「これからはのんびり生きるよ」お金には困らないはずだったのに…5年間遊んでいた無職の65歳元会社員、元同期との飲み会で知った“59歳のねんきん定期便”では見えなかった老後の現実【FPが解説】
年金の金額はほぼ同じでも、定年後の選択によって老後の生活は変わります。完全リタイアした人、再雇用で働き続けた人、スキルを活かして独立した人。同じ会社で働いていた3人の元同期が65歳になって再会したとき、それぞれが直面していた現実は大きく異なっていました。給付直後の年金額は一定でも、働き方や準備の違いが将来の安心度を左右する時代、長く働き続ける人が増え続けています。さまざまな老後の生き方があるなかで、あなたはどんな生き方を選びますか? 今回は、Aさん・Bさん・Cさんの話から、定年後の選択と老後格差の実態についてFPの川淵ゆかり氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
65歳の元同期3人が語る「老後のリアル」
ショットバーで今年65歳になった元同期の3人が久しぶりに集まって飲んでいます。彼らは60歳で定年退職したあと、それぞれまったく違う道を進みました。
・Aさん:「これからはのんびり生きよう」そう決意し、退職後は働かず、家で孫の相手をしながら毎日ブラブラしています。
・Bさん:再雇用制度を利用して引き続き同じ会社で働いていました。
・Cさん:長年の経理の経験や実績を活かして、コンサルタントとして独立しました。
3人は同期入社で、勤務する部署はそれぞれ違いました。しかし、同じホワイトカラー職として勤め上げ、59歳のときに届いた“ねんきん定期便”の受給見込み額は、3人ともほとんど同じ月16万円程度だったのです。
同期間の老後格差…それぞれの道を歩んだ3人の現状
A:「Bはまだ働いてるの? 若い奴らの指示で動くなんて腹立たないの?」
B:「3月で終わったよ。もう65歳だからね。Aはいいよな。“髪結いの亭主”だもんな。こっちは我慢してでも働かないと生活できなかったよ。女房は体が弱くて働けなかったから基礎年金だけだしね。よかったのは勤務時間短縮で遅い出勤だったから、満員電車に悩まされないことくらいだよ」
A:「だけど、うちの理髪店もそろそろ危ないよ。最近の物価高で昔からのお客はセルフカットやほかの安い店に流れちゃって。新規のお客もとれないから奥さんがいつもイライラしてるんだ。『あなたはいいわね。毎日遊んでいて!』って嫌味ばっかりいわれるよ。Cはいいよな。稼いでるんだろ」
C:「僕は経理畑が長かったのがよかったね。銀行とも知り合いができたし、在職中から独立を目指して準備していたから」
3人は“隣の芝生は青く見える”で、それぞれ相手の状況を羨ましがっていますが、現実はそう甘くないようです。
A:「いいなぁ。うちはこれまで貯金切り崩して生きてきたからな。やっと今年から年金がもらえるよ。うちの奥さんも少しは優しくしてくれるかなぁ……」
B:「あの程度の年金じゃダメだろ。孫に小遣いやるのもためらうよ。再雇用でなんとか5年間働けたのはいいけど、65歳で新しい勤め先探すのは厳しいよ。ホワイトカラーはさすがにもう無理だろうなぁ」
A:「まだ働くつもりなの? もう隠居すればいいじゃないか。5年も働いたんだから年金も貯金も増えただろ」
B:「バカいえよ。勤務時間短縮の再雇用だぜ。収入なんか半分だよ。給付金までもらってたんだぜ(※1)。あ〜ぁ、俺もなにか資格でも取っとけばなぁ。それに、5年も働いたのに年金は月に1万円も増えないんだよ。やっぱりCはいいよなぁ」
※1 高年齢雇用継続給付金:定年後の再雇用で給与が減額された場合に受け取れる給付金です。60歳時点の給与と比較して再雇用後の給与が75%未満に低下した場合に、その低下率に応じて給与の一部を補填するものです。
C:「とんでもないよ。大学時代の友達が会計士でさ。そこから紹介をもらってるけど、最近はなにかとITやらAIやらだろ。話についていけなくて。その友達の部下の若い奴に頭を下げながら最近のアプリの使い方とか教えてもらってるくらいさ。クライアントの要求も年々厳しくなってくるしね。Bも仕事探すなら覚悟しておいたほうがいいよ」
「働き損」は本当?年金制度の勘違い
B:「なんか若いときに思っていた老後とは、ずいぶん変わっちゃったよなぁ」
C:「若いときというか、ここ5年くらいで世の中が大きく変わってないか?」
3人は同じ会社で働いていたときのことを思い出しながら、これからの暮らし方について語り合います。
A:「Cもまだ働くの? 僕は5年も遊んでたからいまさら仕事する気にはならないなぁ」
C:「働くよ! 退職金で自宅を事務所付きにリフォームしちゃったからね。それに、夫婦のどちらかが寝たきりになったらあれっぽっちの年金じゃ厳しいだろ」
B:「そうだよ、Aは甘いよ。老人ホームなんてこれから先いくらかかるかわからないんだぜ。うちの母親も入居しているけど食費やら入居費やら、もう何回も値上がりしてるよ」
A:「だって、働いたって年金カットされるんだろ。働き損じゃないか」
B:「カットされるのは年収が高い奴ばっかりだよ(※2)。俺みたいに低いと、カットなんかされないよ」
※2 在職老齢年金制度:年金を受け取りながら厚生年金に加入して働く人を対象に、収入が支給停止調整額を超えた場合に年金の一部または全部の支給が止まる仕組みです。2026年(令和8年)4月からは、支給停止調整額(老齢厚生年金の「基本月額」と「総報酬月額相当額」の合計)が「65万円」となります。
A:「えぇ? カットされないの? それなら僕も再雇用で働いておけばよかったかな……。Cは年金カットされるの?」
C:「僕はフリーランスだからね。厚生年金に入ってないからカットされないよ(※3)。だけど、いまは収入で十分食べていけるし、年金までもらったらただでさえ大きな社会保険料がまた増えちゃうから繰下げ受給(※4)にして老後に少しでも増やそうかな、とは思ってるんだ。Bがいうとおり老人ホームなんてピンキリだし、将来はいくらかかるかわからないしね。あと5年は働きたいんだけどな。生き残れるかなぁ」
※3 ※2で説明したとおり、年金カットは厚生年金に加入している人が対象ですので、自営業者等はいくら稼いでも年金がカットされることはありません。
※4 繰下げ受給:65歳で受け取らずに66歳以降75歳までの間で受給を遅らせることで年金額を増やすことができます。1ヵ月遅らせるごとに将来の受給額が0.7%ずつ、1年で8.4%が加算されることになります。70歳からの受給なら42%増え、上限の75歳から受給すれば84%も増やすことが可能です。
あなたの定年後はどのタイプですか?
働き続けるシニアと、シニア就労の過酷な現実
住宅ローンが老後まで残ったり、物価高の影響を受けたりで、定年退職後も働き続ける人は増えています。内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によると、2024年の65歳以上の就業者数は930万人に達し、2004年以降、21年間連続して増加しています。年代別の就業率は以下のとおりです。
<男性>
・60〜64歳:84.4%
・65〜69歳:61.6%
・70〜74歳:42.6%
<女性>
・60〜64歳:63.8%
・65〜69歳:43.1%
・70〜74歳:26.4%
さらに、75歳以降も働く人は急増しており、2014年には129万人(8.1%)でしたが、2024年には248万人(12%)にまで膨らんでいます。
働く意欲を持つシニアが増える一方で、環境は甘くありません。AIの発達が著しい昨今、ITスキルの高い人間が求められるなか、人手不足でも希望する転職や再就職は、ますます難しくなってきています。Cさんのように、在職中から計画を立てて準備しておくことが不可欠です。
“ねんきん定期便”の金額にも個人差が
A、B、Cさんの3人は、定年退職前の59歳で受け取った「ねんきん定期便」の金額がほとんど同じでした。しかし、これはあくまで「60歳まで現在の条件で働いた場合」の予定額にすぎません。
その後の働き方(厚生年金に加入し続けるか、独立するか、完全にリタイアするか)や、配偶者の状況などによって、実際に受け取る金額や世帯としてのゆとりは大きく変わってきますので、十分にご注意ください。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表
