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有名デザイナーが手がけた子ども用の椅子は、「美術作品」として著作権の保護を受けるのか──。

家具など実用品のデザインをどこまで著作権で守れるかが争われた訴訟で、最高裁が4月24日、判断を示す見通しとなった。

この訴訟は、ノルウェーのメーカー「ストッケ」が、兵庫県の子ども用家具メーカー「Noz」を相手取り、販売差し止めなどを求めているものだ。

Noz社が販売する子ども用椅子が、著名家具デザイナーであるピーター・オプスヴィック氏がデザインし、ストッケ社が販売する「トリップ・トラップ」に類似しているとして、著作権侵害などにあたると主張している。

これまでの訴訟では、知財高裁が2024年9月、ストッケ社の請求を退けている。最高裁であらためて、実用品のデザインがどこまで法的に保護されるのか、プロダクトデザインの「創作性」や商品形態の保護範囲があらためて問われる。

この訴訟のポイントについて、知的財産権にくわしい唐津真美弁護士に聞いた。

●家具のデザインは原則、意匠法で保護

──通常、著名デザイナーが手がけた家具は、どのような法的枠組みで保護されるのでしょうか。

実用品である家具のデザインは、まず意匠法で保護するのが基本です。見た目のデザインを特許庁に出願・登録することで、最長25年の独占権が与えられる制度です。

工業製品の形は市場で広く利用されるため、手続きを通じて新規性や独自性を確認し、一定期間に限って保護するのが筋だ、という発想です。

次に、不正競争防止法があります。長年にわたり同じ形を独占的に使用し、強い宣伝や販売実績によって、その形そのものが「◯◯社のものだ」と認識されるまで育つと、その形をまねて混同を招く行為は差し止められることがあります。

裁判では、(1)他にない特別な目立つ特徴があるか、(2)その形が広く知られているか、の2点が判断の柱になります。

著作権もはたらく場合がありますが、本来、著作権は絵画や音楽など「鑑賞する作品」を保護する仕組みです。家具は実用品なので、著作権で保護するにはハードルがあります。実用の都合から生まれた形にすぎない場合は、著作権では保護されにくいのです。

なお、実用品の形(立体)を立体商標として登録するためのハードルはかなり高いのですが、長年の独占的な使い方で「この形=あの会社」という目印として全国的に知られたと証明できたような場合は、登録できる可能性はあります。代表例が、コカ・コーラのガラス瓶です。

●著作物として保護できるか、割れた判決

──今回のケースで、知財高裁は著作権侵害をどう判断したのでしょうか。

この裁判では、「トリップ・トラップ」(本件椅子)の形が著作権で保護されるかが争われました。

本件椅子と類似するデザインについては、以前にも裁判で争われたことがあります。2015年の知財高裁判決(「TRIPP TRAPP II 事件」)です。

このときの裁判所は、実用品自体が応用美術である場合、実用的な機能に係る部分とそれ以外の部分とを分けることは相当に困難を伴うことが多いと述べました。実用品のデザインでも作者の個性が表れていれば「美術の著作物」として守られうるという考え方を示し、本件椅子のデザインには「著作権上の保護に値する創作性がある」と認めました。

ただし、相手製品は見た目が似ている点があっても脚の構造などに大きな違いがあり、本件椅子の著作物としての「本質的な特徴」を直接感じ取れるほどではないとして、著作権侵害は否定しました。

一方、今回の知財高裁判決(2024年)は、まず「実用品のデザインをどこまで著作権で守るか」は意匠法との役割分担に配慮して考えるべきだと述べました。実用的な機能から独立して、美として鑑賞できる部分が認められる場合に限って著作権の対象になる、という考え方を採っています(応用美術の「分離可能性」基準)。

そのうえで、本件椅子の特徴(左右の2本脚、L字状の側面、側板の溝にはめ込む座板・足置板)を丁寧に取り上げましたが、これらはいずれも高さ調整が可能な子ども用椅子としての機能を実現するための選択であり、機能から切り離して独立に鑑賞の対象にできる部分とは言いにくいと判断し、著作物としての保護(著作物性)を否定しました。

また、仮に著作物だとしても、被告側の椅子は直線よりも曲線要素が目立ち、座板等の支持に複数部材を用いるなど、全体の印象が異なるとして、本件椅子の著作物としての「本質的な特徴」を直接感じ取れるほどではないと述べました。いずれにせよ著作権侵害は成立しないという結論です。

なお、不正競争防止法についても、「特別な目立つ特徴」や「周知性」を一定程度肯定しましたが、最終的には被告製品との「類似」を否定して、差し止めは認めませんでした。ここでも、直線的でシャープな印象という原告製品の要素に対し、被告製品の曲線的で部材が複数の構成は全体として異なる印象だと評価されています。

実務的には、「機能のための形」は著作権では守りにくいこと、そして形をブランドとして守る不正競争防止法の道も、商品等表示の特定の仕方と類否の当てはめがシビアであることが再確認されたと言えます。

●最高裁の判断は企業のデザイン戦略に影響

──最高裁ではどのような点が争点となりそうでしょうか。

先ほども述べたように、この事件の背景には、同一の椅子について著作物性を認めた判決と否定した判決がある、という「評価のズレ」があります。

最高裁では、このズレを踏まえ、応用美術をどこまで著作権で保護するのかについて、大きな基準が示される可能性があります。

具体的には、(1)分離可能性(機能と美の切り離し)を中核に据えるのか、(2)創作性の有無を他の著作物と同様に判断(非区別説)するのか、(3)意匠法との役割分担(制度のすみ分け)をどの程度正面から位置づけるのか、といった点が主な争点になる可能性があると考えています。

また、不正競争防止法の観点からは、形そのものが「商品等表示」になりうる条件や、「類似」判断の具体的な見方がどこまで整理されるかが注目点です。

とくに、全体観察で似ているかをみる際、機能部分の比重やデザインの直線性・曲線性といった印象の要素をどう評価するかという指針がより明確化される可能性があります。

最高裁の判断は、企業のデザイン戦略にも大きな影響を与えるでしょう。

現時点でも、実用品のデザインを守るには、第一に意匠登録、第二に不正競争防止法(形そのものがブランド化した場合)、第三に限定的な著作権と、多層的に考えるのが基本戦略だといえます。

今回の最高裁の判断によって、応用美術の判断の枠組みと不競法の類否の見方が整理されれば、企業はより計画的に、自社デザインの多層的な防衛を設計できるようになるでしょう。

【取材協力弁護士】
唐津 真美(からつ・まみ)弁護士
弁護士・ニューヨーク州弁護士。アート・メディア・エンターテイメント業界の企業法務全般を主に取り扱う。特に著作権・商標権等の知的財産権及び国内外の契約交渉に関するアドバイス、執筆、講演多数。文化審議会著作権分科会の委員も務める。
事務所名:高樹町法律事務所
事務所URL:https://takagicho.com/