野でほかにも多くのことを行ってきた。数年前にはデザイナーとともにAIを活用して靴をデザインし、クリエイティブサービスの観点から言えば、Webサイトの商品紹介ページに掲載する画像の一部や、より小規模なクリエイティブ制作にもAIを活用している。

どのAIプロジェクトを優先するかは、どのように決定するのか?

AIはビジネスのあらゆる部分と機能に影響を与えているので、もはや逃げることはできないと思う。組織のすべての部門が、ワークフローや制作物を強化するためにAIがどう機能するかを考える必要がある。私はこれまで、消費者の視点から物事を考える人間だった。以前、私はNBAで働いていて、ソーシャルメディアがスタートした頃に担当していた。当時の我々のモットーは、『ソーシャルメディアチャネルを使って、ファンをコートサイドに連れていき、こっそり様子を見せるにはどうすればいいか』だった。プーマでこのグループを立ち上げたときも、『新しいテクノロジーを使って、ファンと有意義で魅力的な方法で交流するにはどうしたらいいか?』というそのモットーを引き継いだのだ。AIがバズワードになった当初、AI Creatorのアイデアが生まれた。人びとがユニフォームをデザインできるようにするものだ。特に楽しい瞬間だったのは、当時、そしてこれは今も続いているが、人びとはAIを恐れていたことだ。特にクリエイティブの分野では、いまだに抵抗がある。AI Creatorを考えたとき、我々のアイデアは『AIを使って何かを作り、ファンに渡すのではなく、消費者に来てもらい、ツールを使って我々やお気に入りのクラブと一緒に共創し、ユニークなものを生み出してほしい』というものだった。マンチェスター・シティの場合、プレミアリーグのピッチに登場する史上初のAI制作ユニフォームとなるため、これは非常に大きな出来事だと私は思う。つまり、我々は消費者にAI体験を自由に楽しんでもらうためのカギを握らせたのだ。

2026年は、ほかにどのような先端技術プロジェクトに取り組んでいるか? ロブロックスでのゲーム開発はまだ続けているのか?

ロブロックスについていえば、プーマは非常に充実したデジタルグッズ事業を展開している。さまざまなテレビゲームでプーマ製品を販売しており、フォートナイト(Fortnite)やNBA 2Kのようなゲームだけでなく、あまり聞きなじみのないアルファ世代に人気のVRゲーム「イープス(Yeeps)」でも展開している。このように我々は複数のVRゲームに参入しており、消費者がブランドとインタラクションするためのほかのタッチポイントを提供している。[原文:Puma's AI head says the brand is still giving 'the keys to the consumer' as it invests in tech like a digital concierge]Julia Waldow(翻訳、編集:藏西隆介)