どうか、夢であってくれ…年収800万円、都内在住の56歳男性が「80歳父の訃報」を受け1年ぶりに帰省→葬儀後に激昂したワケ。原因は「尊敬していた父の“置き土産”」【弁護士の助言】
相続をめぐる争いは後を絶ちません。特に、故人が生前「隠しごと」をしていて、その隠しごとが死後に判明したようなケースでは、円満になるはずだった相続が“泥沼の争い”に変わることも……。尊敬していた父の“置き土産”に頭を抱える男性の事例をみていきましょう。弁護士の山村暢彦氏が解説します。
尊敬する父が遺した“置き土産”
「どうか夢であってくれと、心から願いました」
そう語ってくれたのは、東京郊外に暮らすケンジさん(仮名/56歳)。年収は約800万円で、大学生の娘の学費を工面しながら、妻とつつましくも幸せな家庭を築いてきた、至って真面目な会社員です。
定年を数年後に控えたある日、母親から父の訃報を聞かされ、急ぎ帰省することに。
「父のことは本当に尊敬していたんです。弱音ひとつ吐かずに朝早くから夜遅くまで働いて、専業主婦の母と私を含む3人の子どもを養ってくれたんですから」
しかし、約1年ぶりに訪れた実家で、その「尊敬の念」が音を立てて崩れ去ります。きっかけは、遺品整理をしていた実家の書斎で、偶然見つけてしまった「ある茶封筒」でした。
父の書斎で見つけた「茶封筒」の正体
ケンジさんの父・ショウイチさん(仮名/享年80歳)は、地元でも名を知られた元教育者でした。厳格ながらも家族思いで、「お前たちに迷惑はかけないように準備してある」が口癖だったといいます。
しかし、四十九日を待たずして、その信頼は無残に打ち砕かれました。
父の愛用していた文机の奥から出てきた茶封筒。なかには「公正証書遺言」が入っていました。
「内容を見て、心臓が止まるかと思いました。そこには、私がまったく知らない『受取人』の名前が記されていたんです」
遺言書には、実家の土地・建物を含む全財産の半分を、隣町に住む「サユリ」という女性に遺贈すると書かれていました。さらに、その女性との間に生まれた「隠し子」の存在を裏付ける書類までが出てきたのです。
「迷惑はかけない」という言葉の裏で、父が長年二重生活を送っていたという事実。ケンジさんは激昂しました。
「私は学費だってバイトをして工面したんです。親父が質素に暮らしていると思って仕送りまでしていたのに、その金であの女と……」
遺言に基づき遺贈を受ける立場であるサユリ側からは、すでにその履行を求めて「土地を売却して現金を渡せ」という通知書が届いています。
これから先、父を思い出すたびに裏切りの記憶がチラつく……ケンジさんは実家の売却阻止に向けて、弁護士を頼りに徹底抗戦する予定です。
サユリ側が求める「遺贈」は阻止できるか?
今回の事例のように、公正証書遺言が作成されている場合、形式や内容に重大な問題がない限り、その効力は原則「有効」と扱われます。
そのため、遺言で定められた遺贈については、残された家族として感情的に納得しがたいものであっても、直ちに覆すことは容易ではありません。
また、生前に行っていた仕送りなどについても、法的に当然に取り戻せるわけではないため、ケンジさんが「不公平だ」という感情を抱くのも仕方がないでしょう。ただし、感情と「法律上どう評価されるか」は必ずしも一致しない点に注意が必要です。
加えて、相続人には最低限の取り分である遺留分が認められる可能性があります。
本件では、サユリ側は遺贈を受ける立場ですが、仮に隠し子が法律上の相続人に該当する場合、その者の遺留分や、他の相続人との関係でどのような調整が必要かを慎重に検討する必要があります。
ケンジさんの立場で考えるとモヤモヤするかもしれませんが、感情的対立が激化しやすい場面だからこそ、早期に事実関係の確認と法的整理を行い、現実的な落としどころを探ることが重要といえるでしょう。
山村暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士
