フランスは大企業ですら「10時出社、昼休み2時間、18時退社」労働時間が短い国だが…世界最大級のコンサル“マッキンゼー”パリ支店で最速昇進した同僚が漏らした「仕事への後悔」
朝10時頃出社し、昼休みをたっぷり2時間取り、夕方18時前にはオフィスを後にする――。日本人から見れば、いつ仕事をしているのかと疑いたくなるような光景が、フランスでは日常です。週末のメールはマナー違反、夏休みは最低2週間。そんなフランス流の働き方は、単なる怠惰ではなく、人生の主導権を仕事に渡さないという強固な哲学に支えられていました。本記事では、元マッキンゼー・パリ社員で現OECD職員の星歩氏が、著書『世界基準の仕事術』(大和出版)より、仕事と幸せの本当の関係を考えます。
10時出社、昼休み2時間、18時退社…労働時間が短いフランス
フランスは、ヨーロッパの中でも特に労働時間が短い国として知られています。年間の有給休暇はおよそ30日。夏のバカンスは最低でも2週間、多い人では4週間も休みを取ります。
法律で定められている労働時間は週35時間、つまり1日7時間労働。昼休みは2時間取る、または昼休みを1時間取る代わりに、17時に退社することも勤務先によっては可能です。また、勤務間インターバル(勤務終了から次の勤務開始までに必要な休息時間)は連続11時間以上と定められており、毎日休息を取ることが義務付けられています。
フランスの大企業ロレアルで働く中国人の友人から、こんな話を聞きました。朝9時に出社しても、同僚の多くはまだ来ておらず、9時半から10時頃に集まり始めるそうです。まずはコーヒータイムで一息。12時には昼休みになり、午後の仕事は14時から再開。16時ごろには再びコーヒーブレイクがあり、18時前にはほとんどの人が退社するとのこと。
あるとき、その友人はフランス人のマネージャーと会議を設定しようとしました。ところが、そのマネージャーのカレンダーはびっしり埋まっており、唯一空いていたのが「昼休みの2時間」だけ。
仕方なく30分だけ昼休みの時間に会議を入れたところ、そのフランス人のマネージャーから怒られてしまったそうです。「昼休みに会議を入れるなんてあり得ない」と。そのマネージャーにとって、昼休みは大事な「休み時間」なのです。
週末に仕事を持ち込むのはマナー違反
日本では考えられない話かもしれません。多くの人が「昼休みより仕事を優先する」のが当たり前とされ、「仕事が第一」という価値観が社会全体に深く根づいています。
しかし、フランスでは事情が異なります。フランスの多くの人が、休み時間をとても大切にしています。昼休みは同僚とレストランで一緒にランチを取るのが一般的で、コーヒーブレイクも多くの人が毎日ちゃんと取ります。
週末に仕事のメールを送るなんてもってのほか。週末は「自分と家族の時間」であり、そこに仕事を持ち込むのはマナー違反なのです。フランスではプライベートと仕事をきっちり分ける文化が根付いており、同僚と週末に会うことはほとんどありません。同僚は「職場の仲間」であって「友人」ではありません。
多忙なマッキンゼー・パリでも、バカンスはしっかり
マッキンゼー・パリオフィスでは、もちろん平日は1日7時間で終わることはほぼ皆無ですが、バカンスはしっかり取ります。
実際、オフィスそのものが閉まります。夏は3週間(推奨は4週間)、冬は1週間(推奨は2週間)。その期間は強制的に有給休暇を取る仕組みになっており、誰もが長期休暇を取ることになります。
オフィスそのものが閉まる、つまり全員が同じ時期に長期休暇を取るので、バカンスの期間に仕事のメールが来ることもありません。その期間は、「完全なオフ」が可能なのです。
マッキンゼーで、誰よりも早くエンゲージメント・マネージャーに昇進した同僚がいました。誰よりも早く昇進した彼を見て、私はてっきり何もかもうまくいっているのだろうと思い込んでいました。
しかし、彼の口から出た言葉は、私の予想とはまったく異なるものでした。彼は仕事以外のすべてを犠牲にしてきたのです。恋人との関係は悪化し、プライベートの時間は土日以外ほぼなし。この先ここに居続けることはないと、もう心に決めていました。必ずしも仕事での成功が幸せをもたらすわけではありません。人それぞれ仕事の重みは違いますが、人生は仕事だけではないのだと感じた出来事でした。
年金改革によるデモで可視化された、仏国民と政府のギャップ
フランスの年金改革も衝撃を受けた一件でした。フランスの年金制度は長年にわたり財政的な持続可能性が問題になってきました。現行制度では、年金の受給開始年齢は62歳と、他の先進国と比べても比較的低い水準にあります。
こうした状況を受け、2023年にフランス政府は、年金の受給開始年齢を62歳から64歳へ引き上げることを柱とした大規模な年金改革法を成立させました。しかしこの決定は、国民の強い反発を招きました。全国各地で抗議行動が広がり、デモの参加者は100万人規模に。今でも覚えています。
地下鉄は運休し、街には回収されないゴミがあふれ、社会全体に国民の怒りと不満が噴き出していました。この混乱により政権の求心力は大きく低下し、政治は不安定化しました。そして2025年には、政府は年金改革の実施を一時停止せざるを得なくなります。
この一連の出来事は、「これ以上長く働きたくない」というフランス国民の主張と、政府の改革方針との間にある大きなギャップを象徴するものでした。
このように、フランスでは「仕事は人生の一部」であり、「人生のすべて」ではありません。仕事はあくまで生活のための手段であり、できるだけ効率的に終わらせ、自分の時間を大切にする、それがごく自然な考え方です。
星 歩
元マッキンゼーパリ・現OECD職員
