(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

家族が集まる連休は、本来は楽しみな時間のはずです。とりわけ孫の帰省は喜びも大きい一方で、滞在が長期化すると高齢世帯の家計や生活リズムに負担が生じることがあります。総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯は可処分所得が月22.1万円に対し、消費支出は26.4万円と平均的に赤字です。そこに臨時の支出が重なれば、負担は想像以上に大きくなります。

「孫に会いたい」はずが…長期滞在が老後家計を揺るがす

「正直に言うと、連休が近づくと少し身構えてしまうんです」

そう話すのは、和夫さん(仮名・66歳)と妻の奈美子さん(仮名・64歳)です。夫婦の年金収入は月約26万円。退職金とこれまでの蓄えを合わせ、貯金は約1,400万円あります。持ち家で住宅ローンは完済しており、「ぜいたくをしなければ問題なく暮らせる」と考えていました。

問題は、数年前から恒例になった長男家族帰省でした。長男夫婦と小学生の子ども2人が、ゴールデンウィークや夏休みに1週間ほど滞在するようになったのです。

「最初は本当に楽しみでした。家がにぎやかになるし、孫と過ごす時間も貴重ですから」

しかし、回数を重ねるうちに、少しずつ変化が生まれました。

「1日2日ならいいんです。でも1週間となると、生活が完全に変わってしまう」

朝食の準備から始まり、昼食、夕食。子どもたちの好みに合わせた食事、間食、おやつ。食費は普段の倍近くに膨らみました。さらに外出すれば、レジャー費や外食費も重なります。

「“たまにだから”と思っていましたけど、年に何度もあると積み重なります」

加えて、光熱費の増加も無視できませんでした。エアコンはつけっぱなし、風呂の回数も増え、水道代も上がる。細かな負担が確実に積み上がっていったといいます。

「大きな出費じゃないんです。でも、全部合わせると結構な金額になる」

実際ある年の夏休み後に家計を見直したところ、1回の帰省で5万円近く支出が増えていたことが分かりました。

さらに負担は、お金だけではありませんでした。

「孫はかわいいんです。でも、ずっと気を張っている感じで、終わるとどっと疲れるんです」

夜中に目を覚まさないか、けがをしないか、食事は足りているか。子育ての頃の緊張感が、再び戻ってきたようだったといいます。

言い出せなかった本音と“線引き”の必要性

問題をより複雑にしていたのは、「断りにくさ」でした。

「息子たちは“帰ってきていい?”と聞いてきますけど、“ダメ”とは言えないですよね」

長男夫婦にも事情がありました。共働きで日常的に忙しく、長期休暇くらいは実家でゆっくり過ごしたいという思いも理解できます。

厚生労働省『2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況』でも、子育て世帯の64.3%が生活を「苦しい」と感じており、親世代に頼りたい背景があることも示されています。

「向こうも大変なのは分かるんです。だからこそ、余計に言いづらくて」

しかし、ある連休のあと、奈美子さんは通帳を見てため息をつきました。

「このまま続いたら、自分たちの老後が先に苦しくなるかもしれない」

その言葉をきっかけに、夫婦は初めて真剣に話し合いました。

「歓迎する気持ちは変わらない。でも、このままの形で続けるのは無理がある」

悩んだ末、次の連休前に長男夫婦へ伝えることにしました。

「来るのはうれしい。でも、日数を少し短くできないか。それと、食費や外出費は一部負担してほしい」

伝えるのは簡単ではありませんでした。関係がぎくしゃくするのではないかという不安もありました。しかし、長男の反応は予想と少し違っていたといいます。

「“そこまで負担になっているとは思っていなかった”と言われました」

これまで「大丈夫」「気にしないで」と言ってきたことが、結果として“問題ない状態”だと受け取られていたのです。話し合いの結果、帰省は「3泊4日程度」に短縮し、食費やレジャー費は折半する形に見直されました。

「全部を断ったわけではありません。でも、“無制限に受け入れる”状態は終わりにしました」

その後も孫たちは遊びに来ています。ただし、以前のような長期滞在ではなく、互いに無理のない範囲での交流に変わりました。

「今のほうが、純粋に楽しめるようになった気がします」

高齢期の家計は、日常の延長で崩れていきます。家族のための出費や労力は善意から生まれるものですが、それが続けば負担に変わります。

「助けたい気持ちはあります。でも、自分たちの生活も守らないといけない」

それはごく当たり前のことでありながら、多くの人が口にしにくい本音でもあります。

家族だからこそ遠慮が生まれ、境界が曖昧になる。だからこそ、“どこまでなら続けられるか”を言葉にすることが、関係を長く保つために必要なのかもしれません。