「お答え差し控える」再審見直しの人選問題、国会で追及 法務省答弁から見えた“ブラックボックス”の輪郭
刑事裁判をやり直す「再審」制度の見直しをめぐり、冤罪被害者らが批判する見直し案を法制審議会が取りまとめたことで、委員の選定過程に注目が集まっている。
国会では、弁護士でもある衆議院議員が「誰が選んだのか?」「なぜ再審に関する論文を発表している学者を一人も選ばなかったのか?」と追及。
法務省側は詳細な説明を避けたものの、答弁からは法務・検察の意図をうかがわせるやり取りもあった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●誰が委員を選んだ? 法務省「刑事局で検討し大臣が了承」
4月10日に開かれた衆議院法務委員会で、弁護士でもある國重徹議員(中道改革連合)が質問を重ねた。
國重議員はまず、法制審の各部会の委員候補者を誰が選んでいるのかを尋ねた。
法務省の内野宗揮・司法法制部長は「具体的に定められたルールは見当たらない」としたうえで、「諮問事項の内容に照らして、事務方が選び上げ、大臣と相談したうえで判断されている」と説明した。
さらに、再審制度の見直しを議論した部会の人選について、國重議員が「事実上の人選は誰が決めたのか」と問うと、法務省の佐藤淳・刑事局長は次のように答弁した。
「個別の人事の検討過程に関する詳細についてお答えは差し控えるが、今回の候補者については、まず事務方において検討をおこなって、当時の法務大臣に随時報告したと承知している。そのうえで、当時の法務大臣において事務方の報告を踏まえて、これを了承したということであると承知している」
●法務省「日本を代表する刑訴法の研究者にお願いした」
審議会の人選については、1999年4月に閣議決定された「審議会等の整理合理化に関する基本的計画」で、「意見、学識、経験等が公正かつ均衡のとれた構成になるよう留意する」などと定められている。
この基準について問われた佐藤刑事局長は、「再審制度の改正というのは、基本法である刑事訴訟法の改正に関わるもので、刑事裁判実務に非常に大きな影響を与えるということで、さまざまな立場の専門家の方々に議論していただこうとご参加いただいた」と説明した。
すると、國重議員は「冤罪を生み出してきた検察組織の幹部が、冤罪防止の制度設計を議論するメンバーの多くを事実上選ぶことになるので、より透明性の確保された基準や指針があって選ぶべきだ。意見が公正かつ均衡のとれた構成になるようにどのようなことに留意して選んだのか」と追及。
これに対して、佐藤刑事局長は次のように説明した。
「お答えするのはなかなか難しいところではありますけれども、刑事司法制度というのは、裁判所、弁護士、検察、警察、被疑者・被告人、さらには犯罪被害者、こういった方がステークホルダーとしておられて、そのような立場それぞれから議論して深めるということが、よりよい議論のためには我々としてはいいと思っている。
刑事訴訟法の学者さんたちについては、どのようなご意見をお持ちかというのは、必ずしも個別の論点についてはとりわけわからないところではありますが、我々としては日本を代表する刑事訴訟法の研究者をお願いした、引き受けていただいたというふうに考えているところです」
●刑事局長「全体の中で再審制度を位置付ける観点から判断」
法制審の見直し案に賛成した学者については、「再審制度に関する論文を書いたことがある人がいない」といった批判も上がっている。
國重議員は「委員には専門性が求められるが、専門家なのかどうかを調べもせずに選んだのか」とも質問。
佐藤刑事局長は「網羅的に把握していない」と述べた一方で、「刑事司法は再審だけではなく、たとえば誤判を防ぐためにはまずは通常審においてそのようなことがないようにしなければいけないというのが大前提」と説明。
そのうえで「全体としての刑事司法の中で再審制度を位置づけていくことになるので、そういう観点から我々としては刑事訴訟法の学会を代表する全体として見ていただける方であると理解しておりますので、そういうことも加味して判断したということになるかと思います」と述べた。
法制審の議論では、日弁連が推薦した弁護士の委員が冤罪被害者を早く救済できる制度改正を提案したが、学者など他の委員の間では「法的安定性」を重視して反対する意見が目立った。
佐藤刑事局長の「刑事司法全体の中で再審制度を位置付ける観点から判断した」という答弁は、「法的安定性」を重視する人選につながった可能性をうかがわせる。
●なぜ論文執筆者ゼロ?法務省「お答え差し控え」
國重議員はさらに「再審や誤判に関してこれまで積極的に研究してきた方が選ばれていない」という研究者の指摘を引用し、こう追及した。
「同じ医者といっても、眼科、整形外科、脳神経外科と専門が違う。(法制審の委員は)一人ひとりは非常にすばらしい学者の方だが、なぜ再審に関する論文を発表している専門性のある学者を一人も委員に選ばなかったのか?」
佐藤刑事局長は「個別の人事に関わる検討の過程に関する事柄についてはお答えを差し控えたい」とし、「我々としては刑事裁判実務に全体として大きな影響を与える再審制度の議論、検討にあたり、幅広い観点から議論していただくことに適した方々に引き受けていただいたと考えている」と従来の説明を繰り返した。
●國重議員「公正、均衡のとれた人選だったのか」と追及
法制審の見直し案に沿った政府の法案については、刑事法の研究者ら142人が今年4月に大幅な修正を求める緊急声明を発表した。
この動きについて、國重議員は「これほど再審法改革に前向きな学会の状況がある中で、法務省案に沿う学者ばかりが、しかも5人全員が並ぶ構成になったのか。これで公正で均衡の取れた人選だったと言えるのか」と問いただした。
しかし、佐藤刑事局長は「個別の人事にかかる検討の過程についてはお答えを差し控える」と明言を避けた。
●反対意見を残すよう求める意見出るも反映されず
法制審の議論の進め方についても疑問が示された。
部会では、弁護士の委員から、検察官の不服申し立て禁止に関して多くの議論が交わされた事実を取りまとめ案に「両論併記」する形で残してほしいという要望が出されたが、最終的な取りまとめ案には反映されなかった。
國重議員は「この進め方は不公正ではないか」と指摘し、「重大な論点で明確な異論が存在したのになぜ多様な意見を反映しなかったのか」と批判した。
佐藤刑事局長は「答申案は法務省が法案を作成するための基礎となるものとして、法制審の総会に提示されるものであり、法案の基礎になるからには特定の案を示すべきだという反対意見が示された」などと説明するにとどまった。
