凱旋試合から一夜明けて、チョコケーキをほおばる秋次克真(右)と妻のアシュリーさん【写真:澤田直人】

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カルデロン戦から一夜明け

 ボクシングのバンタム級ノンタイトル10回戦から一夜明けた12日、IBF世界バンタム級5位・秋次克真が取材に応じた。前夜は、東京・両国国技館で元世界同級ランカーのホセ・カルデロン(メキシコ)に0-2(94-96×2、95-95)で判定負け。米ロサンゼルスに拠点を置く逆輸入ボクサー。アメリカでの生活とファイトマネーの使い道を明かした。戦績は28歳の秋次が14勝(4KO)1敗、22歳のカルデロンが15勝(6KO)3敗。

 勝負師の顔から一変、ピンクと白のストライプシャツにサングラスをぶら下げ、爽やかな出で立ちで姿を見せた。「よろしくお願いします」とにこやかな表情。席に着くや否や「悔しいです。でも清々しいですね」と思いを口にした。

 前夜の試合では初回から果敢に攻めて会場をどよめかせた。拮抗した試合が続いたが、次第に足が止まり被弾が増えた。日本の大舞台で初めて聞いた「克真」コールに背中を押されるも、主導権を握ることはできなかった。結果は0-2の判定負け。苦い凱旋試合となった。

 秋次は和歌山市出身の28歳。7歳からボクシングを始め、地元の「GSBジム」に通った。その後は名門・興国高校に入学。部員は1学年に30人程いて、当時は補欠。思うような結果は出なかった。

「本場のボクシングを見に行きたい」

 深い考えはなかったが、内なる思いに突き動かされた。明確な理由と言えば「アメリカンドリームを掴みたい」。高校中退を決断し17歳で渡米。ビザの関係で一度帰国後、パチンコ店で1年程アルバイトをして資金を貯め、19歳でもう一度海を渡った。

ファイトマネーの使い道とは…

 語学学校とアルバイト、ジム。米国では寝る間もないほど目まぐるしい生活を送っていた。プロデビューした2018年当時の状況を振り返り「アマチュアの大会『ゴールデングローブ』に出たんですよ。負けたんですが周りには『勝ってる』と言われて。その試合を機に一気に話が進んだ。いまだにどうやってプロになったか分からないです」と苦笑い。「プロ2試合目なんかは1日前に決まって、相手の地元で勝ってしまった」と明かした。

 14勝を積み上げてきたものの、金銭面やマッチメークの面では苦労してきた。「僕が病んでいたというか、一番底辺だった時です」と打ち明ける。

 転機となったのは、23年6月に結婚した6歳上の妻アシュリーさんの存在だ。2人はアプリで知り合った。秋次は「彼女がいなかったらボクシングできていない」と感謝した。アシュリーさんは、高級住宅街のビバリーヒルズにあるレストランでバーテンダーとして働いている。店にはレディー・ガガやテイラー・スウィフトなどの著名人も訪れるという。

 一方、2人が暮らすのはロサンゼルスの築40年近いアパート。「ネズミやゴキブリが普通にいるんですよ。雨漏りを直してもらっても次の日には水が垂れてくる。バケツを置いてます。治安も悪くて路地でドラッグをやっている人もいる」と過酷な生活ぶりを明かした。

 そんな生活も今回の凱旋試合で変わろうとしている。「ファイトマネーでマシなところに引っ越そうと思います」。

 妻の支えとひたむきな努力が実を結びつつあり、米国でも一目置かれる存在に。前WBC&IBF世界バンタム級統一王者の中谷潤人(M.T)や、元WBC世界フェザー級王者マーク・マグサヨ(フィリピン)とスパーリングで拳を交えた。

 日本での凱旋リベンジにも闘志を燃やすが「自分を見つめ直して帰ってこれるように。いきなり『もう一回チャンスをください』とは言えない。それくらいアメリカでチャンスもらうのは厳しかった。その辛さを知っている」と語る。

「周りにもチャンス欲しい人がいっぱいいるでしょうし、日本の選手だったらアメリカから来やがってと思う人もいる。大きい舞台を用意されてと。この負けから這い上がっていきたい」

 大胆な行動の裏に、実直で謙虚な姿勢が滲む。逆境の中で磨いた拳を武器に、秋次は再び立ち上がる。

(THE ANSWER編集部・澤田 直人 / Naoto Sawada)