接骨院と整形外科はどう使い分けるべき? 専門家が教える、体の不調の「駆け込み寺」の選び方
世に溢れる「リラクゼーション」を掲げた店。その位置付けをご存じか。不調を感じた時にマッサージは受けられる? 柔道整復師のいる「接骨院」や理学療法士のいる「整形外科」は、どう使い分けるべき? とことん患者と向き合う専門家4人が解説してくれた。【西所正道/ノンフィクション・ライター】
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首や肩がコチコチにコッている、腰痛がつらい……。だからとにかく手っ取り早くすっきりしたいと思ったとき、“マッサージ”をしてくれるお店はありがたい。
しかし、もしその施術者が「あん摩マッサージ指圧師」(以下マッサージ師)という国家資格を持っていなかったなら、法に触れるかもしれないのをご存じか。

マッサージ師資格の取得者で、日本指圧専門学校の理事長補佐・金子泰隆さん(47)はこう語る。
「国家資格を持たない人がマッサージをしたら違法になります。ただ厄介なのは、どういう行為がマッサージで、どれがリラクゼーションの類いなのか、境目がグレーなところなんです」
街角で目にするリラクゼーションの看板。後述するが、現在は「業」として認定されたリラクゼーションの定義は「手技を用いて心身の緊張を弛緩させるための施術(を行う事業所)」である。ここには、もみほぐしや整体、カイロプラクティック、タイ古式マッサージ、アロマセラピー、ヘッドスパなど(の店舗)が含まれる。たしかにマッサージはうたっていないが、金子さんが続けるには、
「そうしたお店の中には、マッサージとの区別がつきにくいところが含まれるのが問題です。訪れた人がすっきりして無事に終わるならいいものの、施術を受けて健康を害した事例が消費生活センターに報告されています。店を一見しただけでは国家資格を有する施術者がいるかが分かりにくいので、有資格者がいることを店に表示するよう厚生労働省が要望している事実はどこまで知られているのでしょうか。店外では看板にその旨を記載する、店内では資格免許証を掲示したり、資格を示すネームプレートを着用したりするようにと」
深刻な病気が隠れているケースも
資格者は無論、専門教育を受けている。専門学校では3年、大学では4年かけて、解剖学や生理学、臨床医学、実技などを学び、卒業後、国家試験を受けて免許を取る。彼らは身体のメカニズムなどを十分念頭に置いて治療してくれるのだ。
その点、金子さんは、
「腰痛や肩が上がらないといった症状に対して、正確にアプローチできるのはマッサージ師だけです」
と言うのである。
「痛みと一口に言っても、筋肉や腱が原因となる場合や神経が圧迫されて起こる場合など、複数のケースが考えられます。神経が原因ならば、何番目の神経根が椎間で圧迫されているかをさまざまな方法で確かめたり、構造上圧迫されやすい箇所を確認したりして原因箇所を割り出し、的確な施術をしています。これは専門家でなければできません。私たちは医療行為の一部を担っているという認識なのです」(同)
さらに大事なのは、コリや痛みなどの背後に深刻な病気が隠れているケースがあり、それを治療の中で察知することだ。心ある有資格者は、もし気になる点があれば、すぐにしかるべき医療機関へと橋渡しする。そうした広い視野で治療にあたっているのである。
具体的な事例を挙げよう。
左上肢付近で感じる痛み。これは狭心症の前駆症状が考え得るという。また腰痛の背後には、子宮・卵巣、肺や胃、大腸、肝臓などのがんが隠れている場合も。
「痛みは何度か治療すればよくなることが多い。ただ、施術直後は改善されても、時間を経るとぶり返すということが何度も起きる場合は、他の病気が隠れている可能性を疑います。そういうときは病院を受診されることをお勧めしています。患者さんが受けるべき医療に速やかにたどり着ける手助けをする。それこそ私たちが一番大切にしているところです」(金子さん)
無資格者の開業を後押しするものとは
治療の対象となる不調は痛みやしびれにとどまらない。自律神経の乱れによる倦怠感、頭痛、食欲不振といった不定愁訴も、マッサージ師の施術を受けて改善することがある。
「現代人はストレスが多いからだと思うのですが、指圧・マッサージなどで心身を整えると症状が改善する方がいます。この点については、学術論文も出ています」(金子さん)
しかしここにきて、有資格者の専門性に関して一般の認識が薄くなっているとの危機感を金子さんは抱いている。その原因の一つがまさに、ちまたで見かけるリラクゼーション系施設の増加である。
「“○分○円”といった表示で開業するお店の中には無資格者が施術をしていることがあり、効果はそれなりだったりします。そういう経験をしてしまうと“マッサージって、この程度なんでしょ”とか“大したことないんじゃないの”という印象が残ります。そうした認識が広がっているせいか、“えっ、腰痛って指圧で治せるんですか”などと聞かれることもあって、残念ながらわれわれへの期待値が下がっている面があるのは否めないと感じます」(同)
リラクゼーション業は年々市場を拡大中だ。その契機となったのは、2014年に総務省の日本標準産業分類で「リラクゼーション業(手技を用いるもの)」が新設されたこと。
「時代は変わりましたね。それ以前は、国家資格を持たずにほぐしをやる人は遠慮がちに営業していました。ところが標準産業分類に新設されるや、ある意味、国からお墨付きを与えられたという認識を持ったのか、大手を振って仕事するようになったんですから」(同)
こうした無資格者の開業を半ば後押ししているのは、1960年に最高裁判所が示した判例だ。無資格者による手技などを用いた療術行為業について〈禁止罰則の対象となるのは、人の健康に害を及ぼす恐れのある業務に限局される〉と判示している。金子さんは「健康を害しなければOKだと解釈されているのではないか」と言う。
不適切な料金表示
さらにリラクゼーション業に追い風を吹かせ、マッサージ業には事実上“逆風”となっているのが、皮肉なことに法制度なのである。
国家資格者には「あん摩マッサージ指圧師」「はり師」「きゅう師」の頭文字を取った「あはき法」でいくつも縛りが設けられている。
たとえば広告。打ち出してはいけないのは、肩こり、腰痛といった適応症例。さらには「○○の治療」「○○の改善」「○○の予防」といった効果・効能の表現も御法度だ。SNSにおいても広告規制の対象となるため自由に広告することはゆるされない。「○回○円」「○分○円」などの料金表示も不適切とされる。
一方のリラクゼーション業にそうした法律はない。料金表示を堂々と掲げられるのもそのため。金子さんが驚愕(きょうがく)したのは10年ほど前、「60分2980円」というほぐしの広告を見たときだ。
「当時、私たちの業界の相場は60分6000円程度。とても太刀打ちできないと感じましたね。もし同じ額でやれというのなら、この仕事は続けられないと思いました」
金子さんの同業者にも客が減った例は後を絶たない。そこで在宅マッサージに活路を見いだすケースが出てきたそうだ。歩行が困難になったり、高齢で通院ができなかったりする人のため、出張してマッサージを施すという形態である。医師の同意書が必要だが、患者側は医療保険が使えて、施術者の側にも「往療料」、いわば足代が加算される。
「手術は避けたい」人に
それでも前途に不安を抱く有資格者は、リラクゼーション業に移る場合もあるという。金子さんの懸念は募るばかりだ。
「仕事が少ないとスキルが磨かれなくなることも深刻な問題です」
街では「接骨院」「整骨院」という看板も見かける。ここで腕を振るうのが柔道整復師だ。名称からはすぐに想起されないかもしれないが、保険治療できるのは「柔整師法」などを受けて五つと規定されている。骨折、脱臼、捻挫、打撲、挫傷(肉離れなど)である。
以前は、接骨院でも簡易のエックス線装置を設置でき、骨折や脱臼の状態をチェックしながらの治療が可能だった。
だが、1951年に制定された診療放射線技師法などにより、柔整師はエックス線撮影ができなくなる。仕事がやりづらくなったように見えたが、やはりここでも整形外科と連携しつつ、患者目線の治療が展開されているという。
柔整師にマッサージ師、鍼灸(しんきゅう)師の資格も持つ齋川栄司さん(30)が語る。
「接骨院は、骨を折ったけれど手術は避けたいと考える方には、骨折箇所を固定することによる保存療法を進める上でお力になれると考えます」
ただし、と続ける。
「骨折・脱臼はエックス線画像でケガの部位を見極めないと治療が難しいのは事実です。例えば骨折線が関節の内部に及んでいる関節内骨折の場合、治療の際に慎重に関節面を合わせないと、骨がくっついてもズレや段差が生じて関節を動かしにくくなることがあります。これはあくまで一例とはいえ、そうした後々の問題を避けることが何より重要です。そのため接骨院にいらした患者さんでもとりあえず患部を固定した上で、整形外科で撮影してもらいます」
信頼と連帯感
接骨院から日常的に患者の紹介を受けて連携を図っていると語るのは、東京城南整形外科の院長、米川正悟医師(44)である。WBC(ワールドベースボールクラシック)日本代表チームが優勝した2023年、そして今年もドクターとして同行した米川医師によると、例えば骨折の手術後、1〜2週間を経た頃からエックス線撮影をして骨の状態を見る。そうした確認作業を繰り返してやがてリハビリが必要になったとき、紹介元の接骨院で「後療法」をしてもらうという。そうすることで患者側の治療の満足度も高くなるからだ。
米川医師が言う。
「私がいくつかの接骨院の先生と連携しているのは、当院の患者さんはスポーツ選手が多く、もともと接骨院を利用しているケースが多いからかもしれません。私もスポーツの現場で選手を診ることがよくあるので、選手と柔整師、あるいはマッサージ師との信頼関係の強さを目の当たりにする機会が度々あります。“この施術者でなければ”という信頼、連帯感ですね」
ギプスなどの固定具が取れた後のリハビリは理学療法士が担うというイメージが強いが、先の齋川さんによれば、固定具などで固まった組織をほぐすのは柔整師の得意分野だそうだ。
柔整師による後療法と整形外科で理学療法士が行うリハビリに違いはあるのか。
齋川さんが「あまり違いはありません」と言うと、米川医師率いる東京城南整形外科のリハビリテーション科長で理学療法士の石井斉さん(50)は同意した。
「柔整師も理学療法士も、ケガのメカニズムなどをどう捉えるか、治療をする上で外せないポイントの見極めはだいたい同じです。従って、リハビリの仕方にそう大きな違いがないと考えていただいていいと思います。手技の細部を見ていくと、理学療法士の中でもリハビリの仕方が違ったりします。リスクに配慮しながら、さまざまな方法論でアプローチすることは共通していると考えます」
開業時間もポイント
理学療法士としては、身体のメカニズムを専門的に学んだ柔整師であれば、取り扱いにデリケートさが要求される症例でも連携を取りやすいという。
一例が成長期に発症する腰椎分離症、つまり腰椎の疲労骨折だ。野球のバットやゴルフクラブを勢いよく振ると、腰椎が可動域を超えて回ってしまい、腰椎分離症になることがある。この疾患はエックス線だけでは発見が難しく、CTやMRIでようやく見つかる。
「柔整師ならば施術しているうちにおかしいと感知できるので、整形外科に連絡をいただくこともあります。治療は保存的に(注・手術をせずに)行うことも多いのですが、中には接骨院に患者さんを戻して後療法をお願いすることも。“こういう運動は危険”といったリスクも理解されているので、安心してお任せできるのです」(石井さん)
齋川さんによれば、接骨院は土曜や日曜、あるいは夜遅くでも開業していたりするため、患者の側にとっては後療法を受けやすいメリットがあるという。
「お住まいの近くに病院やクリニックがない人もいるでしょう。また、あっても理学療法士がいないクリニックも見られます。お仕事の都合で時間が合わない。そうした場合、後療法については担当医師と綿密な連携を取りながら、ご自宅の近くの接骨院でお世話になることをお勧めしたいですね」(齋川さん)
米川医師は、いいマッサージ師や柔整師は、患者を抱え込もうとしないものだと指摘する。
「治りが悪いのに自身の元において漫然と治療を続けるのはいただけません。画像診断が必要だと感じたら整形外科の受診を勧める施術者や、金子さんがおっしゃるように内科的な疾患が疑われるときにしかるべきドクターへつなぐ施術者が理想だと思います」
「グレーゾーン」の解消
米川医師によれば、施術にあたって個々の患者と深い意思疎通ができている施術者となら、より「密」な連携が望めるという。
「整形外科では、診察の時間的制約でゆっくり話せないこともありますので、患者さんをよく知るマッサージ師や柔整師のみなさんからの情報は貴重です。双方で補完し合って患者さんをサポートしていけたらという思いを日々強めています。結果的に患者さんが“良くなれば”いいのですから」
また、国家資格者ができる仕事と巷間のリラクゼーション業のそれとの間に横たわる「グレーゾーン」の解消も急がれる。金子さんはこう提案する。
「リラクゼーション業はあっていいと思います。短時間でそれなりにすっきりしたいという方もいらっしゃいますから。しかし業界の平等性を保つためにも、何より安全のためにも『あはき法』や『柔整師法』並みの法律をリラクゼーション業にも手当てする必要があると思います」
看板の背後にある仕組み、成り立ち。それを理解せずして健康は守れない。
金子泰隆
1978年生まれ。あん摩マッサージ指圧師。学校法人浪越学園日本指圧専門学校理事長補佐。
齋川栄司
1995年生まれ。柔道整復師。鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の資格も持つ。
石井 斉
1975年生まれ。理学療法士。日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー。
米川正悟
1981年生まれ。東京城南整形外科院長。2023、26年WBC日本代表チームドクター。
西所正道(にしどころまさみち)
ノンフィクション・ライター。1961年奈良県生まれ。京都外国語大学卒業。著書に『東京五輪の残像』『「上海東亜同文書院」風雲録』『絵描き 中島潔 地獄絵1000日』など。
「週刊新潮」2026年4月2日号 掲載
