by Fortune Brainstorm Tech

Anthropicの次世代高性能AIモデル「Mythos Preview」について、アメリカの国家安全保障局(NSA)がすでに使用を開始していると報じられています。一方でAnthropicは、国防総省によってサプライチェーン上のリスクと認定された企業でもあり、政権内で利用停止や排除の動きが進んでいました。にもかかわらず、サイバー防衛上の必要性の高さから再びアメリカ政府内でAnthropic製AIの利用検討が進んでいる状況です。

NSA using Anthropic's Mythos despite Defense Department blacklist

https://www.axios.com/2026/04/19/nsa-anthropic-mythos-pentagon

Anthropic and Trump: Is a truce near? - POLITICO

https://www.politico.com/news/2026/04/17/anthropic-and-trump-is-a-truce-near-00879655

Anthropic’s relationship with the Trump administration seems to be thawing | TechCrunch

https://techcrunch.com/2026/04/18/anthropics-relationship-with-the-trump-administration-seems-to-be-thawing/

Anthropicのダリオ・アモデイCEOは「自社AIをアメリカ民に対する大規模監視や完全自律型兵器の運用には使わせない」という立場を示しましたが、ピート・ヘグセス国防長官側は「合法な目的であれば政府が最終判断権を持ってあらゆる用途に使える」よう求め、交渉は決裂しました。

トランプ大統領が「Anthropicの左翼狂信者がアメリカ軍の制御を試みた」と主張し関係断絶を指示、ヘグセス国防長官はAnthropicを「サプライチェーンリスク」に指定へ - GIGAZINE



その後、ドナルド・トランプ大統領は連邦政府機関にAnthropic製AIの利用停止を命じ、さらに国防総省はAnthropicを国家安全保障上のサプライチェーンリスクに指定しました。この指定は本来、外国の敵対勢力と結び付いた企業に用いられることが多い強い措置で、同社の約2億ドル(約320億円)の国防総省契約だけでなく、国防総省と取引する請負業者にもAnthropic製品の使用停止を迫りかねないものでした。Anthropicはこの措置が不当なものであるとして、法廷で争う姿勢をみせました。

AI企業のAnthropicが「アメリカの国家安全保障に対するサプライチェーンリスク」に正式に指定される、Anthropicは法廷闘争を宣言 - GIGAZINE



しかし、Anthropicとアメリカ政府の対立構図を変えたのが、Anthropicの次世代AIモデル「Mythos」です。Anthropicはこのモデルについて、従来のAIを大きく上回るハッキング能力を持つと説明しており、複雑なソフトウェア脆弱(ぜいじゃく)性やゼロデイ脆弱性を自律的に見つけて悪用できるほか、企業のITシステム内を移動しながら複数の攻撃手法をつなげ、エンドツーエンドのサイバー攻撃を自律的に実行できるとしています。

サイバー攻撃性能が高すぎるAI「Claude Mythos Preview」をAnthropicが開発、プレビュー版をMicrosoftやAppleなどに提供する「Project Glasswing」も開始 - GIGAZINE



Anthropicはこうした危険性を踏まえ、まずJPモルガンやAmazon、Appleなど一部企業に限定してアクセスを提供し、国家支援型ハッカーやサイバー犯罪者に先を越される前に重要なコードの欠陥を見つけてもらう狙いがあると説明しています。海外メディアのAxiosによると、国防総省の監督下にあるNSAは先行してMythos Previewを提供されている組織の1つに含まれていると報じており、政府のサイバーセキュリティ上の必要性が、国防総省とAnthropicの対立を上回りつつあると伝えています。NSAでどのようにMythos Previewが運用されているのかは不明ですが、他政府組織では主に自分の環境をスキャンして悪用可能なセキュリティ脆弱性を検出する為にAIが用いられているそうです。

同時に、AnthropicのAIの性能に期待する連邦政府組織では、トランプ政権の対Anthropic強硬姿勢を実務面で迂回するような動きが起きていると報じられています。海外メディアのPoliticoによると、商務省のAI標準・イノベーションセンターや、銀行のサイバー防御への影響を調べようとした財務省などがMythosへのアクセスを求めており、政府機関はこのモデルの危険性と防御上の有用性を評価するため、利用方法を急いで模索しているとのこと。



by Anthropic

さらに政権内のある関係者の話として、国防総省を除く「ほぼすべての機関」がAnthropicの技術を使いたがっていると報じられており、アメリカ政府全体と国防総省との温度差が浮かび上がっています。

実際、行政管理予算局(OMB)は複数の連邦機関に送ったメールの中で、Mythosの「修正版」を政府機関に提供できるかどうかを検討していると説明しています。OMBの最高情報責任者であるグレゴリー・バルバチア氏は「モデル提供企業や産業界、情報機関と連携し、十分なガードレールと安全対策を整えたうえでの提供可能性を見ている」とし、今後数週間で追加情報を出す見通しを示しています。

国家サイバーディレクター室のショーン・ケアンクロス局長は民間企業との電話会議を開き、スージー・ワイルズ大統領首席補佐官やJ・D・ヴァンス副大統領の後ろ盾を得て、この問題への政権対応を主導しているとされます。会議ではMythosを「アメリカのAI革新の象徴」として評価する一方、企業ネットワークにとっての危険性についても警告が行われたそうです。

こうした流れの中で、Anthropicとアメリカ政府の関係にも雪解けの兆しが見え始めました。2026年4月にはアモデイCEOがワイルズ首席補佐官やスコット・ベッセント財務長官、ケアンクロス局長らと会談し、アメリカ政府とAnthropicの双方がこの会合を「生産的な出発点だった」と評価しました。

アメリカ政府は協力の機会や技術拡大に伴う課題への対応策を話し合ったと述べ、Anthropic側もサイバーセキュリティ、アメリカのAI競争力、AI安全性といった共通課題について政府と連携する道を協議したとしています。



by World Economic Forum

Anthropicの共同創設者であるジャック・クラーク氏は、サプライチェーンリスク指定を巡る争いを「狭い意味での契約上の争点」と位置付け、最新モデルについて政府に説明する姿勢は変わらないと述べました。

今回の一件は、AIの安全保障リスクを理由に企業を締め出そうとした政権の方針が、そのAI自体の強力なサイバー能力によって揺さぶられたといえます。Anthropicはなお国防総省との法的対立を抱えていますが、政府はMythosを危険な存在と見なしつつも、同時に国家防衛や金融インフラ防護のために無視できない技術と認識しているといえます。