WBCの裏で進むMLB争奪戦 スカウトが語る「次のメジャー候補」
第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は熱戦が続いたが、2度目の連覇を狙った侍ジャパンは準々決勝でベネズエラに5対8で敗れ、大会を去った。大会が始まった当初はレギュラーシーズン開幕前の開催という事情もあり、メジャーのトップ選手には出場辞退が目立ち、世界一を決める大会として相応しくないという声が聞かれた。しかし今大会はメジャーの主力選手が数多く参戦し、大会としての盛り上がりは十分だったと言える。【西尾典文/野球ライター】
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奪三振能力の高さは大きな武器
そんな大会の裏で、もう一つの戦いが水面下で進んでいた。メジャー球団による日本人選手の争奪戦である。

前回大会に出場した山本由伸(オリックス→ドジャース)、今永昇太(DeNA→カブス)、佐々木朗希(ロッテ→ドジャース)の3人がすでにメジャーでプレーしており、このオフには岡本和真(巨人→ブルージェイズ)と村上宗隆(ヤクルト→ホワイトソックス)の移籍が決まった。今大会では日本プールに合わせて多くのメジャー関係者が来日しており、有力選手については水面下で調査に動いている球団があるという。
では、今大会でメジャー球団の評価を上げた選手は誰だったのか。日本担当のスカウトに話を聞くと、真っ先に名前が挙がったのが種市篤暉(ロッテ)だった。
「素晴らしかったのは種市篤暉ですね。短いイニングでの登板という事情があったと思いますが、ストレートのスピードは(NPBでプレーしている)日本代表投手の中でもトップクラスでした。加えてフォークも素晴らしい。同じく速いストレートとフォークを武器にしている千賀滉大(メッツ)と比べても遜色ないレベルにあります。絶対的な決め球があるという強みがあるので、このオフに移籍となれば今年からメジャーでプレーする今井達也(アストロズ)より高く評価される可能性があります」(メジャー球団の日本担当スカウト)
種市は敗れたベネズエラ戦で自らの牽制悪送球によって1点を失った。それでも今大会では3試合、4回を投げて被安打1、四死球0、7奪三振という圧巻の投球を見せている。シーズン通算成績は37勝31敗と圧倒的な数字ではないものの、奪三振能力の高さは大きな武器であり、その点が高く評価されそうだ。
順調に結果を残し続ければ
種市以外では、昨年の沢村賞投手である伊藤大海(日本ハム)、5年連続で規定投球回に到達している宮城大弥(オリックス)ら実績十分の投手が並ぶ。ただ、この2人以上に注目を集めている選手がいるという。
「種市以外では高橋宏斗(中日)の評価が高くなりそうですね。昨シーズンは少し成績を落としていましたが、ボールの力はやはり申し分ありません。種市と同様にスプリットという落ちるボールの決め球があることも大きいです。前回大会でも投げていたのでMLBでもすでに名前は知られており、移籍市場に出てきた場合は調査する球団がかなり増えると思います」(前出のメジャー球団スカウト)
MLBでは25歳未満の外国人選手には契約金の低いマイナー契約しか結べないルールがあるため、今年24歳の高橋がオフに移籍する可能性は低そうだ。ただ、このまま順調に結果を残し続ければ、2027年オフには移籍市場の目玉となることが期待できる。
一方の野手では、昨年セ・リーグでMVPに輝いた佐藤輝明(阪神)の名前が挙がる。
「日本プールでは代打での出場が多かったですが、打撃練習を見るとNPB選手の中でもトップクラスのパワーがあります。大谷翔平とまでは言わなくても、鈴木誠也や同じ左打者の吉田正尚と比べても遜色のないレベルだと思います。大きいのは複数のポジションを守れる点ですね。外野だけでなくサードも守れるというのは、チーム編成の面でも獲得しやすい条件になる。今年オフに移籍となれば岡本和真や村上宗隆と最低でも同程度、守備力を考えればそれ以上の条件になる可能性があります」(前出のメジャー球団スカウト)
WBCはショーケース
佐藤は今大会、ホームランこそ出なかったが、放ったヒット3本はすべてツーベースとなり、持ち味の打力を発揮した。守備面では昨年サードでリーグトップの守備率を記録し、初のゴールデングラブ賞に輝いている。契約更改ではポスティングシステムによる移籍を訴えたとも報じられており、今年も同様の成績を残せば海を渡る可能性は高い。
日本人選手のメジャー移籍に対して否定的な意見はいまだにある。しかし昨年のワールドシリーズでは大谷、山本、佐々木が大活躍を見せてドジャースを優勝に導き、日本人選手の価値を改めて示した。そう考えると今回のWBCは単なる国際大会にとどまらず、メジャー球団にとって日本人選手を見極める“ショーケース”としての意味合いが強かったと言える。今大会で評価を上げた選手たちの動向には、今後も大きな注目が集まりそうだ。
西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。
デイリー新潮編集部
