けわしい山道を疾走する「トレラン」に脚光! 世界大会3位のトップ選手が「勝負の明暗を分けるほど重要」と語る“意外な2文字”
日本のトレイルランニングを牽引するトレイルランナー、秋山穂乃果選手。2月14日にニュージーランドで開催された世界大会「Tarawera Ultra-Trail by UTMB」の102km(T102)女性の部で3位入賞という快挙を成し遂げ、今年6月にはアメリカで開催される世界大会にも出場が決まっている。
現在、日本でも競技人口が増加傾向にあるトレイルランニングだが、まだまだどんなスポーツなのか知らない人も多いことだろう。世界に挑戦し続ける秋山選手に、日々のルーティーンから練習の仕方まで話を聞いた。【取材・文=山内貴範】
【写真】2025年に行われた世界選手権での秋山穂乃果選手の走行風景
バランスの良い食事と体のケアは基本
――日常生活の中で食事など、気を付けることはあるのでしょうか。

秋山:日頃の生活は、三食バランスよくとるのが大事です。バランスよい食事をとっていると、大変な運動をしても筋肉痛が起きにくいんですよ。野菜、タンパク質、炭水化物は満遍なく、毎食とる。飲み会は好きなのですが、独立してからはほとんど行っていなくて、お酒も飲んでいませんね。
体のケアも大切です。ケガがつきものの競技なので、足首や太もも、ふくらはぎのストレッチだけで、1日1〜2時間はやっています。山道を走っていると膝やアキレス腱に負担がかかるし、下りは関節に負荷がかかりやすいのです。
あと、トレイルランニングの大会では、終盤は1人で走り続けることも少なくない。時には幻覚のようなものを見ることもありますし、黙々と走るのは精神的にもきついものがありますから、メンタルトレーニングは欠かせませんね。
――秋山さんはヨガのインストラクターもやっているそうですが、それも競技のためなのですか。
秋山:ヨガ教室では、生徒さんに体の使い方を教えながら、自分自身も勉強しています。例えば、骨盤の傾きが変わるだけで、上りで使う筋肉が変わってくるのです。ヨガは筋肉の使い方を学ぶうえで最適なんですよ。
あと、まだまだトレイルランニングはメジャーなスポーツではありません。プロと言っても食べられるほどの収入はないので、インストラクターで収入を確保する意図もあります。先日、Chat GPTに「自分はプロと名乗っていいのかな」と聞いたら、「賞金と契約金をもらっていたらプロです」と言われました(笑)。
――日常のルーティーンはどうなっているのでしょう。
秋山:ヨガの仕事が遅番の時は13時30分から22時30分までのシフトなので、帰宅するのは23時になります。そこからご飯を食べて、24時30分には寝ます。次の日は7時に起きてストレッチを始め、8時までご飯を食べる。そして、13時30分の出勤まで、ひたすら山を走りに行きます。走り終わったら、出勤の準備をする感じですね。
ちなみに、日々の練習メニューはコーチから送られてくるので、それに合わせて行動することもあります。午前中から走っていると、昼にめちゃくちゃ眠くなってくるのですが、敢えてカフェインを断つようにしていたら、夜にベッドに入った瞬間に眠れるようになりました。現在では、不眠に悩まされることはなくなりましたね。
補給の失敗はその後に響く
――トレイルランニングで面白いなと思ったのが、食料を食べながら歩き続ける“補給”ですね。トレイルランナーにとっては欠かせないのだとか。
秋山:補給は、勝負の明暗を分けるほど重要です。というのも、補給で失敗したら、どんなに強い選手でもその後に失速してしまったり、足が攣ったり、動けなくなってしまうからです。走力を鍛えるのと同じくらい大事ですね。自分の胃腸にはどんな食料が合っているのか、研究しないといけません。
私は、ニュージーランドの「ピュア」というジェルがお気に入り。1個40gなので荷物があまり重くなりませんし、防腐剤も入っていないので魅力的です。ネットでしか買えないのが残念ですね。
――日本は国土の7割が森林ですし、トレイルランニングの大会も開催しやすい環境ですから、今後ますます盛り上がる可能性があります。競技人口を増やすために取り組んでいることはありますか。
秋山:まだまだ、山小屋のスタッフの中には、トレイルランナーに対して視線が厳しい人も少なくありません。というのも、装備不足のまま山に入り、遭難する方がいて、夜に救助を要請されることがあるためです。まずはトレイルランナーの一人一人が競技のイメージを高めるため、装備を万全にして取り組むことが大事です。
あと、それぞれの山のルールもありますよね。夜中に山頂に着く計画を立てたりすると、快く思われないこともあります。日本でトレイルランニングを普及させるためには、登山家のみなさんや山小屋の関係者との相互理解や、共存が必要だと思います。そのためにも、競技を行う傍らで啓発活動も行っています。
トレイルランニングのファンを増やしたい
――秋山さんが考える、トレイルランニングの魅力はなんですか。
秋山:仕事をしていて時間がない人でも、走れば1〜2泊の行程を日帰りできるんですよ。山の景色が見たいけれど十分な時間がとれない、という人にもおすすめできます。基礎体力は必要になりますが、筋トレが好きな人や、日々走る経験がない人にもおすすめです。
――秋山さん自身が、メディアで取り上げられる機会も増えていますね。
秋山:山岳遭難救助隊を経験した経歴はマスコミの皆さんに注目されやすいのか、取材の依頼は多いですね。でも、最初の頃は肩書きのおかげで注目されていると思い、しっかりと実績を出せるように努力しようという気持ちになりました。
私の実力はまだまだですが、今は自信をもって努力しているといえるので、結果を出せるように頑張っていきたいと思っています。
――トレイルランニングのファンを増やしたいという思いはありますか。
秋山:もちろんです。ただ、いったい何から始めていいのか、わからない方も多いと思います。最低限の持ち物をリスト化して提示したり、山のルールを守るよう呼びかけたり、Instagramに積極的に写真を載せて、競技の様々な話題を伝えるように努力しています。
発信は苦手でしたが、反響も多くなり、いろいろな方と魅力を共有したいと思うようになりました。
――ありがとうございました。最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
秋山:私の一番の目標は世界大会で優勝し、世界一になることです。そのために頑張っていますので、応援よろしくお願いいたします。
第1回【「報道カメラマン」「山岳救助隊」を経て「トレイルランニング」のトップ選手に 「秋山穂乃果」が語る過酷なレース事情「大事なのは命が一番ということ」】では、トレイルランニング日本代表の秋山穂乃果選手に、現在に至るまでの経緯や、女子3位という快挙を成し遂げた「Tarawera Ultra-Trail by UTMB」の様子などについて伺っています。
ライター・山内貴範
デイリー新潮編集部
