(※写真はイメージです/PIXTA)

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親が遺してくれた大切な実家。兄弟姉妹で平等に分けることは、最も公平な選択に思えます。しかし、安易に選んだ「共有名義」という道が、数年後の家族をどん底に突き落とすケースが後を絶ちません。不動産という切り分けられない資産を複数人で所有し続けることは、個人の自由を奪うだけでなく、予期せぬ第三者の介入を招くリスクを孕んでいます。

実家の「共有名義」が招いた第三者の介入

神奈川県郊外に建つ築35年の一軒家。5年前、この家を所有していた父親が亡くなった際、次男の佐藤直人さん(45歳・仮名)は、長男の佐藤健一さん(52歳・仮名)、長女の木村陽子さん(48歳・仮名)との3人で実家を相続しました。

遺産分割協議の場において、直人さんは「実家をどうするか」という課題に直面しました。当時、健一さんは自営業を営み、陽子さんは結婚して他県に住んでいました。直人さん自身も都内にマンションを購入していたため、すぐに誰かが住む予定はありませんでしたが、売却して現金化することには全員が消極的でした。

「父が苦労して建てた家をすぐに手放すのは忍びないという思いが共通していました。誰か一人が相続して他の二人に代償金を払う余裕もなかったため、法定相続分通りに3分の1ずつ、共有名義で登記することにしたのです。それが最も公平で、きょうだい間の波風を立てない唯一の方法だと思ったんです」

しかし、3年が経過したころ、事態は急変します。直人さんの自宅に、見慣れない不動産会社から一通のレターパックが届きました。

「通知書を開くと、そこには『佐藤健一氏が所有していた共有持分3分の1を、弊社が競売により落札し、所有権移転登記を完了しました』と記されていました。一瞬、何を言われているのか理解できませんでした。自分の住んでいない実家の権利が、知らない間に他人の手に渡っていたなんて……」

何かの間違いだろうと思いつつ健一さんに連絡を取ると、兄は力なく事実を認めました。経営していた内装業の資金繰りが悪化し、親族に相談できないまま、自身の持ち分を担保に融資を受けていたのです。返済が滞った結果、持分が差し押さえられ、裁判所を通じて競売にかけられていました。

「兄は『自分の権利分だけを担保にしたから、お前たちには迷惑がかからないと思っていた』と繰り返すばかりでした。しかし、法的な現実はまったく違いました。翌週には、落札した業者の担当者が実家にやってきたのです」

訪れた担当者は、直人さんと陽子さんに対し、事務的な口調でこう告げました。

「私たちはこの家の3分の1の権利を持つ正式な共有者です。このままの状態では我々も事業として成立しませんので、共有状態の解消を提案しに来ました。選択肢は二つです。私たちの持分を1,500万円で買い取っていただくか、あるいは家全体を競売にかけて、持ち分に応じて代金を分配するか。一ヶ月以内に回答をください」

提示された金額は、周辺の相場から算出される3分の1の価値を大きく上回るものでした。しかし、拒否すれば裁判所に共有物分割訴訟を提起され、判決によって建物全体が強制的に競売へ進む可能性があることも説明されました。

「知らない業者が急に実家の権利者として入ってきて、売却か買取かを迫られる。共有名義にしたことで、家族以外の人間が話し合いに入ってくる状況を自分たちで作ってしまったのだと気づきました」

直人さんと陽子さんは業者との交渉を進め、結局、父との思い出が詰まった実家を手放したといいます。

共有名義が抱える法的リスク

佐藤さんきょうだいのケースのように、共有者のひとりが経済的に困窮し、その持分が第三者に渡るケースは、決して珍しいことではありません。

相続放棄の受理件数は、高齢化や地方の不動産価値低下などを背景に右肩上がりで急増しています。裁判所の「令和5年司法統計年報(家事編)」によると、2023年度(2024年公表)の受理件数は30万8,753件と、過去最高を更新しました。それに伴い不動産の共有解消に関する法的トラブルも注目されています。特に、一戸建てのような「現物での分割」が不可能な資産において、共有名義はトラブルの火種となりやすいのが実態です。

共有名義の最大の懸念点は、共有持分のみを買い取る専門業者の介入です。民法第256条では「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる」と定められています。共有持分を取得した第三者は、この規定に基づき、他の共有者に対して「自分の持分を買い取るか、さもなくば家全体を競売にかけて現金を分配せよ」と迫ることが可能です。

こうしたリスクを回避するためには、相続発生時の遺産分割協議において、共有名義を避けることが推奨されます。不動産を売却して現金を分ける「換価分割」や、一人が相続して他の相続人に代償金を支払う「代償分割」を検討すべきです。「とりあえず平等に」という安易な判断が、家族以外の第三者に介入の余地を与え、最終的に資産価値を損なう結果を招くという現実に留意する必要があるでしょう。